軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルカ銀行の新事業

「どうだ、おっさん。上手くいっているか?」

「ああ、今のところ大きな問題は起きていない。というか、物珍しさもあってか評判はいいぞ。自分から手持ちの硬貨をバルカ銀貨に替えてくれって言うやつもいるくらいだ」

「いいね。その調子で頑張ってくれ」

バルカニアで開始した貨幣造り。

そこで作られたバルカ銀貨という新しい硬貨がバルカ銀行で取引されている。

画家くんによって決定したバルカ銀貨の意匠は表に時計塔、裏にヴァルキリーの姿というものだった。

結構良いチョイスだと思う。

時計塔はバルカが主導で作り上げたものではあるが、モデルとなったのはフォンターナの街にある時計塔のほうだからだ。

バルカ銀貨といいつつ、フォンターナ王国のものであるかのような印象を与える効果もあるかもしれない。

それに、各地に作った簡略版の時計塔にも似ているのでフォンターナ王国全てで通用するデザインと言えるだろう。

裏面のヴァルキリーはこれ以上無いくらいバルカっぽい絵なので問題ない。

まあ、最初は俺の顔を銀貨に使おうと言い出したが、それはしっかりと却下した。

そのバルカ銀貨が実際に使用される。

まずは短期のバルカ銀行券の返済時にこの新銀貨は用いられた。

以前金を持つものに借りたときの借用書の返済にこの銀貨を使ったのだ。

一応銀の配合率などは既存の銀貨と同じようにしていたが、あまりに不人気だったらどうしようかと不安に思っていた。

が、どうやらそれはなんとか受け入れられたようだ。

以前からバルカには大量の銀があるかのように見せかけていたために、即座に破産しないという信用もあったのではないだろうか。

まあ、なんにせよ、新銀貨は超ローカルマネーとして出発した。

だが、バルカ銀貨を作り上げたバルカ銀行の動きはこれで終わりではなかった。

この際だから他にも色々と銀行として機能させていこうということになったのだ。

このときのバルカ銀行の事業内容は主に二つだ。

ひとつはお金を持つものに対してバルカ銀行券を発行して金を借りるというもの。

それに対して、貸し出しもしている。

フォンターナ王国内の土地をより豊かに収穫を上げられるように、各騎士領などに農地改良をしているが、その際にそれなりの金額を要求している。

だが、その金が払えない、あるいはすぐに用立てることができない騎士にはバルカ銀行が金を貸し付けていた。

現在は農地改良以外にも道路や線路の敷設も行っていて、そのために金を借りる騎士もいる。

が、金銭の貸し借りだけが銀行の仕事とは決まっていないだろう。

まず思いついたのが両替だった。

現在流通している硬貨を両替する。

複数ある硬貨を適切なレートで交換するのだが、そのなかに古い銀貨をバルカ銀貨に交換するものも用意した。

ちょっとでもバルカ銀貨が市場に流れて、実際に使ってもらうようにとの思いからだ。

さらにもう一つ始めた銀行事業に預金がある。

バルカ銀行に金を預けておく。

それだけの仕組みだ。

手数料を取らない代わりに預けていても利子はつかない。

が、思ったよりもこれがウケた。

バルカニアにあるバルカ銀行に口座を作り、そこに金を入れる。

バルカ銀行は金を預かったら、手形を渡す。

手形一枚で銀貨何枚分であると決まった手形を受け取った口座の持ち主は、その手形を持ってくれば口座から引き出すことが可能になる。

ようするにチケットや金券みたいなものだろうか。

どうやらこれがよかったようだ。

銀貨などの硬貨というのは意外と重い。

ジャラジャラと持ち歩くのは、ある意味で金属の塊を持ち歩くことと同義である。

筋トレしているのではないかと思うこともあるほどなのだ。

だが、それがバルカ手形だったらどうだろうか。

バルカ銀行にさえ行けばいつでも引き出せる。

銀貨などを持ち歩かなくともいいのだ。

必要なときに銀行に行きさえすればいつでも引き出せるうえに、現物はバルカ銀行がしっかりと防犯対策をしている。

普通の一般家庭よりは遥かに安全な金の保管場所と言えるだろう。

が、そうは言っても「本当に預けた金はしっかりと返してくれるのだろうか」と不安になるのが当たり前かもしれない。

しかし、そんな心配もバルカ家当主である俺が直々に運営している銀行だというのがよかったようだ。

こう見えてバンバン金を使っているが、しかし、資金繰りに困って破産するかもしれないような事態にまで陥ったことはバルカにはない。

少なくとも大衆に俺が何度も金欠になったことがあるというのは知られていない。

そのバルカが新たに銀山を手に入れて、バルカ銀貨なるものまで作り上げたのだ。

他の何よりも金を預けておくリスクが少なく見えるのだろう。

そして、それよりも更に大きな要因があった。

それは毎日のようにラジオから流れてくる情報にあった。

『そういえば、お前はもう銀行に金を預けたのかい?』

『え? なんの話だ? 銀行に金を預けるってどういうこった?』

『なんだ、そんなことも知らねえのかい。遅れてやがるなぁ。今、銀行って言えばバルカ銀行しかねえだろ。金を預けておきゃ、しっかり保管しておいてくれんだよ。絶対に盗まれない安全な場所はあそこしかねえってな』

『へー、金をわざわざ誰かに預けるのかい。そりゃまた、かわったことをする時代になったもんだな。おまえさんはそのバルカ銀行に金を預けてるってことかい』

『ばっきゃろう。俺は違うよ。俺の金はうちのかみさんが勝手に預けちまったんだよ。俺が遊技場で金を賭けねえようにってな』

『わっはっは。なるほどなあ。おまえさんの奥さんは盗人よりも旦那から金を守ろうってことか。そりゃあいいや』

『うるせー。笑い事じゃねえっての。おかげでもう何日も賭けてねえから勘が鈍っちまうよ』

ラジオから流れてくる話は毎日バルカ銀行の新しい事業についてのことが取り上げられる。

預金のことも、それ以外のことも、いろんなラジオパーソナリティが積極的に話してくれている。

まあ、それは俺が一言、パーソナリティたちに「バルカ銀行のこと、よろしくな」と言ったからでもあるんだが。

当然のことながら、バルカ文化放送局も俺がトップにいるわけで、その俺の銀行のことを悪く言うやつは少ない。

なので、毎日のように流れてくるラジオの放送を聞いて、各家庭でも銀行を利用してみようかという流れができてきたのだ。

こうして、バルカ銀貨はバルカニアを中心に少しずつ広まり始めていた。

いまだに混乱が続くフォンターナ王国の外とは違い、平和な時間が流れていたのだった。