軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

品種改良

「やっぱり普通よりも早く育つみたいだな」

俺が自分の畑を見ながらそうつぶやく。

はじめての収穫を終えた俺はその後も畑の世話を続けていた。

そうして、確信したことがある。

それは、俺の畑で育った野菜の成長速度が普通よりも早いということだ。

通常であれば20日前後で収穫可能なハツカをわずか5日前後で食べごろにまで育て上げることができるというのは驚きを通り越して怖いくらいだ。

だが、ここまで育ったものを食べた感じでは特に体に異変は生じていない。

おそらく、直ちに影響はないものだと判断した。

あとで何らかの副作用が出る可能性がないわけでもないが、まあ気にしてもしょうがないだろうと割り切ってしまっている。

なんといっても、それだけ空腹がつらかったというのもあるのだから。

「でも、最近ちょっと余裕が出てきたんだよな。ここらで実験でもしてみるか?」

だが、そんなつらい日々も少しずつ落ち着いてきている。

そこで少し遊び心が出てしまった。

もし俺が普通の3才児であれば、考えなかったことだろう。

だが、前世で一応学校に通っていたこともあるのだ。

農業を専門的に習ったわけでもなかったが、知っている知識もある。

今回、俺の頭に浮かんだのは「品種改良」という文字だった。

俺が前世で食べていた食品はどれも美味しかった。

スーパーで特売として売られているものでさえ、きれいでみずみずしく、しっかりとした味がしたものだ。

とはいえ、当時はそんなことは気にせずにいろんな調味料で更に濃い味にしたものばかりを口にしていたので、野菜本来の味を堪能して食べるといったことはあまりなかったのだが。

しかし、この世界で育てている野菜なんかを見ると非常に気になるのだ。

どれもこれもが、品質として低いものばかりであるということに。

かつて口にしていた野菜がどれほど優れていたものだったのかというのを今更ながらに痛感している。

それもこれもすべて過去の名も知らぬ農家や研究者たちが日々研鑽し、品種改良を続けていたからこそ、あれ程の高品質なものを低価格で得られていたのだろう。

とはいえ、普通なら個人で品種改良に取り組んだところで、そこまで成果は上がらないだろうと思う。

俺の人生を捧げて、ようやく子孫に自慢できるものが一つでも残せたら大成功といったレベルではないだろうか。

が、そんな常識的な考えをぶち壊しかねない存在。

それが魔法である。

どういう理屈かはさっぱりわからないが、俺が魔法で耕した畑では野菜の生育速度が早い。

ならば、それを利用するほかないだろう。

こうして俺はさっそく品種改良の準備に取り掛かった。

少しでもハツカの味が良くなることを心から願いながら。

※ ※ ※

さて、品種改良をしようと思い至ったはいいが、どうやればいいのだろうか。

田舎のばあちゃんが畑をしていたのを手伝っていたとはいえ、種や苗は毎回購入してきたものを使っていたはずだ。

ならばと、学校で習った知識を記憶の底から拾い出すようにして思い出していく。

たしか、生物の授業で遺伝の法則を習ったはずだ。

とあるおっさんが畑でエンドウ豆を使っていろいろと実験した話があったはずだ。

豆のシワを肉眼で千個単位で確認しながらデータを取り、遺伝に関する法則性を見出したのだったか。

その話を聞いたときは、よくそんな暇なことができたものだと思ってしまったものだ。

だが、そこにヒントが有る。

品種改良とは言っても現状、ハツカには掛け合わせるほどの種類は存在しない。

同じ作物の中でもこしひかりやあきたこまちなどのように種類があれば、それぞれを交配できるのだろうが、そうはいかない状況ということだ。

つまり、俺はまずハツカが持つ特性そのものを調べる作業から始めなければならなかったのだ。

収穫したハツカを一つ一つ丁寧に観察していく。

茎の下にある根の塊が食用となるのだが、当然茎や花の部分でも細かな違いが存在した。

それらを一つずつ見つけ出して分類していく。

黒い根の塊があれば、少し赤紫っぽいものがある。

根の塊がたくさんできるものもあれば、数は少なくとも大きさが微妙に大きいものなんかもある。

花の色は白っぽいものもあれば黄色づいているものもある。

ほかにも細かな違いがあれば、それらをいちいちチェックしていった。

もちろん、学術的研究をしているわけではないので、実際に食べてみて味を見るのも忘れたりはしない。

そして、それらは当たり前だがチェックするだけでは終わりにはならない。

その特性を分類した上で、それらを掛け合わせるように交配していかなければならないのだ。

俺はある程度広くなった畑を6つに分類することにした。

完全に分離することはできないが、一応狙った特性ごとに育つように分けたのだ。

この実験兼食料確保兼興味半分行為が俺の日課となってしばらくしたころ、俺は一つの事実に気づいたのだった。

それは、「野菜も魔力を持つ」ということだった。