軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖なる獣

「おい、やったな、アルス」

「バイト兄、大丈夫なのか?」

「ああ、問題ないさ。お前が治してくれたからな。しかし、すごいな。なんだその光る剣は」

「いいでしょ? 戦っている最中にとっさに作った光の剣だよ。不死者の王にすら通じる、ブーティカ家風に言えば神器かな」

「神器か。そんなもんを作るってのはさすがだな、アルス。そう言えば、神界はどうなったんだ? 神様は無事だったのか?」

「ああ、そうだな。そのへんの説明もいるか。でも、その前にこっちの後始末をつけとこう」

「んん? なんだ、こいつまだ生きているのか。俺が始末してやろうか? 腕を穢された借りがあるし、やってもいいだろ?」

「駄目だよ、バイト兄。今、ナージャを亡き者にするのはまずい。俺に任せてくれ。聖域」

ナージャを倒した俺のもとにバイト兄が駆け寄ってきた。

ねぎらいの言葉とともに、まだ完全には死んではいないナージャのトドメを刺そうかと提案してくる。

だが、俺はそれを止めた。

そして、【聖域】を唱える。

傷つき倒れたナージャを中心とした範囲に【聖域】を発動し、今も立ち上るがろうともがくナージャの不浄の魔力を封じ込めた。

「よし。で、あとは、氷精たちこっちに来い。ナージャを氷に閉じ込めろ」

【聖域】を発動したことにより、ナージャの穢れた魔力を一時的に抑える。

そして、不浄の魔力を恐れて離れた場所に移動していた氷精たちを呼び集めてナージャを氷漬けにしたのだ。

「お前、なにやってんだ?」

「何って、これがかつて聖都で不死者の王を封印したやり方だよ。【聖域】で不死者の王の穢れを抑えながらフォンターナ家の【氷精召喚】で氷の中に封印するんだ」

「へー、フォンターナ家は不死者の王の封印に関わっていたのか。って、まあそんなことはどうでもいいだろ。なんでナージャを封印するんだ? 始末したほうが後腐れなくていいんじゃないのか?」

「確かにそのとおりだ。けど、それはちょっと困るんだよ。ナージャを普通に倒してしまうと俺が弱体化しちゃうからね」

「弱体化? ナージャを倒したらアルスが弱くなるのか?」

「あー、ちょっと違うのかな? 今の俺はナージャを通して魔力量が強化されている。正しくは、それが無くなって以前の状態に戻るってことだな。でも、そうすると【神界転送】とかが使えなくなってパウロ大司教とかと合流できなくなるんだよ」

「なるほどな。つまり、生かさず殺さず、ナージャの力を利用するのか」

「そういうこと」

ナージャを倒した。

それで今回の件はだいたい片付いたことになる。

が、それはあくまでも表向きの話だろう。

ナージャがしでかしたことの影響は大きい。

聖都を消滅させ、いくつもの貴族領とそこにいた貴族と騎士を殺傷し、しかも神界にまで攻め入った。

とくに一番重要なのが教会を完全に機能不全に陥らせたという点ではないだろうか。

教会で力を持ち、その仕組みを機能させていた人もモノもすべてを同時に消し去ったのだ。

かつて教会が行ったアイシャという女性への非道な行為は決して褒められるものではない。

が、それでも長年に渡ってこの地のすべてに教会を配置し、人々の生活を支え続けてきたのは紛れもない事実なのだ。

ある意味ではドーレン王家よりも遥かに役立っている組織でもある。

その中心部分がいきなり消えたことの影響はあまりにも大きい。

とくにノウハウ系は一度失われてしまうと再びもとに戻すのは容易ではないのではないだろうか。

まあ、そうでなくとも今、俺が【神界転送】や【聖域】、あるいは【浄化】という魔法を使えなくなるのは困る。

なにせ、ナージャを倒したと言っても、いまだにナージャによって不死者化した者が周囲にはそれなりの数残っているのだ。

それを殲滅しなければならない。

そのため、ナージャの息の根を止めるということは先延ばしにしなければならない。

「キュウ、キュウ」

だが、そんな俺の考えに待ったをかける者がいた。

いや、それは人ではなかった。

ヴァルキリーだ。

俺が初めて使役獣の卵で孵化させて生み出した初代ヴァルキリー。

この聖都まで俺を乗せて駆け抜けてきたヴァルキリーが俺とバイト兄の会話に混ざるように近づいてきて声を上げたのだ。

どうしたんだろうか?

