軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

吸氷石

「見ろ、大雪山が見えてきたぞ、エルビス」

「本当ですね、アルス様。俺も昔はバイト様のもとでウルク地区にいたときによく見ていましたけど、久しぶりです。本当に今からあの大雪山を越えていくんですね」

「怖気づいたのか、エルビス隊長? この東方遠征軍の指揮はお前に任せたつもりだったけど、やめておくか?」

「な、なに言ってるんですか、アルス様は。やりますよ。やらせてください。アルス様のためならどこまででもついていきますよ」

「そうか。よろしく頼むよ。……で、エルビスの推薦したポールだったっけ? ここからはお前が案内してくれ」

「はい、わかりました。こちらです」

東方遠征軍と称してアトモスの里を目指す俺たち。

その俺たちの前に大雪山がそびえ立っていた。

これからこの山を越えていかなければならない。

リオンに言われてタナトスと一緒にアトモスの里に行こうとしていた俺は軍を引き連れていくことになった。

そこで、フォンターナ軍から志願者を募ったのだが、最初にその話に乗ってきたのがバルカニアにいたエルビスだった。

このエルビスはバルカ騎士領ができてすぐの頃にバルカニアへやってきた青年だ。

バルカ軍に入れられてしごかれた後は、ウルク家のペッシ率いる軍相手に籠城戦を仕掛けて、一緒に【黒焔】に丸焼きにされかねない経験をともにした。

その後はバイト兄の名付けを受けてしばらくバルトニアにいたが、後に俺が引き抜いて今はバルカニアで勤めていた。

パーシバル領の迷宮街での戦いにも参加していて女探索者のリュシカと結婚した男でもある。

どうやらこのエルビスは俺のことをちょっと行き過ぎというくらい信じてくれているらしい。

せっかくなので、こいつをリーダーにして東方遠征軍をまとめることにした。

極限状態の中で雪山を越えることになるので、俺の言うことに忠実に従う人のほうが指揮を任せやすい。

それに大雪山に登る前にかならずウルク地区を通ることになるが、そこにしばらくいたエルビスならば多少山についての知識もあるかと思ったのだ。

そして、そのエルビスが東方遠征軍の隊長として抜擢された最初の仕事として行ったのが人材の推薦だった。

ウルク地区にいたポールという男を一緒に連れていってはどうかと俺に言ってきたのだった。

ポールというのは、ウルク地区ではそこそこ有名な変人だった。

通称「死にたがりのポール」などと言われているらしい。

もともとはウルク家に仕える騎士の家の出身の男だったが、バイト兄がその騎士家を支配下に置いたときにバルト家の騎士になった経緯がある。

騎士としてそこそこの実力を持つ男であるらしい。

そのポールが変人であるとされたのは、無類の山好きだったからだ。

いつでも大雪山のことを考えており、そして、いつかは大雪山を越えて東に行こうとしていたらしい。

しかもそれはただの想像だけではなく、実際に行動にまで移していたのだ。

何度も大雪山の奥深くに入っていき山を登り続けた。

その結果、何度も遭難したりして周囲に心配をかけたそうだ。

が、本人は数え切れないほど大雪山で行方不明になりながらも、決して山登りをやめなかったらしい。

それゆえについたあだ名が死にたがりだったというわけだ。

だが、そのポールが今回役に立つかもしれない。

決して大雪山を越えた経験があるわけではないが、それでも確実に俺よりも山のことについて詳しいだろう。

それになにより、初めてポールに会ったときに交わした会話で俺はこいつのことを気に入ってしまった。

だって、なぜそんなに大雪山にこだわるのかと聞いたら「そこに越えるべき山があるからだ」と答えたのだ。

まさか、その返答をこの世界で聞くことができるとは思いもしなかった。

一度、バイト兄の領地のバルトニアで体を休めた後、本格的に大雪山に向かっていった。

ポールの指示の下、ヴァルキリーに騎乗した東方遠征軍が山へ入っていく。

「ポールが言うことが正しいなら、その不思議な石があるところでは寒さが軽減されるのか」

「間違いありません、アルス様。自分は何度も山に入っていきましたが、何度かそんな不思議な石に遭遇しています。石の周りは他よりも寒さがマシなので、そこで体を休めて何度か事なきを得ました」

「ポールの話を聞いた限りだと、氷精のように周囲の寒さを吸収しているのかな? タナトスはどうだ? お前が山を越えてきたときはそんなもんがあったのか?」

「ああ、言われてみればそうだな。たまに雪の中でも寒さが少しマシなところがあったと思う。けど、それが石の影響だとは思わなかった。疲れていたからそれどころじゃなかったしな」

「そうか。ま、実際に見てみるのが一番かな。ポールが知る限りのその石をたどるようにして進んでみよう」

登山家ポールの考えによると、大雪山を越えるには秘訣があるのではないかということだった。

というのも、本当に雪で寒さが厳しいならこの山々を東から僅かな荷物しか持たなかった人たちが越えてこられたはずがないのだ。

山を越えるには何かしら成功の鍵があったはずだ。

それは大雪山にある不思議な石にあるのではないか、というのがポールの意見だった。

何度も遭難した結果、ポールはその不思議な石を発見したそうだ。

石というよりは大きい岩のような、あるいは水晶のような、または氷の塊にも見えるそれがあると、その周囲では寒さがマシになるという。

もしかしたら、大雪山の中にはそんな風に寒さが落ち着く場所が点々と存在していて、そこで体を休めながら先へ先へと進んだのかもしれないということだった。

仮に名付けるとしたら吸氷石とでもしようか。

ポールの案内のもと、その吸氷石があるところへと向かう。

ヴァルキリーの背にまたがって進んでいくとその場所へとやってきた。

徒歩だと何日もかかる距離の山の中で、大きな氷の結晶のような石がドンとあり、たしかにその場では他とは寒さが違ったようだ。

「え……、どうしたんだ? 氷精たちの挙動がおかしい」

「ちょ、ちょっとアルス様、寒いです。氷精が離れたら寒いです!」

だが、その時不思議なことが起こった。

吸氷石に近づいた瞬間、俺が召喚していた氷精たちが動き始めたのだ。

東方遠征軍の移動時に兵の寒さを軽減するために、俺は【氷精召喚】を用いて召喚した氷精たちを兵一人ひとりにつけて寒さを吸収させていた。

だというのに、その氷精たちが兵士たちのそばから離れて吸氷石に引き寄せられていったのだ。

「駄目だな。氷精たちがいうことを聞かない。吸氷石にひっついて離れねえわ。……しょうがない、今日はここで体を休めるとしよう」

もしかしたら、吸氷石は氷精たちにとって心地良い場所なのかもしれない。

今までにないことだが、俺の言うことを聞かずに光の玉のような氷精たちが吸氷石の周りに集まってふわふわと飛んでいる。

仕方がないので、ここをキャンプ地とすることにした。

俺は吸氷石の周りに魔力でシェルターをいくつも作って、そこを拠点とすることにしたのだった。