軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

凶報

「リオン、ちょっといいか? 後で評議会でも開いて考えたいことがあるんだけど」

「考えたいこと、ですか? それはなんでしょうか?」

「国のためではなく自分の利益のために戦いたがっている奴らを抑える仕組みについてだ。できれば、いずれは文民統制にしたいくらいなんだけど、要するにまあ、一部の貴族や騎士の暴走を未然に防ぐ仕組みがほしい」

「文民統制というのはなんでしょうか、アルス様?」

「国を動かすのは戦力である軍部ではなく、内政や外交を司る政治部に決定権があるって感じかな? 要するに宰相と大将軍という役職だと、宰相のほうが上だってこと」

「……ふむ。つまり、政治的解決を得るためにこそ戦うという手段があり、その逆ではないということですか。しかし、現状では宰相と大将軍はアルス様の兼任ですし、いずれはフォンターナ王家がそれに携わることになるのではないのですか?」

「まあ、そうなんだけど、別に王自身が大将軍になる必要もないだろ? 例えば、大将軍という軍部の一番上の人間は王が任命し罷免もできる、くらいでもいいと思うし。とにかく、勝手に戦争仕掛けるようなやつが出ないようにできればいいんだけど」

「うーむ。それを決めるのは時間がかかりそうですね。現実的に今の状況を打破するためにであれば、勝手な行動の禁止と厳罰化が有効ではないかと思います」

「ま、そらそうか。まあ、さっきのはいずれはそうなったらいいくらいの話だな。だけど、今のうちからみんなで話し合っておいたほうがいいのは確かだと思う。そうでなくても、国の規模が大きくなってきているんだから」

「そうですね。では、もう少し考えをまとめて素案を作ってから評議会で検討でもしてみましょうか」

「ああ、よろしく頼むよ、リオン」

バイト兄やリオンから聞かされた戦闘狂たちの話を聞いて、あれこれ考える。

どうすればいいのかはよくわからないが、なんとなく軍部が異常に力を持つ状況は良くないのではないだろうか。

が、かと言って軍が無力であるというのも困る。

なにせ、周囲も国内もまだ不安定ではあるし、なによりこの世界には魔物という存在がいるのだ。

いつ何時、強力な魔物が現れたり、あるいは魔物の数が増えて押し寄せてくるかわからないのだ。

それに対応できるだけの力は確実に必要だ。

結局、いいアイデアというのはそう簡単には浮かんでこないので、前世の知識から引っ張ってきた。

軍が暴走しないように、軍よりも上の存在を作る。

王政であるこの国で文民統制というのは無理だろうが、なんとかストッパーになる組織構造を模索していきたい。

その場合、意思決定に時間がかかって即応性が失われる可能性があるかもしれないが、国の力が大きければなんとかなるのではないかという期待もある。

ま、たしかにリオンの言う通り、すぐにどうこうという話でもない。

しっかりと案を考えて、継続性のある仕組みと組織づくりをしていく必要があるだろう。

リオンと話しながら俺がそう思っているときだった。

フォンターナの街の執務室に慌てた様子のカイルが入ってきた。

「た、大変だよ、アルス兄さん!!」

「おお、びっくりした。どうしたんだよ、カイル。ドアを壊すような勢いで入ってくるなんて何事だ?」

「ギ、ギザニア家が滅んだって、通信兵から報告が入って……。ど、どうしよう」

「うん? ギザニア家ってのは……、確かあれだよな。南にある貴族家で、マーシェル傭兵団が立てこもっている土地の近くに領地を持つところだったよな? なんだ? ナージャとは不完全な同盟関係みたいになっていたんじゃなかったっけか?」

「そうだよ。そのギザニア家がナージャに潰されたんだ」

「……うん。それは分かったけど、なんでそこまでカイルが慌てているんだ?」

「報告ではギザニア家が治めていた城は街ごと消滅したそうだよ、アルス兄さん。これがどういうことか、分かる?」

「街ごと城が消滅した? ……え、それってまさか」

「そうだよ。【裁きの光】が使われたみたいなんだ。ギザニアの街があったところは城も壁も建物も、そして人の姿も無くなっていた。あとに残されたのは大量の塩だけだったって」

嘘だろ?

冗談だと言ってくれよ、カイル。

が、執務室に飛び込んできたカイルはいつもと違って本気で慌てて報告をしてくれた。

その姿を見て、冗談を言っているのではないということは間違いないだろう。

ナージャによってギザニア家が滅ぼされた。

それ自体は事件ではあるものの、そこまで驚くことではない。

かつてギザニアの騎士をナージャは倒しているという話だったし、それによってギザニア家当主にナージャからの魔力パスが繋がっていたとしても味方ではなかったのだ。

そういうこともあるだろうとは思う。

が、そのやり方が問題だった。

ギザニア家を街ごと滅ぼしたという事実と、その後に残された大量の塩。

それは、ナージャが【裁きの光】を使ったのではないかというカイルの予想は多分間違っていない。

【裁きの光】。

かつて初代王が用いたという、他の貴族の魔法と比べても一線を画す大魔法と呼ばれるものだ。

呪文を唱えるだけで使用でき、その効果は広範囲のものを塩に変えるというとんでもないものだ。

もっとも、かつてドーレン王家の暴君ネロの時代にその大魔法は失われていて、今は話に残っているだけだった。

それをナージャが使ったという。

「いや、でも、おかしくはないか? ナージャはたしかに【収集】という力を持ち、貴族や騎士の継承権ごと魔法を手に入れる能力があると予想はされていた。そして、その力でおそらくは行方不明のドーレン王を手に掛けた可能性もあるとは思う。けど、大魔法を使えるほどの魔力はなかったんじゃないのか?」

「なかったと思う。けど、手に入れたんだ。大魔法である【裁きの光】が使えるだけの魔力をナージャは手に入れたんだよ、アルス兄さん」

「だから、それがおかしいだろ? ナージャはギザニア領の隣で城を奪ったものの、そこにマーシェル傭兵団ごと閉じ込められていたはずだ。他の貴族や騎士はナージャの力にビビって近づかなかったはずだけど、周囲を封鎖はしていた。どこからそんな魔力を得ることができたんだ?」

「……アルス兄さん。これはボクの考えで確証はなにもない。けど、多分こうだって思っていることがあるんだけど、聞く?」

「え、ああ、もちろんだよ、カイル。予想がついているなら教えてくれ」

「……多分だけど、ナージャが大魔法を使えるだけの魔力を手に入れたのはバルカからだよ」

「は? バルカから? ちょっと待て。どういうことだ? 俺はナージャに魔力を持っていかれたりはしていないぞ。もしかして、誰かバルカの騎士がナージャに襲われたのか?」

「違う、そうじゃない。ナージャが手にかけたのは騎士じゃない。ヴァルキリーだよ、アルス兄さん。おそらく、ナージャはヴァルキリーから【共有】の魔法を【収集】したんだと思う。そして、その【共有】を利用してヴァルキリーの群れ全体の魔力とナージャがつながって利用しているんだ」

……え?

そんなこと、できるの?

ナージャが大魔法【裁きの光】を手に入れた。

カイルが言うには、そのための魔力はバルカが誇る最高戦力であるヴァルキリーから得たのだという。

俺はカイルの話を聞いて、ようやく事の重大さに気がついたのだった。