軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔王脅威論

『私たちの目的は魔王を倒すことにあります』

『……はい? 魔王、ですか?』

『そうです。実は我々はあなた方がいう霊峰を越えた西にある国の者なのです。そこでは最近になって魔王が誕生しました。神敵である魔王ナージャは日々力をつけており、いずれ手がつけられなくなるかもしれない。故に、それに対抗するために我々はあの山々を越えてここまで来たのですよ』

『……あの、冗談はそのくらいにしていただけませんか? 私を馬鹿にしているおつもりですか? いくらなんでもあの霊峰を越えてこられるわけがないでしょう』

『事実ですよ、シャーロット様。私はあの山を越えてきました』

『……いえ、それはありえません。そのようなことは不可能です。霊峰は常に雪と氷で閉ざされた場所。かつて何度も西へと向かった探索隊があったと聞きます。が、そのすべては失敗に終わっています』

『なぜ、失敗に終わったと断じることができるのですか? もしかしたら、それらの探索隊が霊峰の向こう側へと到達したかもしれないではないですか』

『……そうですね。向こうに到達という点だけで言えばそうかもしれません。が、今まで帰ってきた者がいない以上、それらはすべて空想の話です』

『うーん、困りましたね。確かにその理論からすると、私に西から来たことを証明することは難しいかもしれませんね。ただ、事実です。我々は大雪山と呼ぶ場所を越えてこちらに来ました。魔王を倒すために、アトモスの戦士の力を得ようと思ってね』

『……それならば、どうして私たちに攻撃を仕掛けたのですか? あなたが私たちと戦う理由はないでしょう?』

『ありますよ。アトモスの戦士タナトス、彼が理由です。彼はブリリア魔導国によって卑怯にも裏切られて、なんとか逃げ延びてきたのです。それこそ霊峰を越えて、我々の住む西の国にね。そして、私と心を通わせて絆を結んだそのアトモスの戦士が故郷への帰還を望み、私たちはアトモスの戦士の力を欲した。つまり、私の目的はタナトスの求めに応じてアトモスの里を解放し、その後再びタナトスの助力を得て魔王と対峙する、ということにあるわけです』

『その魔王とは、どのような存在なのでしょう?』

『魔王ですか。そうですね。実は最初はそれほど力を持たない存在だったのですが、周囲を襲い、そこから力を得るという特殊能力を持っていたために恐るべき速度で成長し続けている相手です。故に、中途半端な戦力では相手にならないどころか、魔王の力を助長してしまうことになりかねません。なので、魔王と戦うには仲間を集めて一気に叩く必要があるのです』

『ふふ。まるでおとぎ話のようなお話ですね』

『我ながらそう思います。が、事実ですよ。魔王ナージャは実在する。そして、その脅威に我々は常に晒され続けているのです』

『……わかりました。つまり、あなたはこう言いたいのですね。魔王と戦うためにより強い存在と手を組みたい、と。であれば、こうしませんか? 我がブリリア魔導国と手を組みましょう。あなたと私が手を組めば、アトモスの戦士などに頼るよりもより力強い関係になるでしょう』

シャーロットがニコリと笑ってそう言ってきた。

いいね。

いきなり魔王がどうだとか、わけのわからん話をしだした俺に対して、うまく話を転がしてくれた。

というか、シャーロットのとり得る選択肢など限られている。

こういう提案をしてくる可能性は十分に考えられた。

アトモスの里を襲ったブリリア魔導国はその後、この地を占領した。

数年にわたって武器に転用できる精霊石を回収し続けてきたのだ。

が、なぜ、そんな場所にシャーロットのような王族がいるのかというと、問題が発生したかららしい。

アトモスの里と呼ばれる大渓谷を占領したブリリア魔導国は当初地表にむき出しになっていた精霊石を回収していたらしい。

が、数年ほどそれを続けて、地面に落ちている精霊石を拾うだけの簡単なお仕事は終わった。

後は、道具を使って地面から掘り起こさなければならなかったのだ。

しかし、そこで問題が起こった。

実は近年、採掘をしている作業員が魔物に襲われる事件が発生していたのだ。

アトモスの戦士たちが大地の精霊が宿りし偉大なる石と呼ぶ、おそらくは迷宮核があるこの地は魔力が豊富だ。

そして、その魔力密度に引き寄せられて魔物が出てくることもある。

そう、ここは攻略済みの迷宮とは違って魔物が出現するのだ。

蛮族の地と呼ばれるだけあるということだろう。

もともと、ここで生活していた巨人たちならば苦もなく倒せる程度の魔物でも、一般人が採掘員として連れてこられた場合、その被害は計り知れない。

故に、警備の兵とともに魔力量の多い強い責任者が必要だった。

そこで白羽の矢が立ったのがシャーロット王女だったのだろう。

シャーロットはなんとしてもこの地を守る必要があった。

だからこそ、一度戦い、しかし敗北してしまった相手に対してこう提案したのだ。

自分たちを攻撃したことは許してやるし、なんなら多少の譲歩も考えるから、アトモスから手を引け、と。

魔王がどうたらと訳のわからんことを言い出した相手であっても、お互いの妥協点を導き出して合意を取ろうというのだろう。

この提案は俺にとっても割と魅力的ではある。

正直、アトモスの里は現状が悪すぎる。

ここでシャーロットを相手にブリリア魔導国と国交を結べたほうが利益も大きいのではないだろうか。

が、タナトスたちの問題を放置する気もない。

なので、俺はシャーロットに対して別の提案を持ちかけることにした。

『逆に我々がアトモスの戦士とブリリア魔導国の問題を解決しましょうか、シャーロット様』

『アトモスの戦士との? どういうことでしょうか?』

『私としては先程お話したようにアトモスの戦士という戦力がほしいわけです。そして、シャーロット様としてはこれ以上アトモスの戦士が土地を奪い返しに来ないようにしたいとはお思いではありませんか? つまり、私がアトモスの戦士とブリリア魔導国との仲介を買って出ようというわけですよ』

『……仲介など本当にできるのですか? 正直、あまり信じられる内容ではないのですが』

『可能です。アトモスの里という土地はあなた方が、アトモスの戦士という戦力は私が、お互いでおいしいところを分け合ってみるというのはどうでしょうか?』

俺の言葉を受けて考える様子のシャーロット。

どうだろうか?

俺たちの側とブリリア魔導国側の利点のすり合わせという点ではこのくらいの案しかないと思う。

まあ、シャーロットが心配する通り、生き残っているアトモスの戦士がそれを受け入れるかどうかという問題点はあるのだが。

シャーロットが返事をする前に、同じ部屋にいた通信兵から俺に対して声がかかった。

どうやら【念話】で連絡が入ったようだ。

俺が頼んでいたことが完了したという知らせがきた。

それを聞いた俺は、シャーロットを残して部屋を出る。

タナトスはともかく、ライラなんかは怒るかもしれないな。

俺はこれからの自らの行動における結果を考えながら、アトモスの里を離れる準備をしたのだった。