軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初戦闘

「フゴ、フゴ」

俺の両目は畑にいる大猪を見据えている。

俺が作った畑に鼻を突っ込むようにして土の中にある野菜をほじくり返してそれを食べているのだ。

ガリガリ、モシャモシャと美味そうに食っている。

それも当然だろう。

俺が品種改良して育て上げた野菜はどれも美味しいものだからだ。

だが、その中でもハツカが好んで食べられているようだった。

噛みごたえがあって好きなのだろうか?

ヴァルキリーといい、よくあんなかたいものを平気で食べられるものだなと感心してしまう。

「それにしても、大猪っていうだけあってでかいな」

遠目から確認するだけでその大きな体が目についてしまう。

多分全長3mくらいの大きさなのではないだろうか。

俺の知るイノシシとはわけが違う。

しかも、その豚鼻のとなりには2本の大きな牙がある。

あんなもので突き刺されたら生きていられる人間などいないだろう。

「で、こういう場合ってどうするんだ? 誰かあれと戦えるのか?」

「いや、無理だろ。弓矢が刺さらないみたいだぞ」

「まじかよ。どうすんだよ、バイト兄」

「アルス、お前がなんとかしろ」

「無茶言うなよ。貴族様にでも頼んで退治してもらったほうがいいんじゃないか?」

「いや、頼んでも来てくれないじゃろうな。大猪の被害があると言っても食べられておるのはハツカじゃ。そんなもので貴族が戦力を送ってくれることはないじゃろうて。そもそも大猪に敵うものなどおらんじゃろう」

なんだよそれ。

いざというときに頼りにできないんじゃ、意味ないだろうと思ってしまう。

だが、確かに今のところ実害はハツカばかりだ。

訴え出ても貴族からしたら貧乏農家御用達のクズ野菜が食べられたくらいで出動を要請されてもまともに受け取ってもらえないか。

やはり、自分たちでなんとかするしかないか。

というか、バイト兄にいたっては俺に丸投げのようだ。

英雄に憧れているなら化け物退治にでも精を出してほしいものである。

「まあ、どうにかするしかないか……。ちょっと考えてみるよ」

文句を言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は大猪退治について考えることにしたのだった。

※ ※ ※

「よし、いいかヴァルキリー。作戦通りに行くぞ!」

「キュイ!」

畑を荒らす巨大なイノシシたち。

我が物顔で俺の大切な収穫物をガツガツと喰らい続けるコイツラを始末するために俺は一計を案じた。

だが、それを実行に移すのはなかなか怖いものがある。

それは俺が大猪の眼の前に出ていかなければならないからだ。

3m近い野生の生き物なんて早々お目にかかれないだろう。

それが強力な武器として2本の鋭い牙を持っているのだ。

おそらく、あの巨体から放たれる突進攻撃を受ければかすっただけでもただではすまないだろう。

いざ、行こうとしても恐怖に体が震えてしまった。

その震えをヴァルキリーは感じ取っていたのかもしれない。

俺が落ち着くまでじっと待っていてくれた。

体を触れ合わせてヴァルキリーの体温を感じていく。

そうすると不思議と怖さがなくなってきたのだ。

最後に深く深呼吸して、ヴァルキリーに声をかけた。

俺の恐怖がコントロール可能な範囲に落ち着いていることを感じ取ったヴァルキリーは、その声に答えるように動き始めたのだった。

フゴフゴと鼻を鳴らしながらハツカを食べる大猪の親子。

そこにヴァルキリーの背に乗った俺が遠くから助走をつけて近づいていった。

ヴァルキリーの足が地面をけるたびにそのスピードを上げていく。

どんどんと周りの景色が後ろに流れていく速さが増していき、ついにはトップスピードに達した。

ドンッと空気の壁を体に感じるほどの速度だ。

ここまでの速度で走るヴァルキリーに乗るのは初めての経験だった。

だが、なんとか体にしがみつくようにして、振り落とされることなく騎乗し続ける。

遠くから見えていた大猪の体が近づくに連れて鮮明になってくる。

やはり大きい。

その大猪が接近してくる俺とヴァルキリーの存在に気がついて、顔を振り向けた。

ギュッと両足の太ももに力を入れてヴァルキリーの体を挟み込む。

そうして左手は手綱をしっかりと握り、右手だけを前方へと突き出した。

上下に揺れながら走るヴァルキリーの動きに合わせるように呼吸をする。

そして、俺は事前に練り上げていた魔力をその右手へと集中させた。

「散弾!」

接近する俺たちに向かって警戒を強めた大猪。

その横を通り過ぎるように走るヴァルキリーの背中で俺は魔法を発動させた。

手のひらからゴルフボールほどの大きさの石を発射したのだ。

しかも、その石は単体ではない。

いくつもの石を同時に右手のひらから同時に放ったのだ。

散弾、と叫んだものの呪文化はしていない。

完全に頭の中でのイメージだけで放った魔法だ。

地面に触れてさえいればもっと効果範囲の広い魔法が使用可能だと言うのに、地面に触れていない今の場合だと小さな石を飛ばすことしかできない。

しかも、魔法を使うのは移動するヴァルキリーの上でだった。

まともに狙いを定めることもできない。

それを補うためにも複数の石を同時に発射したのだった。

ドドンッ!

そんな音がした。

どうやら見事に大猪へと散弾が命中したようだった。

それを横目にすばやく横を駆け抜けていく。

「ブオオオオォォォォォォォ!」

だが、散弾の命中したはずの大猪は一瞬態勢を崩しかけたものの、すぐに4つの足で地面を踏みしめて大きな鳴き声を上げた。

その声は怒りの色が色濃く出ていた。

どうやら、多少の傷みを与えたもののさほどのダメージも与えられなかったようだ。

「逃げるぞ、ヴァルキリー」

ドドドドドッという足音を響かせながら、攻撃を受けた個体を先頭にすべての大猪が追撃を仕掛けてきた。

地響きのような音を背に、俺とヴァルキリーは逃走を始めたのだった。