軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の使徒

「おおー、すごいな。かなり高いぞ。空のどの辺なんだろうな? どうやって浮いているんだ?」

爽やかな風を感じながら、あたりを見渡す。

どうやら神界というのは空に浮かぶ島のような感じなのではないだろうか。

小さな山のある土地を地面からくり抜いて、それが空に浮かんだ状態という印象を受ける場所。

なぜ、地面が浮いているのかも気になるが、雲の上にあるはずなのに草花が咲いているというのも気になる。

森林限界とかはないのだろうか?

空高くにあるはずなのに風が爽やかな感じというのも不思議といえば不思議だ。

この場所は確かに天空の楽園と言われてもおかしくなかっただろうなと思う。

だが、その場所はおそらく元の状態とは程遠いことになっていた。

空に浮かぶ地面に生えていた草花や木が不死者から発する不浄の魔力によって腐ってしまっている。

とても楽園などといって安らげる場所ではなくなってしまっていた。

「どうやら不死者の王とナージャはこの転送部屋から出て向こうに向かったみたいですね」

「そうみたいですね、パウロ大司教。これは……、ナージャが不死者の王と交戦した痕かな? 魔法攻撃が使われた形跡もありますね。あっちのほうでは【裁きの光】も使ったような形跡もありますし」

「アルス、あそこに人影が」

「……あれは不死者か? 下がってください、パウロ大司教」

【神界転送】で跳んできた転送部屋は空に浮かぶ島の端っこのほうにあったようだ。

そこから島の中央部分が山になるように盛り上がっており、その登り方向に向かって黒い魔力と攻撃魔法の痕が残されている。

どうやらナージャは不死者の王と仲良くなって一緒にこの神界に来たわけではなさそうだ。

少なくとも敵対し、しかも戦っている。

周囲に残った痕跡を見ながらそう判断していると、パウロ大司教が人影に気がついた。

その言葉を受けてすぐにパウロ大司教を背後に隠すように前に出る。

そこにいたのはおそらくはつい先程まで人だった、今は不死者という存在だ。

だが、同じく不死者になった傭兵たちとは違い、ほとんど身体的な損傷は見られない。

爛れたゾンビ状態でもなければ、骨になったスケルトンでもなく、見た目は普通の人だ。

だが、その身から不浄な魔力が立ち上っていることを考えるとまともな人間とはよべないだろう。

「不死者の王は神の使徒さえも穢してしまえるのですか。なんと恐ろしいことでしょう」

「神の使徒、ですか?」

「はい。教会では【神界転送】を使用できるようになった者が教皇となります。そして、教皇としてその任を果たした者は、その後はこうして神界に住む権利を得ることができるのです。その者を神の使徒と呼ぶのですよ」

「なるほど。冬にもかかわらずうららかな春の日差しを感じるこの楽園に住む神の使徒ですか。しかしまあ、元教皇ともあろうものが不死者になるなんて皮肉が利いてますね。【浄化】や【聖域】を使えたんじゃないんですか?」

「もしかすると教会はナージャの危険性についてたかをくくっていたのかもしれませんね。本気で聖都が襲われることなどない、と。だからでしょう。この神界で不死者の王に抵抗したあとが見当たりません」

「どうりで不死者になった神の使徒が複数いるわけですね。ちなみに今更ですけど、不死者になった者をもとに戻す方法はあるんですか、パウロ大司教? 見た感じ、あの人たちの体はそれほど損傷がないようですが」

「……分かりません。私の知る限り、不死者から人へと戻った話は聞いたことがありません」

「なら、他の不死者と同様に対応します。タナトス、イアン、あれを倒すぞ。ライラはパウロ大司教の護衛だ」

パウロ大司教へ神の使徒とやらを倒すことを告げる。

ここで、彼らを助けてくださいなどと言われたらどうしようかと思ったが、パウロ大司教にしても一度不死者になった者を助ける方法を持ち合わせていなかったのだろう。

俺の言葉を受けて、諦めた顔をして首を縦に振った。

それを見た俺はタナトスとイアンと一緒に不死者へと斬りかかる。

腰から抜いたのは聖剣グランバルカだ。

かつて不死骨竜を屠ったこの剣は対不死者戦では絶対の信頼がある。

剣そのものに浄化の力がついており、通常ならば不死者を切りつけると武器が腐り落ちるところが影響を受けないのだ。

ちなみに空絶剣は【浄化】をかけても聖剣化しなかった。

元となった材料のひとつは斬鉄剣なので【浄化】をかければ聖剣になってもおかしくないはずなのだがなんの変化もなかったのだ。

そうなると魔力消費の大きい決戦兵器としての意味合いが強い空絶剣をナージャも不死者の王の姿も見えない今から使うのはまずいだろう。

ゆえに、聖剣で対処する。

スラリと引き抜いた日本刀型の武器である聖剣を両手で握って構える。

歩くごとに地面の草花を腐らせる不浄な魔力を放ちながらも、身なりの良いダンディーなおっさん不死者の動きを見る。

その不死者が次に足を前に踏み出した瞬間、懐へ潜り込むように踏み込んで聖剣を横薙ぎに振るう。

だが、その一撃が不死者の体に届くことはなかった。

不死者が大きく後退したのだ。

地上でいたゾンビ型やスケルトン型のような鈍重さはかけらもなく、こちらの攻撃を見てからの回避をした。

どうやら、元教皇である神の使徒が不死者になった場合、生前と同じような身体能力と判断能力を残しているらしい。

魔力の高さはそのまま身体能力の高さにつながる。

戦闘経験はないのかもしれないが、常人離れした元教皇としてのポテンシャルを引き継いだ不死者。

そんな相手が、1人また1人と近くの建物の陰からぞろぞろ出てきてしまった。

ナージャや不死者の王の元に辿り着く前に前哨戦が必要なようだ。

わらわら沸いてくる神の使徒の成れの果てを見ながら、俺は聖剣を持つ手に力を入れ直したのだった。