軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

故郷へ

「アルス、ちょっといいか?」

「ん? どうしたんだ、タナトス?」

「今まで世話になった。感謝している」

「……どうしたんだ? 何かあったのか?」

「俺は故郷に帰ろうと思っている。できればヴァルキリーが一頭ほしい。頼む」

「故郷って、大雪山の向こうにあるとかいうアトモスの里か? タナトスと同じ巨人がいる里の」

「そうだ。俺がここにいるのは故郷が襲撃されて西に逃れてきたからだ。アルスのおかげでこうして生きながらえることができた。だが、やはり故郷に戻りたい。今、アトモスの里がどうなっているのか確認したいというのもある」

俺がマーシェル傭兵団のことを調べたりしながらも、フォンターナ国内の河川工事についての書類仕事をしていたときだ。

急にタナトスが訪ねてきた。

これは結構珍しい。

巨人になる魔法を持つタナトスは基本的には戦場での仕事がないときにはバルカニアで体を動かしたり、酒を飲んだりして過ごしているのだ。

どうでもいいが、それなりにこの地で過ごしてきたおかげでこうしてこっちの言語に慣れてきている。

そんなタナトスの口から流暢な言葉でお願い事をされた。

故郷に帰りたい、と。

「ちょっと待ってくれ、タナトス。アトモスの里は無事なのか? えっと、たしかあれだったろ。戦場で力を振るうアトモスの戦士を雇うとか言って、その実、だまし討ちして里を攻撃されたって。その里にはまだ生き残りがいるのか?」

「わからん。が、アトモスの戦士はそれぞれが戦場に出て、里には体を休めるために帰ってくるものだ。全員が里で暮らしていたわけではない。あの時襲撃を受けたと言っても、その場にいなかったアトモスの戦士たちもいた。もしかしたら、そいつらが里にいるかもしれない」

「……なるほど。まあ、そうかもしれないな。わかった。タナトスには世話になったからな。向こうに帰るのに必要なものはこっちで用意しよう」

「ありがとう、我が友よ」

「……こっちには戻ってくるのか、タナトス?」

「それはわからん。なにせ向こうがどうなっているのかすら、全くわからんからな」

まじかよ。

タナトスがいなくなるのか……。

べらぼうに強い巨人タナトスがいるかいないかで戦力的にも大きく違いが出るんだが。

けど、もともとが自由人っぽい生き方をしているタナトスを無理やりここに残してもあんまり意味はない。

ならば、気持ちよく送り出してやるほうがいいのだろう。

「けど、大雪山を越えられるのか? ヴァルキリーは寒さに強いとはいってもタナトスはそうじゃないだろ? というか、故郷にたどり着く前に遭難して死亡する、とか普通にありそうで怖いんだけど」

「……む。確かにそうだな。だが、それは仕方がない。むしろ、よくあの霊峰を越えてきたものだと自らの運命に感謝するくらいだ。なに、大丈夫だ。今度もうまくいくさ」

あ、こいつ無計画っぽいぞ。

もしかして、急に帰りたくなったから帰るとか言い出したんじゃないだろうか。

というか、よく考えたら大雪山の地図すらないだろう。

間違いなく遭難する。

そう思ってしまった。

急なホームシックだろうか。

まあ、考えてみれば俺がタナトスと会ってもう数年は経過しているし、タナトスがこっちに来たのは更にその何年か前だったはずだ。

俺がタナトスの立場なら同じように故郷に帰りたくなっていてもなんら不思議ではない。

が、困る。

これは非常に困る。

巨人化できるタナトスの存在は俺にとって非常に大きいものなのだ。

普通の城を攻めるのならば1000の軍勢よりもタナトス1人のほうが頼りになるといっても過言ではないだろう。

そのタナトスがよりにもよってこのタイミングで離脱するとかありえん。

ナージャとかいうおかしな奴が南に現れたんだ。

ただ故郷に帰るだけではなく、十中八九遭難して命を落とすことになるだろう未来はなんとしても避けなければならない。

「よし、わかった。俺も一緒に行くよ、タナトス」

「なに? アルスが一緒にだと?」

「ああ、俺も一緒に大雪山を越えて東へ行こう。俺がいれば少なくとも大雪山の寒さに対してだけは耐えられるはずだ。あとは道だな。大雪山を越えるには経験もいるだろう。なら、グランにも声をかけてみようか」

「……いいのか? いくらお前でも命を落とす可能性もあるんだぞ、アルス」

「いいさ。俺はタナトスには感謝しているんだ。それに、一度くらいあの山を越えた先がどんなところなのか見てみたいとは思っていたんだ」

「すまん、感謝する」

「だからいいって。友達だろ、俺たちは」

「ああ、そうだな。ならば約束しよう。無事に故郷に帰ることができたのならば、この命、お前に捧げよう」

「え、どういうこと?」

「そのままの意味だ。我が友のために生涯戦い続けると誓おう。この誓い、受けてくれるか?」

「おう。なら、こっちも誓おう。俺が責任を持ってタナトスに大雪山を越えさせてやるぜ」

なんかよくわからんが、ノリでかなり大見得を切ってしまった。

大雪山ってのはかなりの標高だ。

雲の上を超えるのは当たり前で、それよりも更に高いために一説には頂上から見下ろしたら遥か下に雲が見えるだけだなどとも言われている。

そんなところを無事に越えることができるかはわからない。

が、タナトスやグランといった実際に大雪山を越えた者が存在するのだ。

絶対に無理だと言うわけではないだろう。

突如南に現れたナージャをどうにかしなければならないのではあるが、現状ではフォンターナ王国とは距離が離れすぎている上にラインザッツ家などとの不戦協定もあり軍を派遣することもできない。

対処を教会に任せた以上、こちらで打てる手は少ないのだ。

ならば、ここはひとつタナトスのために動いてみるのもいいかもしれない。

それに、山の向こうに何があるのか興味があるのも本当だしな。

こうして、俺は急遽山越えの準備を始めることにしたのだった。