軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空絶剣

「ふぅ。なんとか勝ったな。結構扱いが難しいな、この剣は」

「勝利おめでとう、アルス。……で、その武器はなんだと聞いてもいいのか?」

「ん、ああ、ありがとう、タナトス。これは剣だよ。魔法剣だ。新しく作った剣を実際に試すいい機会になったよ」

「それが剣なのか。俺にはただの剣の持ち手にしか見えないが……」

「あ、もしかして決闘では魔法剣を使ったら駄目だとかって決まりがあったのかな?」

「いや、事前の取り決めでアルスとイアンの間にそんな条件はなかった。つまり、どんな武器を使っても問題ない」

「よかった。で、どうする? 次は誰が戦うんだ?」

「なに? 次、だと?」

「ああ。アトモスの戦士はもっとも強いやつが戦士長になって里をまとめるんだろ? イアンに勝って他の奴らには文句を言わせないとは言ったけど、あれはイアンとの約束だけだったしな。いっそのこと、このまま残りのアトモスの戦士とも決闘を済ませておこうぜ」

『アトモスの戦士たち、我が同胞に告ぐ。戦士イアンに勝利した戦士アルスは我こそはという挑戦者を希望している。この者に挑む勇敢なる戦士は前に出ろ』

『……だれも出てこないな』

『決まりだな。これより、アトモスの戦士は戦士アルスの下に集い、ともに行動することを再度ここに宣言する。異議のある者は今のうちに申し出ろ』

『タナトスはいいのか?』

『忘れたのか、アルス。俺はアルスに対して恩がある。里に戻るときに誓ったはずだ。俺の命はお前に捧げる、と』

『じゃ、タナトスが副戦士長とか、戦士長補佐ってことでよろしく。アトモスの戦士はこれからお前がまとめてくれよ?』

『わかった。手間を掛けさせたな、アルス』

決闘は無事に終了した。

初めてのアトモスの戦士とのタイマンだったが、なんとか無事に勝つことができた。

まあ、実力がどうこう言うよりも魔法剣様様って感じだが。

さすがにグランとルークが不死者の王を倒すべく模索してできた剣ではある。

「いやいや、二人で話をまとめていないでイアンを助けてあげなよ、アルス兄さん。今も血が流れ続けて動けないでいるよ、あの人」

「アトモスの戦士は戦場で生きる者だ。戦いの結果、負けて死ぬことは当たり前だぞ、アルス。別に助ける必要はない」

「さすが、里の人間全員が傭兵稼業をやってるだけあるな、タナトス。だけど、今回はカイルの意見に従っておこうかな。俺も鬼じゃないんでね」

タナトスと話していたらカイルから声をかけられた。

手足を失ったイアンが今後戦場にたてるかどうかは、この場で欠損治療が唯一できる俺にかかっている。

タナトス的にはアトモスの戦士は決闘でも命をかけることが当たり前のようなので、特に助ける必要があるとは思っていないようだが、とりあえず助ける方向で動くことにする。

『どうだ、イアン。負けを認めて俺に従うか?』

『……分かっている。アトモスの戦士は誓いを交わした決闘で決まったことに文句は言わない。ただ、約束してくれ。大地の精霊が宿りし偉大なる石は我らにとって本当に大切なものなのだ。あれを粗末に扱うようなことだけはしてくれるな』

『ああ、分かっているよ、イアン。俺も誓おう。大地の精霊が宿りし偉大なる石を粗雑に扱うようなことはしない。……で、ここからは交渉だ。俺はお前の失われた手足をもとに戻すことができるけど、どうする?』

『頼む。治療の対価として、お前のために戦おう』

『よし、契約成立だな。回復』

地面に伏したままの状態のイアンに話しかけ、お互いにこれからのことを確認し合う。

どうやらアトモスの戦士というのは誓いを重くみる風習があるらしい。

アトモスフィアを粗雑には扱わないという誓いを俺もしたけど、あれに含まれる魔力は使っても大丈夫なのだろうか?

