軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学習意欲

「うーん、この感じだと【並列処理】ができても東方言語を話せるかはそいつ次第って感じになるのかな?」

「そうだね、アルス兄さん。あれからそこそこ期間を空けてみたけど、覚えが速い人もいれば遅い人もいるみたい」

「なんでだろ? 【並列処理】できれば少なくとも学習効率は上がるはずだろ?」

「アルス兄さんは【並列処理】のことを誤解しているんじゃないかな? あれは、同時に複数のことに意識を向けられるだけだよ。別に【並列処理】ができても頭が良くなるわけではないからね」

「ああ、なるほど。言い方が悪いかもしれないけど、頭が悪いやつが何人に増えても賢い頭脳が手に入るわけではないってことか」

カイルと一緒に東方にあるバリアントへと行き、帰還希望者数十人に対してリード姓の名付けを行った。

これにより、その数十人は【並列処理】ができるようになったわけで、それを使って東方の言葉を覚えるように命じたのだ。

いずれ通訳ができるようになってくれればと思っていた。

だが、それから少し間を空けてもう一度バリアントに来たときに気がついたことがある。

それは同時にカイルから名付けを受けたにもかかわらず、言語の習得スピードに結構違いが出ていたのだ。

速いやつはたどたどしくともバリアントの現地人とそこそこの話をできるくらいにはなっていた。

が、できないやつは全然できていなかったのだ。

それはおそらくモチベーションが上がらずに勉強をサボっていたのもあるのかもしれない。

が、それ以上に俺が思っていたほどに【並列処理】は万能ではないということだった。

まあ、それもそうかもしれない。

俺も地頭が特段いいわけでもないからな。

俺という人間が10人いたとしても、カイルが10人いるグループと頭脳競技の勝負をしたらおそらく完敗するだろう。

同時に物事を考えられるというのは効率的ではあっても、賢くなれるわけではないのだ。

しかし、そうは言っても言葉をしゃべるというのは頑張れば誰でもできると思う。

それができないのは、やはり根本的にやる気の問題であるような気もする。

どうすれば、不勉強なやつらのモチベーションを上げることができるだろうか?

「それなら、学習が遅れている人たちにはやりたいことを通して勉強させてあげるようにしてみたら?」

「やりたいことを通して? どういうことだ、カイル?」

「ほら、ボクは前にバルカニアの学校で教壇に立って生徒を教えていたこともあるでしょ? 基本的には生徒のみんなってやればだいたいできるんだよ。できない人もいるけど、自分が興味を持つことと絡めて教えてあげれば割とできるようになることも多かったんだよね」

「うーむ、そういうもんか」

確かに外国の言葉をアニメを通して覚えた、なんて話も聞いたことはあるな。

異性とのコミュニケーションを通じてでも言葉の習得は早くなるというのも聞いたことがある気がする。

が、こっちで異性と仲良くなったら地元に帰りたくないというかもしれないか。

なにか興味を引くようなことでもないだろうか?

「あ、それならお米の育て方を覚えてもらったらいいんじゃないかな、アルス兄さん」

「米の育て方?」

「うん。ここに来た人ってだいたいが元農民だったみたいだからね。興味があるというか、生まれたときから農業はみんな知っているでしょ? 農業を通してだったらこっちの言葉も覚えやすいかもしれないと思ってね。それに確かバルガスさんのところでお米を育てられる人がほしいって言っていたじゃない」

「そうか。ここは山の麓だけど確か水田もあったっけか。前に来たときは真冬で雪が積もっていたからわからなかったけど。そこで、こっちの住人から米の育て方を習わせてついでに言葉も覚えられないかってことか」

うまくいくだろうか?

まあ、案外農業で使う言葉はそこまで多くはない。

麦と稲という育てるものが違っていても、肉体労働を手伝って仕事を覚えるだけなら完璧にしゃべれなくともできるかもしれない。

そうだ。

ついでに米作りだけではなく、米を使った酒造りも覚えてきてもらってもいいかもしれないな。

なにせ、俺がいちいちバルガスと一緒に酒造りの研究をするわけにもいかないのだから。

『というわけで、協力してもらえるか、スーラ?』

『はい。こちらは別に構いませんよ、アルス様。幸い、我々もアルス様から授かった魔法によって、今までよりも農地を広げることができるようになりました。そこを使って米作りを教えるくらいなら、わけありません』

『ありがとう、助かるよ。あ、そうだ。ついでに育てる稲はこれも使ってみてくれないかな?』

『……ほう。これまたいい稲ですね。一粒一粒が大きく実っていて、身がしっかりしています。それに一房に実っている数も多い。これは今まで我々が育てていたものよりもいい稲ではないかとお見受けしますが』

『さすが、よくわかるな。これは俺とそこにいる弟のカイルが新しく作ったバルカ米という新種だ。これで何枚かの田んぼで米作りをしてみてくれ。あと、できたら収穫したこれも使って酒造りもやってみてほしいかな』

『さすがですな、アルス様は。このように良い稲までもをお作りになることができるのですね。わかりました。アルス様に頂いたこのバルカ米、精魂込めて育てさせていただきます』

『うん。よろしく頼むよ、スーラ』

以前、シャーロットの部下に米作りのやり方は聞いたことがあった。

そのやり方をまとめて書いた紙もある。

すでにそれを見ながらバルガスが湿地帯を埋め立てて作った田んぼで米を育てるようになっている。

が、こうして、こちらでも育ててもらうのもありだろう。

土地によって育ちやすさも違うだろうし、何よりこっちの人間なら米作りに慣れているはずだ。

米作りを教わるやつは最悪言葉を話せるようになれなくても、米の育て方さえ覚えることができればバルガスのところで再就職できるだろう。

そうすれば、バレス領で農地を持つ農民として暮らせることにもなる。

ただ単に言葉を覚えるだけよりもやる気がアップするかもしれない。

こうして、俺はバリアントでもバルカ米を提供して栽培し、その農作業を帰還希望者に覚えてもらうことにもしたのだった。