軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忌み子

「おぎゃー、おぎゃー」

リオンと一緒にバルカニアへと戻ってきたその日、この地に新たな生命が産まれた。

俺とリリーナの間に産まれた間違いなくバルカの魔法を継ぐことになる子どもが産まれた。

これで俺がカルロスのように急に命を落としたとしても、魔法だけはバルカに残すことができるだろう。

「リリーナ、お疲れ様。無事に子どもを出産してくれてありがとう」

「も、申し訳ありません、アルス様。わ、私はなんということを……」

「大丈夫だよ。ゆっくり休んでいて」

リリーナが産気づいたのはもうかなり前のことだ。

破水してもういつでも出産できるという状態になってからが長かったのだという。

さすがに俺やリオンがその場にいることは禁じられ、産婆やクラリスなどの側仕えなどが出産を見届けた。

そして、産まれた。

母子ともに健康だ。

それになにより、バルカの魔法を受け継ぐことができる男の子が産まれたのだ。

おぎゃーという大きな泣き声が聞こえてから、しばらくして部屋に入り、その姿を見た俺はなんとも言えない、しかし、心が満たされるような気持ちになった。

が、俺以外の人間の顔は暗い。

もっと俺の子が産まれたことを祝ってくれてもいいんじゃないのか。

そう思うのだが、どうやらお腹を痛めて産んだリリーナすら俺とは気持ちが違っているようだった。

ずっとベッドに横になりながら、俺に向かってすみませんと謝り続けている。

「……双子、ですか」

「そうだな。元気な双子の赤ちゃんだ。……もしかして騎士の子供は双子がだめとかそんな風習でもあるのか、リオン?」

「そうですね。あまり良いこととしては扱われないでしょう」

「なんでだ? 双子だと体が弱くなるとかそういうのでもあって、よろしくないことだとか言われているのか?」

「……アルス様はあまり双子に忌避感などないようですね?」

「ないな。せいぜい一卵性双生児かそうじゃないかくらいが気になる程度だけど」

「アルス様、失礼ですがもう少し騎士としての自覚と常識を持っていただいたほうがよいかと。アルス様はバルカ騎士領の当主であり、バルカの魔法を後世に伝えていく必要がある大切なお方なのですよ」

「魔法、か。……つまり、双子が問題視されるのって継承権絡みのことを言っているのか?」

「そのとおりです。特に貴族に匹敵するほどの影響力のあるバルカの魔法の継承権のゆくえは今後に大きく関わってきます。それでなくとも、双子というだけで多くの人は暴君を思い出しますから」

