軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄弟

「という理由があってこの子を育ててほしいんだ。お願いできないかな、母さん?」

「まったく。あなたは本当に小さいときからいろんなことをする子だったけれど、まさか自分の子を親が産んだことにすることになるとは思わなかったわよ、アルス」

「ごめん。でも、双子として産まれたこの子にはなんの罪もない。最悪の場合は本当に俺は自分の子に手をかけないといけないかもしれない。けど、そうはしたくないんだよ」

「分かっているわよ。大丈夫。お母さんに任せなさい。このことは他に誰が知っているの?」

「すぐに動いたから、双子のうちの一人が死んだってのはみんな信じているはずだよ。リリーナとリオン、パウロ大司教のほか、数名かな。みんな口が堅い信頼できる人間だ。この子はこれからは完全に俺ではなく父さんと母さんの子どもとして生きていくことになる」

「……あなたがこの子に会いに来ても実の子として接することはないのね、アルス」

「ああ。こいつはこれから俺の弟だ。元気にのびのびと育ててあげてほしい。頼めるかな、母さん」

「任せなさい。母さんを誰だと思っているの? アルスやバイトのような問題児にもめげずに、カイルみたいにしっかりした子を育てた経験があるのよ」

「……ははっ。そうだね。カイルみたいな子に育てば言うことなしだ」

バルカニアでリリーナの出産に立ち会い、その後すぐにフォンターナの街に舞い戻ってパウロ大司教と話した。

そして、俺はパウロ大司教の言う計画を実行に移した。

双子として産まれた子のうち、リリーナのお腹から出てきたのが遅い方、つまり双子の弟の方を死んだことにした。

双子として産まれたものの体が弱く亡くなったというストーリーを仕立てたのだ。

そして、その子をバルカニアに住む母さんのもとへと届けた。

父さんと母さんは今もバルカニアに住んで生活している。

父さんは主に治安維持を中心に仕事をしているのだが、バルカ城に居住しているわけではなく自分の家を持っている。

もともと俺が産まれたボロい家ではなく、収入に見合った一等地にある大きめの家だ。

とりあえず、話をあわせるために母さんにはしばらくの間、家の中で引きこもっていてもらおうか?

ご近所さんからも姿を見られない期間を作って、その間に実は新しく子どもが産まれていたという話にすればいいかもしれない。

「あー、アル兄様だー。どうしたの? エリーに会いに来てくれたの?」

「お、エリーか。元気にしてたか? 今日はお土産にお菓子を持ってきたぞ」

「やったー。ありがとう、アル兄様。……あれ? この子、だあれ?」

「この子か。この子はエリーの弟になる子だよ。今日からエリーはお姉ちゃんになるんだよ」

「ええ!? エリー、お姉ちゃんになったの? やったー。お母さん、聞いた? エリー、お姉ちゃんになったんだって」

「そうよ。この子はアルスやエリーの弟なのよ。かわいいでしょう。でも、まだ産まれたばかりだからあまり触っちゃだめよ。見るだけにしてね?」

「わー。ちっちゃい。クリクリしてるね。かわいいねー」

どうやらエリーも新しく弟になった謎の生物を気に入ってくれたようだ。

エリーというのは俺の妹だ。

カイルよりも下の子で今年6歳になったばかりの女の子だ。

うちの末っ子だが、母親に似てきれいな子で将来は美人になるだろうとわかる顔をしている。

エリーは非常に天真爛漫で、誰にでもすぐに近づいて天使のような笑顔を向ける子で人当たりがいい。

当然、パウロ大司教もエリーのことを知っていたので、俺の子を母に預けるようにと提案してきたのだ。

さすがに今年13歳になるカイルの下の子が0歳では離れ過ぎではないかと思われるが、エリーが間にいることによって多少その疑惑が緩和される効果もあるということだろう。

「エリー。これからこの子はだんだん成長していくけど、エリーよりもちっさくてできないことも多いと思うんだ。お姉ちゃんとしてこの子の面倒を見てあげてくれるかな?」

「うん。任せて、アル兄様。エリーはお姉ちゃんだからしっかりお世話してあげるよ」

「ありがとうな。頼むよ、エリー。じゃあ、母さん。一応しばらくはここにリリーナの側付きの一人を置くことになる。後ですぐに連れてくるよ」

「分かったわ。その人がこの子にお乳を与えるのね?」

「ああ。もともとはエリーの教育係にするつもりだった人なんだ。エリーには淑女教育を受けさせる必要があるから」

「そればっかりはお母さんはなにも教えられないから、しょうがないわね。この子は農家の男性に嫁ぐわけにはいかないものね」

「そういうこと。悪いね」

「いいわよ。そのかわり、この子をしっかりと見てあげられる人のところに嫁がせてね、アルス」

「分かっているよ、母さん」

赤ちゃんを見ながらお姉さん気分になっているエリーだが、これからは厳しいお稽古が始まることになるだろう。

俺やほかの兄弟たちは農家の子として育ってきたが、俺達の身分が上がったことでエリーは同じような育て方ではいけないということになった。

いずれ、政略結婚でどこかの権力者に嫁に出すために必要なあれこれを勉強する必要があるのだ。

今のところ、結婚相手の有力候補はガロードだったりする。

俺がどこかで失脚しなければそうなる可能性も高いのかな?

大きくなったらアル兄様と結婚する、と言ってくれるエリーが結婚とかちょっと考えられないのだが。

そんなセンチメンタルなことを考えながらも、俺は実家に「俺の弟」を預けていったのだった。