軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新バルカニア

「バルカニアを拡張するって本当か、坊主?」

「ああ、そうだよ、おっさん。今はバルカ城がある内壁区と内壁と外壁の間の城下町、そして、その北に牧場区がある。それをさらに拡大する」

「うーむ。まあ、アトモスの戦士なんていう巨人連中を受け入れるって話もあるしな。拡張できるならしておいたほうがいいかもしれないか」

「そうだな。それにバルカニアは人が増えすぎた。もともと村だったところに、俺が開拓地を作ってそこに人が住み着いただけだからな。決定的な問題がこの街の構造にはあるんだよ」

「……ゴミとか下水の処理だな」

「そうだ。できれば拡張するついでに都市の整備をしたい。壁を延長するだけじゃなくて、地面の下にも気を配ってね」

「ふーむ。それはいいが、バルカの魔法を使うといっても地表だけだろ? 地下をどうにかする必要のある下水道の整備までするなら時間がかかりそうだな」

「いや、それは俺がやるよ。俺にいい考えがある」

バルカニアに劇場を作ることを考えた俺だが、せっかくならもっと都市整備をしてしまおうと思う。

現状ではバルカニアは一辺4kmの外壁で囲まれた正方形の土地と、それと同等の面積の牧場区が南北に接している長方形となっている。

これを思い切ってさらに倍にしてしまおうかと思っているのだ。

つまり、4km四方の壁に囲まれた区画が4個集まった正方形の形の都市にしようという計画だ。

これは今も少しずつ増えている住民数を吸収するためでもあるが、おっさんの言う通りアトモスの戦士を受け入れるためでもある。

こちらの使用する言語とは異なる言葉を使う集団を受け入れた際に、そのまま問題なくこちらに溶け込んでもらえたらいうことはない。

が、もしかするといろんな軋轢が出るかもしれない。

ただでさえ言葉が違ううえに、アトモスの戦士は当主級の強さを持っているのだ。

酒を飲んで口喧嘩をしたなどでヒートアップして殺傷事件に発展してしまうことがあるかもしれない。

そうなるくらいなら、ある程度受け入れる場所を区切っておくほうがお互いのためにもいいのではないだろうか。

さらに、アトモスの戦士の受け入れ問題の他にも下水処理なども気にはなっていた。

もともとがヴァルキリーの食料を作るためだけに土地を開いた開拓地で、その後、大猪対策で壁で囲んで、更にその後になってから俺の領地の中心地として街として活用することになった。

そのため、都市機能としては割とお粗末な作りなのだ。

それを解消するいい機会ではないかと思う。

「いや、任せろってどうするつもりなんだ、坊主? 新しく作る地区を坊主が魔法で穴掘って下水道を作るのか? だけど、どうせやるなら今あるバルカニアの土地の下も下水道なんかを作ったほうがいいんじゃないのか?」

「そうだな。だからまとめてやるよ」

「んん? まとめてやるってどういうことだ? 何を考えているんだ、坊主?」

「最近、バルカニアは面白いことができるってことに気づいてな。アトモスフィアを使って、都市機能を追加する」

「……は? アトモスフィアを使って? あのでかい黒い大岩をか?」

「そうだよ。あれは迷宮の核に相当するものだ。そのアトモスフィアの内部には膨大な魔力が内包されているが、その魔力がどうやらバルカニアの土地に行き渡ったみたいでな。それを利用する」

「え……、そんなことができるのか。迷宮核ってのは」

「タナトスたちアトモスの戦士は自分たちの強化や魔法の習得にしか使えていなかったみたいだけどな。だけど、俺ならアトモスフィアの魔力を使って土地の改良ができた。すでに実験済みだよ。さあ、どんな都市にするか計画を立てようか」

