軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

短期的指導法

『はーい、みんなキリの星占いの時間だよー。と、言いつつ今日はちょっと特別なお客さんが来ているんだ。誰だと思う? んー、もしかしてアルス君が出てくるかもって思ったかな? 残念っ、今日は違うんだ。今日この番組に来てくれたのはバルカニアで新しく結成した女性歌手集団、オペラの歌姫さんたちなんだー。なんと、あのクレオンさんから歌の技法を教わった女の子たちが一曲歌ってくれることになったんだよ。ラジオで初お披露目の歌だからみんなぜひ聴いてほしいな。それじゃ、歌姫さん、よろしくねー』

朝食時に流れるラジオ放送。

そのラジオからキリの星占いのコーナーが聞こえてくる。

が、いつもならば占いについてあれこれ話すはずのこのコーナーで、キリが特別ゲストを紹介する。

オペラの歌姫。

新たにバルカニアで生まれた新進気鋭のアーティスト集団、という触れ込みだ。

もちろん、これは俺がバルカやフォンターナの街を中心に若くきれいな女の子を集めて、クレオンに名付けさせて作ったグループだ。

ある程度、形になったということで今日は初めてのラジオ出演となったわけだ。

このラジオだが、ヴァルキリーの角の共振動現象を利用したもので録音放送ではない。

つまり、すべてのラジオ放送は生放送であり、当然今流れている歌姫たちの曲も生演奏しているのを流している。

最初の大仕事でもあり、ちょっとした失敗もあるかもしれない。

そう思っていたが、どうやら無事に歌姫たちはトラブルなく歌い終わったようだ。

それを聴き終えて、俺もホッと一息ついた。

「いやー、どうなるかと思ったけど、なんとか無事に成功に終わったみたいだね」

「本当ね、アルス君。聴いているこっちのほうが緊張しちゃったわ」

「エイラ姉さんも緊張とかするんだね。遊戯地区をバシバシ切り盛りする女将さんとして恐れられているのに」

「もうっ、そんなこと言わないでよ、アルス君。私だって緊張くらいするわよ。でも、本当に良かったわ。あの子たち、みんな歌だけじゃなくてキリさんとの話の受け答えもしっかりできているようね」

