軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恐怖するシャーロット様

『ちょ、ちょっと……。これは本当に大丈夫なのですよね? お、落ちたりしないですよね。ね、ちゃんと私の目を見て約束してください。絶対に落ちないと誓ってください』

『大丈夫ですよ、シャーロット様。落ちませんって。というか、もう空を飛んでいるんですからそんなに緊張していたら持ちませんよ?』

『だって、だって揺れているじゃないですか。きゃっ、ほら、今も揺れましたよ』

『ちょっと落ち着いてくださいよ、シャーロット様。そんなにしがみついてたら、服が破けちゃいますから。大丈夫ですよ。今日は風が少し強いから揺れていますが、落ちる心配はありません』

『……うう、怖いです』

失敗しました。

アルスの口車に乗せられて、魔導飛行船などという怪しげな乗り物に乗るのではありませんでした。

なぜこれは浮いているのでしょうか?

ぜひとも知りたいところですが、アルスは教えてくれません。

それどころか、落ちたりしないのかと尋ねても大丈夫の一点張りです。

本当に大丈夫なのですよね?

もし落ちるようなら彼にしがみついて一緒に落ちてやることにしましょう。

そうすれば、きっと彼ならなんとかするでしょう。

よし、そうしましょう。

本当ならば今日は最後の取引をするだけで私はすぐに引き返す予定でした。

ですが、アルスの言った内容を聞いて、その真意をただす必要が出てきてしまいました。

他者に魔法を授ける魔法陣以外に、自分の力を継承する術が本当にあるのかどうか。

とても教えてもらえるとは思いませんが、なんとしても確認する必要があります。

そのためには、こうして恐怖を押し殺してよくわからない未知の乗り物にも乗ることにしたのです。

その魔導飛行船が空にある雲の上を滑るように進んでいきます。

……速いですね。

地上を移動するときには地面の状態や、川や池、森などの地形によって進行経路を選択して進まなければなりません。

ですが、この魔導飛行船であればその必要は一切ないのです。

どんな地形が地上にあろうとも関係なく、空をまっすぐと目的地に向かって進んでいけるのです。

飛べる高さはどこまで上げられるのでしょうか?

ブリリア魔導国に存在するすべての攻撃手段が届くよりも高く飛べるのであれば、これを迎撃することは難しいかもしれません。

というよりも、今飛んでいる高さまで届く攻撃手段などこの世に存在しないような気がします。

……これは高度な駆け引き、というわけですね。

自分たちは僅かな期間で魔道具を開発したのみならず、軍事力の高さまで見せつけようとアルスは考えているのかもしれません。

ですが、このような魔道具があるという情報だけでも手に入ったことは意義があります。

できれば、この魔導飛行船が手に入れば一番いいのですが……。

『それで、今はどこに向かっているのでしょうか?』

『バリアントですよ。せっかくシャーロット様に魔導飛行船に乗ってもらったので、すぐに降ろしてしまうのはもったいないでしょう? なので、優雅な空の旅でも楽しんでいただこうかと思いまして』

『……言っておきますが、変なことは考えないでくださいね? 今は私のほうがあなたよりも強いのですよ。また、前みたいに私に変なことをしようとしたら、許しませんからね』

『変なことって、心外ですね。私はそんなことしないですよ』

『よく言います。あのときのことを忘れたわけではありませんからね。……え? あ、あれはなんですか?』

『もう見えてきたみたいですね。あれはバリアントに新しく作ったお城ですよ。そのまんまですが、バリアント城とでも呼んでください』

『ち、違います。私が聞きたいのはそんなことではありません。いえ、去年までなかった城ができているというのもありえませんが、あれはいったい? なぜ、あの城は空に浮かんでいるのですか?』

『バリアント城は天空城ですからね。空にあるのは当たり前ですよ、シャーロット様』

この人は何を言っているのでしょうか?

当たり前?

お城が空に浮いているのが当然だとでも言うのでしょうか?

言っている意味がまるで理解できません。

ですが、私の視界にはアルスの言う天空城なるものが間違いなく見えていました。

魔導飛行船が向かう先の、おそらくは本来のバリアントと名付けられた霊峰の麓の地点。

その上空にかつてはなかったはずの、空飛ぶ城がそこにはあったのです。

バリアント城そのものはものすごく大きなお城というわけではありませんでした。

ですが、その造形は間違いなく以前転送石で行った先で見たアルスの居城であるバルカ城の造りを踏襲しているように見えました。

少なくともブリリア魔導国の造る城ではないと思います。

その城が地面から浮かぶ小さな島のような土地の上に建っているのです。

そして、その城のそばの地面に魔導飛行船は降りていきます。

城からは魔導飛行船を出迎える人の姿も見えています。

ということは、やはりこれは幻ではないのでしょう。

自分の目が信じられません。

空飛ぶ乗り物である魔導飛行船ですら想像もしたことがなかったのに、次は空飛ぶ島と天空城ですか。

あなたはいったい何者なのですか、アルス・フォン・バルカ?

隣りにいる少年に先導されながら、魔導飛行船からその空島へと降りていく最中に思わずそう口にしそうになってしまいました。

自分とは全く違う領域に生きているのではないかとすら思ってしまいます。

我が子に力を譲り力が落ちたというその少年の姿を見て、私は今まで以上に薄ら寒い恐怖を抱いてしまったのでした。