そう言っておっさんのほかにも父さんやヘクター兄さん、カイル、マドックさんなどを呼び集めた。

そして、新たな都市構造について検討する。

バルカ城とその城下町となっている場所が4つの大区画のうちの南東に位置することになる。

そして、その北側にある北東が牧場エリアで、その2つの区画の東には森林保護区が広がり、管理された土地として木材を確保するようになる。

そのほか、新たに追加する大区画のうちの北西がアトモス地区として整備し、南西が新市街となる予定だ。

新市街には炎高炉を設置しようと思う。

これは鉄を鍛えるための炉ではなく、ゴミ処理場や焼き場とする予定だ。

今まで死者の埋葬は火葬か土葬かはきちんと決まっていなかったが、都市を大きくする以上リスクを減らすためにも火葬に決めることにしようと思う。

そして、下水道の整備もする。

基本的に生活用水は生活魔法による【飲水】や【洗浄】があるので、そこまで大量の汚染水はでることがなかった。

が、人口が増えればそうもいかないだろう。

塵も積もれば山となるというし、汚れた水によっていろんな影響が出るだろう。

それにトイレの問題もある。

人は食べ物を食べる以上、出すことも大事なのだ。

それらの大まかな青写真を作り、さらに細かな点も計画段階で決めていく。

そして、その計画書と街の設計図を手にして、俺はアトモスフィアに手を当てた。

高さ300mを超える大きな岩のアトモスフィアは、ある意味超高層ビルみたいなものだろうか。

その大きなビルいっぱいにみっしりと魔力が込められていて、さらにその魔力はアトモスフィアの接する地面からバルカニアへと染み込んでいた。

その魔力を俺が活用する。

以前、アトモスの里からバルカニアにアトモスフィアを移転した際も、アトモスフィアに内包されていた魔力を利用できたので問題ない。

アトモスフィアに手を触れ、その中にある魔力をさらにバルカニアへと浸透させるイメージで操作していく。

そしてつぶやく。

アトモスの壁、と。

次の瞬間、バルカニアの中心地点でアトモスフィアに触れている俺がいる場所ではなく、バルカニア外壁の南西の角から次々と西へ向かって壁が生えていく。

なんというか、不思議な気分だ。

明らかに自分では見えていない範囲にもかかわらず、土地の形が魔力的に完全に把握できている。

ひたすら「アトモスの壁」とつぶやき続けて、新市街とアトモス地区の壁を作り上げてしまった。

というか、今まで外壁は【壁建築】で作った高さ10mの壁だったので、ついでとばかりにすべての外壁を高さ50mで作れる【アトモスの壁】に変換していった。

が、その後はもう少し慎重な作業が待っていた。

今度は4つの大区画の地下全てに広がる下水道を作り上げるのだ。

この作業はおそらくアトモスフィアがなければ俺はやっていなかったかもしれない。

俺の魔法はどういうわけか地表部分が起点となっていて、なにも考えずに漠然と建物を建てようとするとその容積の大きさに比例して魔力消費量が多くなるという性質があった。

そして、それは同時に地下でも同じだった。

俺が魔力を使って地下に下水道のような施設を作ろうとしたら、地表からの深さによって魔力消費量が増えてしまうのだ。

俺だけの魔力量だとさすがにそんな広範囲の下水設備を地下深くに作るのは骨が折れる。

だが、アトモスフィアの魔力を使えばその魔力消費を肩代わりできたのだ。

今回の拡張の前にすでに地下へ向かう縦の穴は試しに作っている。

マンホールのような蓋をつけて、地下へと縦に掘られた穴。

それらの縦穴と同じようなものをさらに作り、地下で横につながる下水道を作り上げる。

このとき、うまく水が流れるように傾斜をつけることに気をつける。

ちなみにこの下水道は新しく作った壁の外の水堀につながっている。

普通に考えると水堀に汚染水を流し込めば、臭くてたまらないだろう。

だが、その問題はスライムを使用することで解消した。

水堀にスライムが住めるように専用の草を植えて環境を整えたのだ。

これはダムなどにスライムがいると、明らかに水が綺麗になっていたからだ。

スライムはダムに貯まる土砂のほかにも汚れをきれいにしてくれている作用がある。

そのスライムの働きを下水にも利用してみたのだ。

なお、間違って水堀に落ちたときには大惨事になるが、まあ防衛力の強化という側面もあるので許してもらおう。

今回の下水道づくりは以前ドレスリーナという街を作った経験があったのが良かったのかもしれない。

川北城があった場所を再開発して、一つの街にしてしまったのだが、そのときに下水施設も作っていたからだ。

その経験が生きた。

ドレスリーナの下水道を魔力的に記憶しておいて、それをバルカニア拡張計画で使用できたことで、つくった下水道もそこまで大きなトラブルが発生しないまともなものが出来上がった。

こうして、ガロード暦3年の夏、バルカニアはさらに巨大都市に生まれ変わったのだった。