「本当だね。キリは人気があるから緊張もするだろうに、しっかりできているみたいだね。まあ、歌姫の中でも年長者がしっかり引っ張っていってるって感じかな?」

「ええ。年齢が下の子たちはまだちょっと固いかしら? でも、経験を積めば全員しっかりすると思うわ」

「うん、そうだね。それに期待だね」

歌姫たちが歌い終わったタイミングで、俺は隣りにいたエイラ姉さんに声をかける。

一緒にラジオを聞いていたエイラ姉さんは歌が流れている間、息を止めて聴いているという有様だった。

まあ、それだけエイラ姉さんは責任を感じているのだろう。

なにせ、歌姫たちを育てたのはほとんどヘクター兄さんの妻であるこの女性だったのだから。

【歌唱】という魔法を作り上げたクレオンにオペラ姓を名乗らせて騎士家を作らせた。

そして、すぐに俺は大きな街にオーディションの実施を告知したのだった。

キリと人気を二分するほどの人気歌手クレオン自らが女性歌手志望者を集めてその歌の技術を教えることになり、メンバーを集めると言ったのだ。

生涯歌手として生活していく気構えがある女の子は集まれと宣伝を出した。

結果、かなりの数の女性が集まった。

というか、集まりすぎたくらいだ。

一次選考を書類審査にできなかったのが悔やまれる。

フォンターナの街やバルカニアの会場に集まった女性陣の数が多すぎてさばききれなかったほどだったのだ。

まあ、手軽に写せる写真なんてものもないので、書類選考で選ぶのは難しくどうしても直接会ってこの目で見る必要があったのでしょうがないのだが。

そうして、集まったたくさんの女性から俺とクレオンとエイラ姉さんが歌姫候補を選んで残していく。

一次選考、二次選考、最終選考と厳しい選別を乗り越えて結果的に8人の歌姫が誕生することになった。

最初に48人とか言っていたような気もするが、実際にはいきなりそんなにたくさんのメンバーの面倒を見れる気がしなかったというのもある。

が、その結果、非常にいいメンバーを選出できたと思う。

まずは見た目だ。

全員容姿が非常に整っている。

基本的にみんな街や町村に住む普通の庶民の女の子だが、拗らせ男性のクレオンが気に入った女の子たちばかりが残ったので多分多くの男性に好まれる見た目だと思う。

だが、外見だけで選んだわけではない。

エイラ姉さんというバリバリ働く女性の眼を通して選んだのだ。

エイラ姉さんに頼んで見極めてもらったのは、芯があるかどうかだった。

【歌唱】という魔法が得られはするが、それでも歌手になる以上、これからずっと歌の練習を続けていかなければならない。

それはどうしても気持ちが強く、折れない心を持っていなければならないことを意味した。

エイラ姉さんはそういうのをしっかり見極めてくれる感じがしたのでアドバイスをもらったのだ。

そして、最後の審査員である俺は魔力量をチェックした。

クレオンの名付けを受けて【歌唱】を手に入れるといっても、どうしても最低限の魔力の量は必要になる。

いくら可愛くてしっかりしていて歌がうまくとも、魔力が全く無さそうだったりした場合は残念ながら不合格とした。

まあ、どうしても歌姫になりたいのであればバルカニアに移住して次のチャンスを狙ってほしい。

とにかくこうして厳しい選考を経て、魅力的で魔力もあり、歌も上手なメンバーが勝ち残った。

この8名はすぐに全員に対してクレオンが名付けして、まだ劇場がない状態にもかかわらず猛練習に励んだのだ。

「しかし、全員最初から歌はうまかったけど、立ち居振る舞いはすごく変わったね。言い方が悪いかもしれないけど、みんな町人とか農民っぽい雰囲気がでてたのに、エイラ姉さんの指導を受けてからピシッとしたよね?」

「そうね。これでも一応、アルス君に頼まれた仕事には全力で取り組んだつもりよ。少なくとも遊戯地区にやってくるお客様の前であれば問題なく対応できるだけの振る舞いはできるようにしたわ。もう少し指導すれば、貴族様の前に出ることもできるかもしれないわね」

「すごいね。俺も騎士になったばかりの頃は結構クラリスなんかに行儀作法の指導で厳しく教わったけど、貴族向けの礼儀なんかは覚えるのが大変だったよ。よく、短期間でそこまで教え込めたね、エイラ姉さん」

「ふふふ。実は今回に限ってはちょっと裏技を使っちゃったの。だから、割とすぐに成果が出たんだと思うわ」

「裏技? 礼儀や立ち居振る舞いを覚えるのにそんなものがあるの?」

「ええ。前にカイル君が【並列処理】っていう魔法を作ったのは知っているわよね? それを使ったのよ」

「【並列処理】を使った? それで覚えるのが早くなるの?」

「そうよ。例えば、歌を歌いながらも手や足を動かしてきれいな振り付けをするときとか、あるいは人と話しながらも礼儀正しい姿勢をとるとかなんでもいいわ。そういうときって、いつも無意識であっても複数のことを同時進行にこなしながら体を動かしているのよ。そういうのって、覚えるときは必ず複数の要素をバラバラに分けて、それぞれを習得しなければならないでしょう? 【並列処理】があれば、頭の中で同時に別々のことを考えながら行動できるから、覚えやすいのかもしれないのよね」

……なるほど。

そう言われると分かる気もする。

礼儀やマナーや、体の使い方なんかは一つのことを注意されてそれを直そうと意識するとそれだけに集中して他のことがおろそかになることがある。

背筋を伸ばすことを意識しすぎて手先が疎かになったりしたりする。

そういうのを気をつけながら、一つ一つの動きをマスターして、その後にそれらの動きを同時にできるようにする必要が普通ならあるわけだ。

それが、【並列処理】が使えれば一気に問題解決する。

言い方が正しいかどうかわからないが、頭の先から爪先まで、自分の体すべての動きを別々に捉えて並列で処理して行動できれば、正しい動きというのをマスターするのは早くなるのかもしれない。

クレオンはオペラ姓を名乗っているが、その大元にはリード姓があるためにこの【並列処理】が使える。

つまり、オペラの歌姫たちは全員が【並列処理】という魔法を使いながらエイラ姉さんのレッスンを受けたというわけだ。

それによって、恐ろしく短期間で農家生まれとして溢れ出ていたイモっぽさが消え、貴族の前にでも出られるかもしれないというほどの立ち居振る舞いができるようになったのか。

なにそれ。

くっそ便利じゃん。

カイルの作った魔法の有用性がまた一つ判明した。

正直羨ましい。

その話を聞いて、俺は思わずリード姓を持つ者たちに嫉妬してしまいそうになったのだった。