この世界では双子というのはあまり歓迎されないものらしい。

俺にしてみればなんでそこまで気にするのかという気持ちが大きい。

が、それにはこの国の歴史が大きく関わっていた。

もともと、貴族の魔法は代々そのときの当主が配偶者との間に継承の儀という教会の儀式を受けて子どもを作ることで子孫につないできた。

継承の儀を行った相手と子をなし、その子が男児であった場合、魔法の継承権が与えられることになる。

産まれた順にその継承権には順位が存在し、当主が亡くなった場合、自動的に継承順位の一番高い者が魔法と魔力パスを引き継ぐのだ。

例外として、生前に継承順位と関係なく当主から名指しで魔法などを継承することも可能ではある。

が、双子の場合、そのどちらが継承権が上なのかはわからないのだそうだ。

単純に母体から早く出てきたほうというわけではないらしく、遅く出てきたほうが魔法を継承したという記録もあるのだそうだ。

これが貴族的には結構困るのだそうだ。

通常ならば継承権が上位の者を当主としてしっかり教育していくことになるのだが、それが双子のうちのどちらかなのかがわからないと不便をきたす。

そのため、昔から双子というのは望ましいものではないとされていた。

しかし、その双子が忌み子とまで言われてしまうに至ったのは、暴君と呼ばれる王の存在が大きい。

暴君ネロはかつてこの国を崩壊へと導いた愚王であるとされている。

王位に就いたネロは自らに従わない貴族のいくつかを粛清した。

が、それに異を唱えた多くの貴族や騎士が王のもとから離反し、王家の大魔法が使用できないほどに弱体化を招いてしまったのだ。

それまでは様々な問題を内包しつつも国としてまとまっていたが、それが決定打となり、この国は事実上崩壊し、各地を自らの力のみで維持する戦乱の時代が始まったのだ。

ではなぜネロは暴君と呼ばれることになったのか。

それは貴族を粛清したことにあるのは間違いない。

が、なぜそんなことをすることになったのか。

それはネロが双子だったからだ。

ネロには双子の兄がいた。

そのとき、すべての人が王家の継承権を持つものはネロの兄だとばかり思っていたそうなのだ。

そして、どうやらそれはネロ本人もそう認識していたらしい。

子供の頃から兄が王を継ぐべく教育されて育ったが、ネロはそうではなかった。

さらにその下の兄弟たちは年が離れており、その時の王が亡くなるときは誰しもがネロの兄が名実ともに王にふさわしいと考えていた。

だが、違った。

王位を継承したのはネロだった。

当たり前だが、王位のゆくえについて揉めにもめた。

それは王家だけの話ではなく、周りの貴族までも巻き込んでの騒動になったらしい。

まあ、それもそうかも知れない。

普通は王になる前にしっかりと根回しして既得権益などを固めてしまうものだろう。

が、予想されていなかったネロが王になり、兄にすり寄っていた貴族は王家に対する影響力を低下させ、逆にネロに近い関係を持っていた貴族はたなぼた的に最高権力者へと近づいたのだ。

結果、ネロの政治は全くうまくいかなかった。

貴族間で行われる激しい勢力争いに加えて、過激化した貴族によるネロ暗殺未遂事件まで実行されたのだ。

そして、我慢の限界を迎えたネロは実力行使に出た。

粛清である。

しかし、ここで重要になるのがネロの兄は生きているということである。

ネロは兄が死んだから継承権を引き継いで王位に就いたのではない。

もし、ネロが死んだらどうなるのか。

実は兄の継承権はまだ生きているのだそうだ。

つまり、ネロとそのネロの子どもで継承権を持つものを殺し尽くせば、王位はネロの兄に戻ってくることになるらしい。

そうだね、戦争だね。

こうして、王家はものの見事に内戦へと突入していった。

貴族や騎士たちを真っ二つの陣営に分けての大乱戦だ。

そうして、王家は力を失った。

様々なことがありながらも、貴族の離反を招いたネロは王家の大魔法を発揮できなくなり王家の権威を失墜させたのだ。

「でも、それってネロが双子だったってよりも両性具有だったってことが問題だったんじゃないのか? みんなネロのことを女だと思ってたんだって聞いたことがあるぞ」

「そういう記録がないわけではないですが、本当かどうかはわかりませんね。ただ、確実に言えることはネロが双子であったということ、それだけです」

今となってはもう何が本当かどうかはわからない。

とにかくネロは国を崩壊させたということを持って、暴君であると位置づけられている。

まあ、それは歴史的に仕方がないのかもしれない。

なにせ、王家を離反して独立した貴族が今の歴史を語っているのだ。

王であったネロに問題があったのだ、としなければ離反した貴族そのものに問題があったのではないかと問われかねないのかもしれない。

が、その中で面白い記述の本も見つかっている。

曰く、ネロは外見が女性であったというものだ。

王家に産まれた双子は兄と妹であり、本来であれば妹のネロが王位を継ぐなどということは誰もが予想しなかったのだと言うものだ。

そして、その本では嘘か真か、ネロには男女両方の特徴が体にあったと書かれていた。

それが事実かどうかは今の俺には確認しようがない話だ。

「まあ、とにかく、今はこの双子のことだな。なんとかふたりとも無事に育つようにしないとな」

こうして、波乱に満ちた出産はなんとか無事に終わった。

俺は仲良くならんでしわくちゃになりながらも必死に大泣きしている赤ん坊二人を見つめて今後のことを考えることになったのだった。