軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

長期保存

「坊主、あれが完成したぞ」

「あれ? 何が完成したんだ、おっさん?」

「坊主が前から作らせていた保存食だよ。2年前に作ったやつが腐らずに食べられる状態を維持しているのを確認した。実験は成功だ」

「おお、まじか。本当に腐っていないんだな、おっさん? 保存食を食べて腹を壊すなんてゴメンだぞ」

「ああ、問題ない。もっとも、バルカ姓を持っているやつなら多少腐っていても【毒無効化】で安全に食べられる気もするけどな」

「そうかもしれないけど、保存食はバルカ姓のやつだけが食べるものじゃないからな。どれどれ、せっかくだし俺もその完成品を味見させてもらおうかな」

フォンターナの街で王国内の土地の整備についての仕事をしていたところ、おっさんがやってきた。

おっさんも今回の軍制改革で当主級の実力を身に着けたおかげで転送石を利用できるようになっている。

そのため、おっさんからの報告を聞いてすぐに俺たちはバルカニアへと跳ぶことにした。

おっさんの報告内容はかねてから研究させていた保存食についてのものだった。

この保存食は以前からずっと考えて作りたいと思っていたものだ。

もともとが冬の寒さのせいで冬季には食べるものの確保が難しくなる。

そうでなくとも、基本的に長期保存ができる方法が少ないのでほとんどの食べ物は旬の時期にしか食べることができないのだ。

むやみに冬場に軍を動かしたくない理由でもある。

それでも、俺はバルカニアを作ってすぐにフォンターナの魔法である【氷槍】を利用して冷蔵倉庫を作ったりもしていた。

あれで結構食べ物の保存期間が長くなったという実績があったのだ。

だが、それでもせいぜいワンシーズン延ばせればいいくらいだろう。

もっと長期間の保存、それこそ年をまたいでも食べられる状態での保存をできるようにしておきたかった。

そこで、前世の記憶から使える情報を思い出すことにしたわけだ。

そのなかのひとつの保存方法が今回成功にこぎつけたという。

それは、缶詰という缶を開けるだけで食べられる状態の食料が数年間保存できる非常に優れた方法だった。

「うん、味が濃いけどこれはこれでいいな。ちゃんと食べられるぞ、おっさん」

「こっちはどうだ、坊主。お前が言っていた果実を漬けたものだ。甘いぞ」

「うーん、あまーい。これはリリーナが喜びそうだな」

「味も缶に詰めた数年前から落ちていないし、腐敗もしていない。それに以前まであった缶の破裂問題も解決した。これは実用化できるぞ」

「いいな。これなら災害時のための保存用から軍用食としても使えそうだ」

バルカニアの南東区にある研究所で缶詰を開封して味を確かめる俺とおっさん。

そのバルカ製の缶詰は特に問題もなく、数年間保存した食料を俺の胃へと送り届けることに成功した。

ここまでくるのはなかなか長い実験が必要だった。

当初は缶詰を作るにもバルカには金属を安定して手に入れる手段がなかったのだ。

そのために最初は瓶詰めの研究をすることになった。

この瓶詰めはある程度成功していたものの、瓶の特性上どうしても重く割れやすい。

とくにガラスというのが今までこの地ではあまり一般的には用いられていなかったのが大きいかもしれない。

俺が幼い頃からガラスを魔法で作っても、窓すらないこの世界の人間は「ガラスが割れやすいものである」という常識すらなかったのだ。

特に庶民などはみんなそうだった。

食器なども基本的には木製だったのもあるのかもしれない。

ガラス瓶を手から落として地面に当てれば割れる、という当たり前のことも理解していなかった。

そうでなくとも、輸送時の荷車の揺れで多くの瓶が割れたりもしたのだ。

バルカで保存食として瓶詰めを作っても、それを軍用食として活用しようとした場合、おそらくは農民出身の兵士たちが瓶を割りまくることになるという事態が考えられた。

そのため、やはり割れるリスクのない缶詰を作ったほうがいいだろうと決めたのだ。

ちょうど、バイト兄の領地として鉱山が手に入ったことも大きい。

ある程度の金属を手に入れる目処もたったため、本格的に缶詰製造のための実験を繰り返していた。

缶詰は金属の缶の中に食料を入れて密封する。

が、缶の中の食料の影響で金属が傷むこともある。

そのために、実際に缶詰を作ってみてどんな金属ならば傷みにくいのかを調べる必要があった。

どうやら、鋼にスズをメッキするブリキが一番良さそうだった。

バイト兄の領地での鉱山でもスズが採れていたため、ちょうどよかったとも言える。

そして、缶を作り、そこに食料を詰める。

缶詰の中に入れる食料は加熱調理した食べられる状態のものを入れ、それを密封する。

そうすることによって腐敗菌などが発生しないために、数年にもわたる保存が可能になる。

一応念のためにも缶にも食料にも【洗浄】を使っておいたので、きれいな状態を保てたはずだ。

それでも最初はいろいろと失敗もあった。

缶が傷んで破裂する事故もあった。

が、それでもなんとかこうして成功にこぎつけた。

ちなみに、前世では小さい缶を見かけることが多かったが、今回バルカで作った缶詰は一斗缶みたいな大きな缶だったりする。

こちらのほうが作りやすいし、たくさんの食べ物が入る。

個人用というよりは村や町の備蓄、あるいは軍で使用する目的のほうが多いので大きいほうが都合がいいだろうという判断からだった。

あと、本当ならばプルタブ形式の開けやすいものにしたかったが技術的にまだできていない。

そのため、缶切りをわざわざ作らせたりもしている。

「よし、缶はとりあえずこれで正式採用にしよう。あとは料理の種類を増やせるかの実験をしようか」

「わかった。缶詰製造のための人も増やしておこう。これが普及すれば餓死する人の数も減るだろうな」

「そうなればいいけど、しばらくは無理だろうな。手作業の缶詰は作る手間が結構かかっているみたいだし。そうなるとバルカ以外でも作らせたほうがいいかもな」

完成した缶詰の製法は秘匿して一儲けしようかとも考えた。

が、意外と手作業では数が作れないという問題もあった。

であれば、他の土地でも作らせてみてもいいかもしれない。

軍用食としても使用するのであればそのほうがいいだろう。

こうして、フォンターナ王国では大々的に缶詰の製造が開始された。

これにより、今まで以上に食料を安定して手に入れる手段を確立することとなったのだった。