軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迷宮街侵攻

「ねえ、聞いた? フォンターナ家がパーシバル家に対して正式に宣戦布告したって話」

「ええ、聞いたわ。でも、本当かしら? だってもう冬になるのよ? わざわざこんな時期に宣戦布告しても、どうせ軍を率いて戦場に来るのは雪が融けた来年になるのに」

「そうね。パーシバル家のお偉方も意図をつかみかねているみたい。多分、演出じゃないかって話よ」

「演出?」

「ええ。パーシバル家がラインザッツ家やメメント家と戦いになったのはもちろん知っているわよね。その二家が冬を前にして軍を退いた。まだ完全に引き返してはいないみたいだけど、実質今年の戦いはほとんど終わったことになる。そこで、パーシバル家と戦うと宣戦布告を出したことで、一応年内に参戦したという事実だけを残そうと考えているんじゃないかってことらしいわ」

「ふーん。ようするに実際に戦うとかじゃなくて、政治的な駆け引きみたいなものなのかしらね。一応年内に王家のために動いたっていう実績だけを残そうとか、そういうことかしら」

「かもしれないわね。ま、偉い人達の考えていることは私達にはわからないわよ。私達はこうして見張りをして、報酬を貰えればそれでいいわけだしね」

そう言って、わたしのそばから離れていくジェーン。

彼女とはこの迷宮街にある迷宮に一緒に潜っている。

本当ならば冬の間も迷宮に潜って魔物を倒して素材や魔石を持って帰るいつもの生活をしているはずだった。

だけど、ジェーンと同じようにわたしと一緒に迷宮に潜る仲間が怪我をしたからそれも中止。

こうして、迷宮街の周りを囲む壁に登って見張りをする依頼を引き受けたというわけだ。

わたしはもうずっとここの迷宮に潜る生活をしている。

幼い頃に親を失って住むところがなくなった。

女であるわたしが生きていくには体を売るか、あるいは迷宮に潜って自分で稼ぐしかなかった。

普通ならば命の危険がある分だけ、迷宮に潜るという選択をとる人は少ないと思う。

だけど、わたしはそれを選んだ。

いろんなことがうまくいって、今はこうして気の合う人と一緒に女性だけの探索隊を作って生活している。

こういっちゃなんだけど、かなり深層まで潜っているからそのへんの兵士にも負けないくらいの強さがある。

だからこうして誰かが怪我をして迷宮に潜れなくなっても、探索組合からの仕事の斡旋で迷宮に潜る以外の依頼も舞い込んできたりする。

でも、どうしようかなーと考えてしまうこともある。

今年はこの迷宮街をも含む領地の統治者であるパーシバル家が同盟をくんでいたはずの大貴族との戦になってしまった。

そのために、迷宮に潜っていた実力者たちにも探索組合を通して依頼が入った。

戦に出陣するように要請が来たのだ。

それがきっかけで多くの探索者が戦にかり出されて、今迷宮内はちょっとした人手不足だ。

本来ならば内部に潜った探索者のおかげで数が減っている魔物が増え、それで私達の探索隊は危ない目にあった。

このまま、戦が長引くようなら探索深度を抑えるほうがいいかもしれない。

でも、そうなったら稼ぎも減るしな。

あー、どこかに良い男でもいないかしら。

そろそろ家庭に入ってもいいというか、行き遅れたらどうしようって感じなんだけど。

「ねえ、あれ何かしら? リュシカ、あなたの【遠見】であれがなにか見えないかしら?」

「え、ごめんなさい。どうしたの、ジェーン?」

「ぼーっとしないで。あっちを見て、リュシカ。あそこ、なにか見えない? なにか光っているような……」

街の外壁の上で見張りの仕事中にいろいろ考え事をしていたら、ジェーンに怒られちゃった。

いけない。

ボーッとしていて仕事を怠けていると思われたら仕事の依頼達成にならないかもしれない。

それはわたしだけの問題じゃなくて、他のみんなの迷惑にもなる。

特にわたしは探索組合で受けた【能力開放】で【遠見】という魔法を身につけているんだ。

遠くのものを見通すこの【遠見】を持っていて、壁の外の異常を見逃したとあったら言い訳できないところだ。

そう思って、わたしはジェーンの指が指し示す方向を見つめる。

確かにジェーンの言う通り、遠くでなにか青白く光っているように見えた。

慌てて【遠見】を発動してそこを見る。

「え……、なにあれ?」

「どうしたの、リュシカ? 何が見えるの?」

「わからない。……あれは動物? たくさんの光の中に角が生えた白い動物がいるのかな? でも、数が多い。数え切れないけど、数百以上は間違いなくいるように思う。それに、あれは白い動物の上に人が騎乗している。もしかして、使役獣に騎乗した部隊なのかな?」

