軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

体調変化

「調子はどうだ、リリーナ?」

「最近は随分と落ち着いてきました、アルス様。もう少しすれば吐き気もなくなってくると思います」

「そっか。よかったよ。さすがにこの体調不良ばっかりは【回復】なんかでも治せないみたいだからな」

「そうですね。これは病気ではありませんから。アルス様との大切なお子がこの身に宿った証拠でもあるので」

迷宮街遠征を終えてフォンターナ領に戻ってきてからもいろいろと仕事をこなしてきた。

そのため、フォンターナ領の中をあちこち飛び回っていたのだが、今日はバルカニアのバルカ城へと戻ってきている。

現在、このバルカ城に俺の妻であるリリーナは住んでいる。

本来ならばカルロスによってフォンターナの騎士はその家族も含めてフォンターナの街に移住するように決められていた。

が、カルロスが死に、その嫡男のガロードをバルカニアに保護した際にリリーナも一緒にバルカニアに戻って生活するようになったのだ。

といっても、フォンターナの街にもバルカ家の館を建てたので、そこにいることもあったのだが、ここ最近はほとんどバルカニアにいる。

それはなぜか。

実は少し前からリリーナの体にとある症状が出始めたのだ。

少し食欲が落ち始めた時期を境に吐き気や体の怠さなどが出現したのだ。

が、それはなにかの病気というわけでも、怪我をしているわけでもなかった。

専門家の診断を受けた結果、リリーナは懐妊していることが分かったのだ。

それはつまり、俺の子供ができたことを意味している。

つわり症状が出て苦しんでいたリリーナはバルカニアでゆっくりと過ごし、ガラス温室で作られた薬草などを用いながら体調管理を行ってきた。

そして、それもだんだんと一段落し、吐き気などの症状はだいぶ良くなっているようだ。

お腹を触らせてもらうと少し膨らんではいるが、まだ中からお腹を蹴ったりなどといった反応もない。

が、間違いなく、リリーナの体には新たな生命が根付いていた。

来年出産ということは、俺は15歳で父親になるってことだ。

なんとなく早すぎるんじゃないかとも思ってしまうが、結婚したのは10歳のときだった。

そう考えると子供ができるまで結構時間がかかったとも言える。

俺自身はそれなりに忙しく充実した生活を送っていたし、前世の記憶があるがゆえに多少時間がかかっても別にいいかという感じだった。

が、リリーナのほうは違ったようだ。

最初はよかったが、何年も子供ができないということで密かに焦っていたようだ。

特に相手が俺だというのも悪かった。

フォンターナ家の当主代行となり、カルロスの子のガロードの後見人にして、バルカの魔法の創始者なのだ。

もし仮に俺に子供ができない状態でなんらかの理由によって俺が急死するようなことがあればどうなるだろうか。

急激に膨張したフォンターナ家は間違いなく荒れる。

それだけは避けるためにもなんとしても子供を作らなければならない。

そう考えるようになっていたのだ。

しかも、それほどの思いが詰まった待望の子供は【男児】でなくてはならない。

なぜなら、俺とリリーナが結婚したさいに、その子供に魔法が受け継がれることになる教会の継承の儀を執り行ったが、この儀式によって俺の魔法を引き継ぐことができるのは男である必要があるのだ。

もしも、女の子が生まれたらその子はどう頑張っても魔法を継ぐことはできない。

なんとしても男の子を、と意気込んでいるのだ。

「ま、そんなに深刻に考えなくてもいいよ。男の子だろうが、女の子だろうがどっちでもいいさ。リリーナが無事ならね」

「本当ですか、アルス様? 嘘でも嬉しいです」

「嘘じゃないよ。間違いなく本心からそう思っているよ」

「……そんなことを言って、聞きましたよ? パーシバル領に行った際に女性を連れて帰ったのを。きれいな人のようですね」

「え? もしかして、リュシカのこととかか? あれは違うよ。リュシカはもともと迷宮探索を仕事としていた人で、俺に忠誠を誓うと言ってくれたからそれを認めたんだ。それだけだよ」

「……すみません、アルス様。失礼なことを言ってしまいました。リュシカのことは私も聞いています。けれど、やはり不安で……。アルス様が他の女性に目を奪われたのではないかと思ってしまって」

「いや、俺も不注意だったな。ただ、リュシカやジェーンは女性ながらも戦いに慣れている。いずれはリリーナや側仕えたちの警備の仕事にでもついてもらおうかと思っているんだ」

うーむ。

リリーナが思ったよりも不安を感じているようだ。

まあ、こういう時期は精神的に不安定になるものだろうし、何より俺もあちこち出掛けてばかりで普段近くにいないというのもあるかもしれない。

もう少し気を使っておく必要があるかもしれない。

とりあえず、リュシカたちとどうこう邪推されるのはまずい。

そうだな。

一緒に迷宮に入ったエルビスはリュシカのことをかなり気に入っていたはずだ。

リュシカはあいつと結婚させてしまおう。

ついでにバイト兄に話してエルビスをバルカ勤務にでもしてもらおうか。

リュシカもある程度信用できると判断できた時点で名付けをしてバルカの騎士にしてしまおう。

リリーナとその子を守る女騎士になってくれ、と頼んだら受け入れてくれるだろうか。

後は何をすればいいだろうか?

とにかく、リリーナが安心して子供を産める環境を整えてあげる必要があるだろう。

最初はどちらの性別でもいいと思っていたが、リリーナのことを考えるとぜひ男の子が生まれてきてほしいなと思ってしまった。

色んな人に助言をもらいながら、出産準備に取り掛かりつつ、俺はなるべくリリーナと話をする時間を作りながら更に降り積もり始めた雪の時期を過ごすことになったのだった。