なにか言いたいことでもあるんだろうか?

だが、いくら俺でもヴァルキリーの鳴き声を正確に理解することはできない。

が、どうやら重要なことらしく、俺の体に頭を擦りつけながら、チラチラと封印されたナージャのほうへと視線を向けている。

「…………ああ、なるほど。そういうことか。よし、分かった。やっていいぞ、ヴァルキリー」

「キュイ」

何度もナージャを見つめるヴァルキリーの言いたいことがようやく理解できた。

なので、俺はヴァルキリーにそれを実行するように命じた。

俺が一度は氷漬けにして封印したナージャをヴァルキリーが攻撃したのだ。

すでに瀕死となっていたナージャが解凍されて、その直後にヴァルキリーの足でゴキリと首の骨を折られてしまった。

不死者の王にまでなったナージャだが、さすがに首の骨を折られてしまうと不死者としても生きてはいられないようだ。

「おいおい、いいのかよ、アルス。ナージャを殺したらまずいんじゃなかったのか?」

「いやー、俺もそう思っていたんだけどな。ヴァルキリーのほうが俺よりも頭が良かったみたいだな。気が付かないか? ナージャが死んでも俺の魔力量に変化はないだろ?」

「あれ、本当だな? なんでだ?」

「【収集】したんだよ。ナージャの力をヴァルキリーがね」

どうやらうまくいったようだ。

先程、ヴァルキリーがナージャを倒してしまった。

それは普通であれば俺の弱体化につながる。

だが、それをヴァルキリーは【収集】によって解決してくれた。

つまり、こういうことらしい。

ナージャは角なしヴァルキリーを殺して、ヴァルキリーの持つ魔法を【収集】した。

その魔法の名は【共有】だ。

この【共有】によりヴァルキリーの群れ全体の魔力とつながることでナージャは【裁きの光】という大魔法を使うことができるようになった。

だが、【共有】というのはナージャがヴァルキリーの魔法を奪っただけでは終わらなかった。

当たり前だが、共有という名の通り、ヴァルキリーとナージャは両者の能力と魔力をお互いに共有している状態だったのだ。

つまり、ヴァルキリーはナージャの持つスキルである【収集】を使うことができたのだ。

それを今回使ったようだ。

ナージャを倒す際にヴァルキリーが【収集】を使い、ナージャの持つすべての魔法とその継承権、あるいは魔力パスを取り込んでしまったのだ。

そのために、ナージャがいなくなっても、ナージャから俺に送られてきていた魔力量は減らずにすんだ。

つまり、【神界転送】などの魔法を使用可能な状態でナージャがこの世を去ったことを意味する。

「ありがとうな、ヴァルキリー。でも、お前の力もとんでもないことになったな。とりあえず、俺の許可がある時以外は自己防衛以外で危険な魔法を使うなよ?」

「キュイ!」

一応、ヴァルキリーに対して念押ししておく。

今やヴァルキリーはこの世で唯一【裁きの光】をも使えるとんでもない使役獣になったのだ。

しかも、その個体数はかなり多い。

仮に俺がヴァルキリーと本気で戦ったら必ず負けることになるだろう。

とんでもなく危険な存在になってしまった。

ヴァルキリーが人々から怖がられて迫害されても困るな。

【裁きの光】や他の魔法が使えることは隠して、【浄化】や【聖域】が使える聖獣になったということにしておくのはどうだろうか?

うん、それがいい。

そうしよう。

こうして、聖都が不死者によって滅びた今日という日に、神の御業を使用可能な聖なる獣である聖獣としてのヴァルキリーが誕生したのだった。