軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

責任と覚悟

『すみません、シャーロット様。招待したのはいいですが、大したおもてなしもできず。実はこのバリアント城はこの春に向けて急造しただけのものでして』

『……そうなのですね。ところで、また質問してもいいでしょうか?』

『なんでしょうか、シャーロット様?』

『城の門のそばに立っているあの門番はいったい? ……もしかして、あれは動くのですか?』

『もちろんですよ。門番ですからね』

『……そうですか。動くのですね。ということは、あれは魔装兵器、なのでしょうか?』

『ええ。かっこいいでしょう? アトモスの戦士であるタナトスが鬼鎧を着て如意竜棍を持つ姿を参考に作ったんですよ』

『アトモスの戦士を参考に魔装兵器を作った? で、でも、それなら動けないのではないのですか? 我が国ではあの大きさの魔装兵器は実用的ではないと結論付けられて、あれよりも小さい規格になったのですが』

『動きますよ。お見せしましょうか?』

空に浮かんだバリアント城。

そこに着いて、お城に入る前に再び聞かねばならない事柄が見つかりました。

私が見たこともない魔装兵器についてです。

アルスが言うにはアトモスの戦士を参考にして作られたようです。

……作った?

何を?

魔装兵器を?

あれはブリリア魔導国が長年の研究によってようやく作り出した魔道具であり、それを作れるのはアトモスの里で精霊石を採掘することができる私たちだけのはず。

だというのに、それを作ったというのですか。

どうやって?

材料の精霊石はどこから?

もしかして、こちらと取引して手に入れた魔装兵器の核を再利用したのでしょうか?

でも、それでも腑に落ちません。

あの魔装兵器に使用された魔法陣は複雑な暗号化が施されているのです。

それを解読して再現するなど考えられません。

ですが、私の疑問を一笑に付すかのように、バリアント城にある魔装兵器が動くさまを見せつけられました。

我々の魔装兵器よりも大きく、人間に限りなく近い構造をしていて、しかも、人間のように動く。

その手に持つ巨大で長い棍を自由自在に使っているために、攻撃範囲もこちらの魔装兵器を超えているのではないでしょうか。

……どうしましょう。

私の失敗です。

かつてバルカに連れていかれて交渉を持ちかけられたあの時に、命に代えてもアルスとの取引を拒否すべきだったのかもしれません。

バルカに何一つ魔道具らしきものがなかったからこそ、取引に応じたというのに。

それが、こんな僅かな時間であっという間にこちらよりも優れた魔道具を作ることを許してしまった。

後悔だけが私の頭の中で広がっていく。

全身から体温が失われていき、冷や汗が体を冷たく濡らしていく。

呼吸も浅く、速くなってしまい、苦しい。

どうしよう、どうしたらいいの?

考えただけでも恐ろしい。

もしも、このバルカ式魔装兵器を持った魔導飛行船が国を襲ってきたらどう対抗すればいいのだろうか。

王族であればこの新型魔装兵器であっても戦えるでしょう。

ですが、ほかの皆があれと戦うことなど不可能でしょう。

それは我々の使用する従来の魔装兵器の使用実験でも証明されています。

一般兵があれと戦うのは不可能なのです。

魔法があればなんとかなるでしょうか?

アルスとの取引で手に入れた、名付けの魔法陣を使えばだれでも使用可能になる魔法さえあれば抵抗は可能でしょうか。

いえ、難しいでしょうね。

あれは魔法が使えると言っても、攻撃魔法の種類が限られています。

【氷槍】や【散弾】では魔装兵器は倒せない。

【氷精召喚】であればなんとかなるかもしれませんが、魔力量が一定値を超えない限り【氷精召喚】は使用できないことも分かっています。

ならば、魔装兵器が使われる前に対処するのはどうでしょうか?

例えば、魔導飛行船が空を飛んでいるのを発見し次第、撃墜するというのはどうでしょう。

いえ、それも難しいでしょうね。

それをするなら常に空を監視し、しかも、発見次第すぐに攻撃を加えなければなりません。

あの魔導飛行船の移動速度を考えると、少し攻撃が遅れただけでもあっという間に離れてしまうからです。

ですが、そのような攻撃が可能なのでしょうか?

魔導飛行船は移動中ものすごい高さを飛んでいたのです。

それを攻撃ができるならむしろ魔装兵器の相手もできそうな気がします。

駄目ですね。

全く対抗手段が思い当たりません。

申し訳ありません、お父様。

シャーロットは大きな罪を犯してしまいました。

彼を未開地に住む蛮族と同じように心のどこかで考えていたのかもしれません。

かつて霊峰の向こう側へと追放された犯罪者たちの末裔である、と。

『…………シャーロット様? 大丈夫ですか? 先程から顔色が悪いですし、心ここにあらずといった感じですが』

『え、ええ、大丈夫です。あれ? ここは?』

『ここはって、バリアント城の中ですよ。城の中を案内して今はこうして休憩中ですけど、本当に大丈夫ですか?』

『ごめんなさい。少し考え事をしていたもので。気を悪くなさらないでください』

『いえ、大丈夫なのであればそれでもいいのです。で、先程も言いましたが、どうでしょうか? もう一度本気で考えてほしいのですが』

『考える? なにをですか?』

『だから、私の弟のカイルとの結婚ですよ。聡明なシャーロット様とカイルはお似合いだと思うんですよね。カイルは優しいですし、よく気も利くし、我が弟ながらこれ以上ない人物ですよ。どうでしょう?』

カイルと結婚?

アルスの弟。

前に会ったことがあります。

確かに、優しくていい人でした。

それに話す内容からも優秀なことは伝わってきましたし、アルスの仕事をよく助けて、バルカに連れ去られた私のことをアルスに抗議もしてくれていました。

アルスとは良好な関係を続けていかなければならない。

少なくとも、名付けの魔法陣の継承の秘密と魔導飛行船や新型魔装兵器、あるいは天空の城についての情報とそれらへの対策を得るだけの時間が我が国には必要です。

……失態を挽回する最後の機会、なのかもしれません。

私のために、今、ブリリア魔導国は大きな危機を迎えている。

それに対処するためには、命を投げ出す覚悟が王族である私には必要です。

命を投げ出す。

それは言い換えると、私自身のすべてを賭ける必要があるのでしょう。

思わず頬に涙が流れ落ちました。

その涙が彼に見られないように顔を俯けながら、私は彼の提案に首を縦に振ったのでした。