すでに結構な魔力をバルカニアで使用しているが、まあ、まだまだ大量の魔力を内包しているので直ちに影響はないだろう。

勝手に結論を出して、イアンに対して【回復】を使用する。

もうすでに何度か使っているが、アトモスの戦士に対しても欠損を完璧に治療できた。

すぐに手足を取り戻したイアンは立ち上がり、それがキチンと動くかどうかを確認している。

「でもすごいね、その魔法剣は。確か空絶剣って名前だったっけ、アルス兄さん?」

「そうだ。空絶剣グランルークだ。ブーティカ家の【合成】を使った極上の魔法剣だ。かっこいいだろ、カイル?」

「うーん、どうだろ。剣身がないし、柄だけを握って振り回している姿はちょっと見た目はなにしているかわからない人みたいになっていたけどね。いや、実際強かったんだけどね」

「確かに見えないのは残念だな。改善要求案としてグランやルークにいっておこうかな」

アトモスの戦士イアンを圧倒した今回使った魔法剣。

その名も「空絶剣グランルーク」だ。

これは【合成】という魔法によって生み出されたものだ。

グランが作った硬牙剣の中でも大猪の幼獣の牙を使った小剣を角ありヴァルキリーたちに【魔力注入】させて魔法剣を成長させると斬鉄剣になることが分かっている。

斬鉄剣は当初の西洋剣とは違ってなぜか日本刀型になり、当主級すらも切ることができる切れ味と頑丈さを両立する魔法剣だ。

この斬鉄剣は教会の大司教による【浄化】という魔法を受けると聖剣へと変貌した。

最初に聖剣グランバルカとなったものは教会に奉納するという約束をしたが、その後、パウロ大司教との取り決めで一本目は俺が管理するという名目で手元に残していた。

そして、その後に作った斬鉄剣を教会へと渡してパウロ大司教が【浄化】をかけることですでに聖剣となっている。

つまり、教会にはすでに聖剣を奉納している。

だが、俺はそれで斬鉄剣づくりを終えたわけではなかった。

使役獣の卵を産む黄金鶏をビリーが生産可能としたこともあり、角ありヴァルキリーの数を増やしてさらに急ピッチで斬鉄剣を生み出していたのだ。

そんな貴重で有用な武器をグランに預けて、ブーティカ家での共同実験に用いていた。

どれほど硬いものでも切り裂き、絶対に折れぬほどの頑丈さを持ち、ヴァルキリーによって膨大な魔力を注がれた斬鉄剣とあるものを【合成】したのだ。

それは、転送石だ。

斬鉄剣と転送石の【合成】。

その結果、出来上がったのは見えない剣だった。

あらゆるものを腐らせる不浄な魔力を撒き散らす不死者という存在。

そんな不死者の中でもあまりにも魔力が強力すぎて教会の【浄化】でも対処できない存在の不死者の王。

その不死者の王を相手にするには聖剣でも無理だという。

なぜなら武器が触れた瞬間に腐ってしまうからだ。

ならば、触れずに倒すことができないだろうか。

そんなありえない方法論を実現しようとするのがこの空絶剣グランルークだった。

この空絶剣によって切られるとその部分が強制的に転送される。

多分、2つの転送石を使って瞬時に移動しているときに一度どこか異空間というか、亜空間を経由しているのだと予想しているが、その亜空間に切りつけた部位を片道切符で送っているのではないかと思う。

ようするに、切りつけた対象を強制的に異空間送りにするという防御不能の攻撃を可能にするのがこの空絶剣だった。

そして、さらに空絶剣には秘密があった。

ヴァルキリーの皮と転送石を【合成】して作った革を使って空絶剣の柄と鞘を作って一応触れられるようにした。

魔法鞄の材料となる革だからなのか、見えない剣である空絶剣の持ち手に巻くとその部分だけは見えるようになった。

さらに鞘に納めても、空絶剣の見えない剣身が鞘を切り裂くといったこともなかった。

そうやってこの危険極まりない魔法剣を所持し、手に持つことが可能となった状態で空絶剣の柄を握りながら魔力を込めて攻撃すると特殊な効果が発揮されたのだ。

剣を振った際に、その見えない剣身があるはずの場所ではなく離れた別の場所を切断できるという特殊効果だ。

すなわち、空絶剣は全く見えない不可視の剣であり、どんなものも切断できる剣でもあり、そして、魔力を込めると離れた対象を切るというトンデモ武器なのだ。

もちろん遠隔地に対する攻撃も異空間送りになるからなのか、防御はできず絶対に切断することが可能という性能付きだ。

ちなみに魔力を込める量によって、どのくらいの離れた距離を切ることになるのかが変わるし、剣の振り方にも気をつけねばならない。

これが意外と加減が難しい。

魔力量の調整を間違えるとなにもない虚空を切り裂くだけに終わる。

だからこそ、実験ではうまくいっていたが実戦形式でも試してみたかった。

その相手となったイアンには悪いが、今回の決闘で空絶剣の距離感も掴むことができた。

こうして、俺は最上級の魔法武器を所有し、使いこなすことができるようになると同時に、アトモスの戦士を従えることに成功したのだった。