軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

交渉への決意

「急報、何者かが攻撃を仕掛けてきました。現在、警備隊が迎撃に動いています」

まだ、朝日が顔を出したくらいの早朝に私のもとへと報告が入りました。

それと同時に大きな音が聞こえてきます。

もしかして、アトモスの戦士たちが来たのでしょうか?

それならば急いで対応しないといけません。

ブリリア魔導国の第三王女たる私はこの場の責任者なのですから。

シャーロット、いざ参る、ですわ。

「お逃げください、シャーロット様。ここは危険です」

「え……、なんですか、あれは。ブリリア魔導国が誇る最新鋭の魔装兵器があれほど簡単にやられるなんて……。信じられません」

「シャーロット様、ここは危険です。すぐにお逃げください」

「な、なにを言っているのですか。私はここの責任者です。皆を残して逃げるようなことはできません」

「いけません。奴らが何者かわかりませんが、あの魔装兵器がああまで軽々と撃破されているのです。それに見たこともない攻撃をあの男は使ってきました。ここは一旦引いてください、シャーロット様。おい、お前たち、シャーロット様を安全なところへとお連れしろ」

「はっ」

知らせを受けて現場へと向かったそこはすでに戦場でした。

見たこともない軍勢がここへと押し寄せて、警備隊を攻撃しているのです。

ですが、ブリリア魔導国は急な襲撃にも対応できるように常に訓練を積んでいます。

このような事態にも即座に対応できる、はずでした。

ですが、そこには予想外の光景が広がっていました。

アトモスの戦士と呼ばれる蛮族の巨人を相手にしても勝利を収めた実績のある魔装兵器。

その魔装兵器が多数投入されたというのに、戦況は明らかにこちらが悪いのです。

たった二人。

この場にいる巨人は二人だったのです。

ほかは巨人化することもない相手で、これまでも何度かあったアトモスの戦士による襲撃は魔装兵器を投入することでこちらが常に優位に戦ってきたはず。

だというのに、それを覆す存在がいました。

少年です。

私と同じ年頃に見える少年。

その人の周りには数多くの精霊が付き従っていて、そしてその精霊が魔装兵器を瞬時に凍結させてしまう。

それだけではありません。

その凍った魔装兵器に剣を一振りするだけで、今度は離れた場所にいる私までもが燃えてしまうのではないかと言うほどの高温の炎で焼いてしまうのです。

それが原因でしょうか。

その少年の後に続く女性の巨人の攻撃を受けると魔装兵器は大きくひび割れて、バラバラに砕けてしまっていました。

しかし、それだけならまだ対応しようがあったのかもしれません。

魔装兵器を相手にしているのはもうひとりの男性巨人を含めた三人だけで、あとの襲撃してきた集団は警備隊が取り囲んで攻撃を加えていたからです。

集団のほうをどうにかすれば、他の人員をあの三人に回すことができる。

そのはずだったのです。

ですが、そうはなりませんでした。

あれは私も見たこともない魔装兵器なのでしょうか?

このアトモスの里で採掘した精霊石を使用してブリリア魔導国が独自の技術でもって作り上げた岩の巨人。

それと同じように、あの少年は氷の大蛇を出現させたのです。

見たこともない技術です。

まさか他にも魔装兵器を開発していた存在がいたとは思いもしませんでした。

状況は明らかにこちらが不利。

相手の情報がなさすぎることが原因でもあるでしょう。

不利を悟った警備隊の総隊長は私を逃がす決断を下しました。

本当なら、私が戦うべきでした。

ですが、魔力量が多いとはいえ、私自身はお父様のように実際の戦場でその力を振るったことがありません。

できるのは魔装兵器を操るくらいです。

その肝心の魔装兵器が相手には通用しない。

自分の無力さが嫌になってしまいました。

こうして私は総隊長によって命じられた兵たちに先導されて、一度撤退することになったのです。

※ ※ ※

なんで……。

どうして?

すぐに逃げたのに。

あれだけ距離をとったのに。

見つからないように隠れていたのに。

私はあっという間に捕まってしまいました。

真っ白な獣に騎乗した者たちは、建物に隠れていた私をなんの迷いも見せずに見つけ出して、アトモスの里へと連れ戻したのです。

これから私はどうなるのでしょうか。

こんなことならお父様と喧嘩するのではありませんでした。

でも、仕方ありません。

だって、あんなに年の離れたお父様よりも年上の方と結婚させられるくらいなら家を出ていってやる。

あのときは本気でそう思ったのですから。

お兄様の取りなしで仕事を与えられてここに来たことは間違っていたとは思いません。

が、こんなにあっさり負けて捕虜になるとは思いもしませんでした。

アトモスの里へとやってきて私たちを襲撃し、そして私の身柄を拘束した集団。

それはなんとあの霊峰の向こうから来たと言うではありませんか。

そんなの絶対にありえません。

そう、思ったのですが私と話しているお相手のアルスという少年の装備が気になります。

あの意匠はどこかで見たことがあります。

どこだったかしら、と考えていて思い出しました。

あれは確か名匠グランの作品ではないでしょうか?

持っている剣や身につけている鎧の造形にどことなくグランの影がちらつきます。

かつて、多くの国を渡り歩き、高い人気を誇った名匠グランの作品は今もなお欲しがる者が多くいます。

お父様もお気に入りの造り手だったはずです。

ですが、もう何年も前にグランは人を連れて霊峰の西へと向かい、そして帰らぬ人となったはず。

だというのに、アルスの装備はどれも新しく、そして見たことのない素材を使っているようです。

もしかして、魔物素材を使った装備、だったりするのでしょうか?

いえ、そんなまさか。

あり得るはずがありません。

グランは死んだのです。

あの霊峰に入って。

でも、もしも、彼が霊峰を越えて向こうにたどり着いていたとしたら?

もしそうであれば、彼の持つ装備が本当にグラン作であれば、アルスの言う通り、彼らは霊峰を越えた先にある国から来たのかもしれません。

危険です。

私の頭の中には常に警戒の文字が浮かんできました。

ですが、それと同時にこれはある意味絶好の機会なのではないかとも思ったのです。

ブリリア魔導国どころか、他の国々もまともに繋がりを持っていない霊峰の西の国との関係。

それには大きな意味があります。

なぜなら、相手はブリリア魔導国の最新兵器である魔装兵器をいとも簡単に倒してしまうだけの力を持つのですから。

どうやら、アルスはこの土地を襲撃したものの、あくまでも戦力を欲しているようですね。

それならば、私の交渉術で彼から条件を引き出してみせましょう。

さしあたって、アルスの案を受け入れるのも十分検討するに値する内容ではないでしょうか。

アトモスの戦士を彼らが西へと連れていくというのであれば、それはそれで助かるのですから。

ですがもっといい条件が引き出せるかもしれませんね。

お父様、見ていてください。

このシャーロット、一世一代の仕事を見事こなしてみせましょう。

そして、それを交渉材料にしてあの縁談の話はなかったことを認めてもらいましょうか。

一旦出ていったアルスの後ろ姿を見ながら、私は決意を新たに彼との交渉を有利にすべく、両手をグッと握りしめながらあらゆる事態を想定していったのでした。