軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナージャとの攻防

全身からどす黒い魔力を吹き出しながら近寄ってくるナージャ。

それなりに距離が離れていたにもかかわらず、あっという間にこちらへと迫ってきた。

一瞬で距離を詰められて肉薄する。

「こっちだ。俺が相手だ、ナージャ」

体ごとぶち当たってくるかのようなナージャの攻撃を間一髪で避ける。

そして、そのナージャに対して俺は声をかけながら場所を移動した。

俺のそばには傷を治したばかりのバイト兄と傭兵団の副団長もいた。

そちらにナージャの意識がいかないように、俺に注意をひきつけたのだ。

高速のサイドステップで移動した俺の動きにナージャはついてくる。

その動きを見ながら、俺は腕にはめていた魔法具を発動した。

封魔の腕輪だ。

かつてパーシバル家の迷宮街を攻略し、そこから持ち帰った魔法の道具。

使用すると周囲の魔法を発動させない効果がある、地味ながらもすごい能力のアイテムだ。

ここに魔力を込め、ナージャの使う【防魔障壁】を消し去ることにしたのだ。

防御さえ突破できれば切ることができるはず。

ナージャが近づいてくる間に考えついた唯一のアイデアだった。

「っち、駄目か。浄化」

だが、それはあまり良くない選択だったようだ。

封魔の腕輪に魔力を込めて能力を発動した瞬間、俺の体にもその効果が出てしまった。

今の俺の体には【浄化】の力が込められている。

不死者による不浄な魔力の影響を受けないようにするありがたい守りの魔法。

その【浄化】の効果が封魔の腕輪を使用した際に無くなってしまったのだ。

こんなの聞いてないぞ。

メリットのあるすでに使用した魔法の効果まで打ち消す力があるのか。

僅かな時間だが、【浄化】の守りが無くなったことによってナージャの魔力がこちらに影響を与える可能性があった。

髪の毛一本分くらいの影響があるかどうかという感じだったが、【浄化】の効果が消えた瞬間に怖気が走るような嫌な感じがしたので、すぐに封魔の腕輪の使用を取りやめて、【浄化】をかけ直した。

「浄化、浄化、浄化」

しかも、状況は今も悪いままだ。

手の届く範囲にまで来たナージャが俺に対して拳を突き出してくる。

というよりは手で触れようとしてくる動作が多い。

まるで汚れた手をなすりつけようとする小学生のようなイタズラの動作だが、それは俺にとって死に至る攻撃になりえる。

全神経を集中して避け続けるしかできない。

だというのに、近すぎるゆえか、ナージャの魔力が俺の体を蝕もうとしてくるのだ。

常に【浄化】をかけ直して身を守らないとバイト兄のように体に影響が出てしまいかねない。

が、これは時間をわずかばかり稼ぐ効果しかない。

なんとかしないと。

せめて、ナージャに対して何か通用する攻撃をしなければならない。

かと言って、聖剣や空絶剣で斬りつけるのもどうかと考えてしまう。

いかに強力な武器であっても、不浄の魔力によって触れただけでグズグズに崩れてしまうのであればまともなダメージなど入るはずもないだろう。

「氷精召喚」

なので、もう一つ思いついた攻撃手段をとることにした。

ナージャとは別のもうひとりの、本当の不死者の王であるドグマ・ドーレンを封じた魔法を使用する。

【氷精召喚】によって呼び出された無数の氷精たち。

数えることができないくらいの大量の青い光の玉の精霊たちにナージャを封じてもらうことにした。

かつて初代王を封じた絶対零度の氷の封印。

それをナージャにお見舞いしようとした。

「おい、逃げるな、氷精たち。行けよ」

だが、なんということでしょう。

不死者の王を封じた氷精たちがナージャの不浄の魔力を見て逃げ出したではありませんか。

あれって精霊たちも逃げ出すようなものなのか?

もしかしたら、精霊も穢れの影響を受けてしまうのだろうか。

俺が召喚した氷精たちはいつもならふわふわと宙を浮いているはずなのに、ピューッと逃げていってしまったのだ。

駄目だ。

よく考えたら、不死者の王を封じた際は相手は不浄の魔力をまとっていなかった。

神界にある神殿の中はこの世で最も穢れなき場所で、その中にいれば不死者の王といえども穢れを撒き散らすことがなかったのだ。

だからこそ、俺とも話をすることができた。

だが、今はナージャは地上で元気に穢れを撒き散らしている。

あの時と、状況が違いすぎるということだろうか。

「聖域。って、今度はお前が逃げるのかよ」

ならば、神界のときと同じ状況を再現してみようではないか。

そう思った俺が【聖域】の呪文を唱える。

すると、その呪文は見事に効果を発揮して周囲を柔らかな光で満たして、その場の穢れを祓ってくれた。

この中であれば氷精たちも仕事をしてくれるに違いない。

そう思っていたのだが、今度はナージャがその場からすぐに出てしまった。

もしかして、こちらの意図が分かったのか?

この中では危険があるかもしれないということを。

だが、それならそれで時間が稼げるのではないかとも思った。

【聖域】を発動させた中ではナージャの黒い魔力が抑えられる。

それを嫌がって入ってこないのであれば時間が稼げるのではないかと思ったのだ。

「炎獄陣」

が、そうは問屋がおろさない。

【聖域】の範囲内から外に出たナージャが魔法攻撃をしてきたのだ。

ホントこいつ厄介だな。

【炎獄陣】というのはどこぞの貴族から奪い取った魔法なのだろう。

ウルクの【黒焔】ほどの超火力ではないようだが、それでもかなりの高温でしかも効果範囲の広い炎の魔法が使われた。

慌ててその魔法から逃げるようにして移動する俺。

それは俺が【聖域】の外に出たことを意味した。

「殺すコロスころす」

しかも、ナージャはさっきからずっと殺す殺すと呟いている。

生き物が不死者になった場合、生あるものに執着すると聞いたことがある。

生きているものが羨ましいのか憎いのか、なんなのかはわからないが生きているやつを見ると襲ってくるらしい。

だが、もしかするとそれはその不死者の意識が無いからなのかもしれない。

もし、不死者に意識があれば、もしかすると生前から執着していたものに対しての執念が残るのかもしれないとパウロ大司教も言っていた。

ドグマ・ドーレンという不死者の王であれば、それは自身が愛する者であるアイシャだったのではないだろうか。

だからこそ、聖都が滅び封印が解けた後、ナージャによって神界に来た際に神殿に向かったのかもしれない。

そこにアイシャがいるのを知っていたからだ。

だとすると、ナージャは人を殺すことに取り憑かれているのではないかと思ってしまった。

状況に合わせて魔法を使うところを見ると、決して思考力が無くなっているはずではないはずだ。

だというのに、壊れたラジオのようにずっと「殺す」と呟いている。

どんな人生を送ってくればそこまで人を殺そうと思えるのだろうか。

ナージャの人生について、僅かな時間、思いを馳せた。

だが、こちらもそこまで余裕があるわけでもない。

というか、何度も繰り返し【浄化】をかけているが、それも追いつかなくなってくるかもしれない。

そう考えた俺は最後の手段になるかもしれない攻撃に運命を託すことにしたのだった。