軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

退治完了

「頑張れ、ヴァルキリー!」

「キュイ! キュイ!」

俺の言葉を受けてさらにヴァルキリーの疾走速度が増した。

振り落とされないようにしがみついているだけでも精一杯だが、なんとか頭だけを後方へと向けて確認する。

ドドドドドっという音とともに大猪たちがこちらを追いかけるように走ってきている。

どうやら俺が放った散弾攻撃を受けた先頭の個体は目を血走らせながら追いかけてきている。

攻撃してきた俺を許すつもりはないということだろう。

それにしても大猪の走るスピードは速かった。

ヴァルキリーに付かず離れずといった感じで追走してきている。

猪突猛進という言葉があるが、まさに猛烈な勢いで突っ込んできている。

体の大きさが尋常ではないくらい大きいだけに、追われる方としてはかなりのプレッシャーだ。

「狙い通りだな。今だ、跳べ、ヴァルキリー!」

だが、この追走劇は俺の想定内の出来事だった。

最初から俺の魔法で勝負を決めるつもりはなかった。

むしろ、俺の最大の武器は魔法ではなく、一緒に行動してくれる使役獣のヴァルキリーにこそある。

「キュイ!」

そのヴァルキリーが猛スピードで走りながら声を上げた。

しかもこれはただの鳴き声などではない。

ヴァルキリーによる魔法の行使、呪文を唱えたのだ。

それまでの猛スピードも速かったが、そこからさらに速度が上昇する。

一瞬で周りの景色が後方へと流れるほどのスピードだ。

ヴァルキリーが使用したのは【身体強化】だ。

練り上げた魔力を全身に送り込み、一時的に身体能力を上昇させるというシンプルな魔法。

だが、子どもの俺が水くみに使うのとは違い、馬型の成獣であるヴァルキリーが使えばその効果はものすごいものになる。

魔力による強化率が同じでも身体能力の基礎値が違うため、上昇する値がヴァルキリーのほうがより高いのだ。

そんな身体機能を強化したヴァルキリーが地面を蹴りつけるようにして跳んだ。

どのくらいの距離を跳んだのだろうか。

まるで空を飛んだかのような浮遊感に襲われる。

そして、そのすぐあとにズドンという音とともに地面へと着地した。

危うくヴァルキリーの背中から落ちそうになってしまう。

ドドーン。

俺が手綱ごとヴァルキリーの体にしがみつくようにして落ちないようにもがいているときだった。

後方でものすごい音がした。

着地したあともしばらくは前に進んだヴァルキリーがスピードを緩め、その後反転して音のした方へと戻っていく。

そこには大きな穴があった。

いや、穴と言うには大きすぎるかもしれない。

まるで大地が裂けたかのような亀裂。

それが地面にあった。

大地にパックリと開いた亀裂は10m近い幅があり、深さも深い。

実はこれは俺が事前に仕込んでおいた落とし穴なのだ。

巨大な体を持つ大猪には生半可な攻撃は通用しない。

ならばどうすればいいか。

俺の答えは、相手の力を利用するというものだった。

俺の魔法攻撃で怒り心頭になった大猪をヴァルキリーが大地の亀裂にまで誘うようにして逃走する。

そして、ヴァルキリーがその亀裂の直前で大きく跳躍し、それを飛び越える。

だが、怒りに任せて追いかけてきた大猪にはその亀裂を飛び越えることはかなわない。

あえなく転落するしかない。

「うん、さすがに生きてはいないみたいだな」

俺はヴァルキリーの上から亀裂の底を見下ろしながらそういった。

おそらく亀裂に飛び込んだ際に、向かい側の亀裂の壁面に頭をぶつけたのだろう。

頭からドクドクと血を流しながら、亀裂の底で息絶えている大猪の姿が確認できた。

俺が攻撃したやつも、その他の子供の大猪も死んでいる。

可哀想だが仕方がない。

せめて美味しく頂いてやることにしよう。

「よし、帰るか、ヴァルキリー」

こうして俺のはじめての戦いが終わったのだった。

※ ※ ※

「なんともまあ、本当に大猪を倒してしもうたのか。信じられん」

「やるじゃねえか、アルス。さすが、俺の弟なだけはあるな」

俺が帰還してマドックさんとバイト兄に大猪退治の報告をすると、二人はそれぞれ驚いてくれた。

というか、マドックさんに至っては退治してくるとは思っていなかったようだ。

あとから聞いたところでは、なんとかして森に追い返せる手段を考えようとしていたらしい。

「ま、何にしてもこれでもう大丈夫だよ」

「何寝ぼけたこと言ってんだよ、アルス。大猪があいつらだけで終わりなわけないだろ」

「は?」

「ほかにも畑を荒らす大猪がいるってことさ。また出てきたら頼むぜ、弟よ」

おいおい。

お前こそ何いってんだよ、クソ兄貴。

毎回、あんな大穴開けて大猪に追われながらの走り幅跳びなんかしたくないって。

終わったと思ったのに全然終わってないじゃねえか。

こうして俺は大猪が出るたびに駆り出されるようになったのだった。