軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イアンとの決闘

もう何年も前のことを思い出す。

俺がカルロスの招集に応じてバルカ軍を率いてウルク領に行ったときのことだ。

アインラッドの丘の争奪戦を終えて丘を占領し、その維持を任された。

そして、カルロスたちフォンターナの主力軍が丘を離れて北の街ビルマへと向かった。

その戦力的な空白を狙うかのように動き出したウルクの援軍。

その援軍の中に俺が初めて会ったアトモスの戦士であるタナトスがいた。

ウルクの援軍を迎え撃つのではなく逆に夜襲をかけるためにバルカ軍は少数で出撃した。

確か、あの時が初めて夜襲をしたのではなかっただろうか?

その夜襲でウルク軍を罠のあるキシリア街道まで釣りだして、そこで壁を使って相手の進行方向を塞ぎ攻撃した。

が、タナトスには通じなかった。

壁の上にジャンプして手を付けてヒョイッと越えてきた巨人の姿を見て肝を冷やしたものだ。

あのとき、普通に戦っていたら俺たちは間違いなく負けていた。

タナトスに勝てたのは単に次の罠がうまくいったからにすぎない。

個人の強さとは関係なく、巨人という巨体を水の底に沈めるというおおよそ戦士に対して行う戦法とは思えないような罠を使ってなんとか巨人を倒して無事に帰ることができた。

それが初めてのアトモスの戦士との戦いだった。

次に会ったのはその何年か後だった。

罠にかけて死んだと思っていたタナトスが生きていたのだ。

が、タナトスは生きてはいたが衰弱していた。

溺死寸前でなんとか生き延びたタナトスはその後ウルク家の配下であるキシリア家に幽閉されていたのだ。

まともにご飯も食べられずになんとか生きているだけという状態のタナトスに対してキシリア家はバルカ軍を蹴散らしたら食事を与えると言ったそうだ。

が、その時、バイト兄が【武装強化】という魔法を作りバルト姓を与えた兵がいたおかげで、バルカ軍は以前までよりも遥かに強くなっていた。

衰弱したタナトスはバルカに再び負けたのだった。

だが、あのとき確かにタナトスは言っていた。

自分の体が万全だったらバルカ軍全部を相手にしても勝っていた、と。

そして、それはおそらく間違いではない。

あのときはまだ俺も当主級ではなかった。

そのタナトスと同じアトモスの戦士であるイアンと一対一で戦う。

昔のことを思い出すとまともに戦っていい相手ではないとも思う。

が、昔と比べると俺もかなり強くなっている。

十分に勝機はあるはずだ。

それになにより、イアン以外のアトモスの戦士も内心ではかなり不満に思っているだろう。

自分たちにとって御神体のようなものでもある大地の精霊が宿りし偉大なる石がよその土地にあるというだけで許せないに違いない。

そこで、俺は彼らに対して力を見せなければならない。

それにバリアントの住民に対してのアピールにもなるだろう。

俺は東方遠征軍を率いてブリリア魔導国の警備隊と戦ったが、それをバリアントの連中は誰一人見ていないのだ。

俺が、それにバルカが力を持っているというところを見せつけておく必要がある。

そう考えたからこそ、俺はイアンを挑発して決闘を申し込んだ。

バリアントの外の空き地に【整地】をしてイアンとの対決場を用意したのだ。

ポッカリと空間が開くようにきれいに整地された一部の場所。

そこが勝負の場であり、そこから出てしまったら負けであるというルールを用意し、周りを囲むように観客がいる。

後は俺がイアンに勝てれば、とりあえずすべてが丸く収まるだろう。

『これより戦士アルスと戦士イアンの対決を行う。勝敗はどちらかが死んだら、あるいは負けを認めたら、もしくは観客がいる場外へと出てしまったら敗北とする。また決闘の立会人である俺の判定は大地の精霊が宿りし偉大なる石による決定と同じとし、勝負が決まればそれが覆ることはない。双方異論はないな?』

『おう、もちろんだ。早くやってくれ、タナトス』

『死んでも文句なしってことか。恐ろしい勝負だな。まあ、けど俺も異論はないよ、タナトス』

『双方の合意をここに確認した。では、いざ尋常に勝負開始!』

広場で向かい合う俺とイアンのそばで決闘の立会人であるタナトスが合図を出す。

次の瞬間、イアンの体が膨れ上がった。

大きな声をあげながら膨張する体は高さ5mの巨体となる。

すぐ目の前にいた俺が首を上げても相手の顔もはっきり見えないくらいに大きかった。

そのイアンが右足を大きく上げ、そして大地に極太の杭を縫い付けるかのように俺に向かって下ろしてきた。

ドゴン、という轟音とともに地面が揺れる。

あまりの衝撃で、まるで以前体験した地震のことを思い出してしまう。

地震のことを思い出すということは、どうやら俺の体と脳はまだ無事のようだ。

ほとんど無意識に反応していた。

イアンの足が振り下ろされる直前に大きくバックステップを踏んで後退していたのだ。

あの一瞬で俺の位置はイアンの足では攻撃の届かない場所にまで逃げていた。

我ながらよくまあ反応できたと思う。

イアンは強い。

それは間違いない。

が、俺はそのイアンの強さを感じ取っていても過度には怖がったりはしていなかった。

やはり、個人的には不死骨竜と戦った経験があるからではないだろうか。

不死者であり、竜であった不死骨竜は非常に強力で厄介な相手だった。

あれと比べれば、いくら強いといってもアトモスの戦士が相手でも震えて動けないということもない。

もっとも、決闘場の周囲にいたほかの観客などは、一瞬の動きに反応すらできずに俺が巨人に踏み潰されたかと思ったようだ。

あっ、とか、きゃあ、とかあちこちでいろんな悲鳴が上がっていた。

だが、それも長くは続かない。

誰かが、あそこだ、と指差したほうに大衆の視線が移り、そこに俺の姿を発見しホッとする。

そんなことがあり、イアンの攻撃によって舞い上がった砂埃が落ち着くころ、俺は腰に吊るしていた剣の鞘から一本の剣を抜き取った。

今度はこちらが観客を驚かしてやろう。

『イアン、死ぬなよ』

攻撃を加える前に一言だけ相手に告げた。

今から使うこの剣はもちろんただの剣ではない。

特殊な効果を発揮することができる魔法剣と呼ばれる剣だ。

だが、俺はこの剣をまだきちんと使いこなせていない。

なぜなら、この魔法剣はグランとルークが共同研究によって作り出した、新作魔法剣だからだ。

教会が【聖域】という魔法を使って封印することでしか対処できなかった不死者の王。

その不死者の王を倒すことのできる神剣を作るために模索してできた新たな剣を俺は初めて使用したのだった。