「それって騎兵隊とかってこと? でも、仕事を受けたときの情報では今日どこかの部隊がこの迷宮街に来る予定なんて聞いていないけど……」

「ええ、わたしも聞いてないわ。一応、ほかの兵士に連絡しておいたほうがいいわね。……けど、あの騎兵隊ものすごく速いわよ。どんどん近づいてくるわ」

「……ちょっと待ちなさい。あなた、今、白い使役獣って言わなかった? 角の生えた白い使役獣だって、そう言ったわよね、リュシカ」

「え、ええ。そうよ、ジェーン。あの騎兵隊全部同じ白い使役獣だと思うわ」

「それってあれじゃないの? 白い悪魔よ。北の地には目につくものをすべて殺し尽くす白い悪魔がいるって聞いたことあるわ」

「あっ、それって例のフォンターナ家の? 近くの貴族どころか、仲間の騎士すら殺す悪魔の騎士のことじゃないの?」

「名前まではわからないけどそうだと思う。ちょっと、もう私の目でも見える位置まで来てるじゃない。こっちに来てる! ここを攻撃する気なんじゃ……」

「嘘……。だって、フォンターナ家が宣戦布告をしたのはつい最近だったって話のはずよ。もし本当にパーシバル領に来ようとしても、もっと後になるって話だったのに」

「って、こうしちゃいられないわ。急いで警戒信号を。あなたも笛を吹いてみんなに知らせるのよ、リュシカ」

ジェーンに促されて慌てて見張り仕事を受けたときに手渡された笛のことを思い出す。

小さな笛だけどよく音が通ると評判のものが紐で吊るして首にかけている。

それを慌てて口に当てて吹き鳴らした。

ジェーンも同じように吹いている。

だけど、それは遅かった。

あっという間に近づいてきたその白い悪魔の集団が迷宮街の外壁のすぐそばにまで来ていたのだ。

こちらは全くその動きに対処できていない。

わたしたちから遅れて壁の上からほかの笛も鳴り始めて、兵士が飛び出してきた。

が、その騎兵隊の動きは速かった。

それまでは数が多いのに一糸乱れぬほどの揃った動きで行動していたその集団から一頭だけが飛び出すように出てきたのだ。

そして、その使役獣から一人の男が飛び降りて、壁の上にいるこちらの耳が痛くなるほどの大きな声で吠えた。

「ウォオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!」

次の瞬間、その男が巨大化した。

迷宮街を守る外壁にある硬い扉の門の前で大きくなったのだ。

しかも、大きくなったのはそれだけではなかった。

その巨大な体をさらに超える長さの棒を手にしている。

あんな長い棒なんて使役獣に乗っているときにあったっけ?

そんなどうでもいいことを考えると同時に、探索者の癖ゆえか相手の持つ道具を観察してしまう。

……あれは魔法武器だ。

迷宮の深層から持ち帰る素材などを使って作られることもある高価で貴重でしかも恐ろしく強い武器。

わたしも今までの探索者歴のなかでいくつかの魔法武器を見たことがあった。

だから、断言できる。

あの武器はやばい。

今まで見た魔法武器の中でも最高位の魔力を内包しているんじゃないだろうか。

……もしかして、素材に竜でも使っているんじゃないだろうか?

いや、ないない。

さすがにそんな素材の武器なんてこの迷宮街でもまず見ることはないはずだ。

そんなふうにある種のん気と言っていいくらいわたしはその男の行動を見ているしかなかった。

そして、その巨大な男がその手に持つ黒い棒、あるいは棍を振り下ろした。

自分の目で見ているものが信じられないでいる。

この迷宮街の外壁は外からの侵略者もそうだが、万が一迷宮から漏れ出した魔物が外に出ることを防ぐための意味もあるのだ。

そのため、外壁も門扉も非常に頑丈に作られていると聞いている。

だというのに、その門扉が巨人の一撃で大きく凹み、二撃目でガチャンと留め具が外れ、三撃目には後方に大きく吹き飛んでいったのだ。

こうして、まともな防衛戦もすることもなく、ここ迷宮街は敵の侵入を許してしまったのだった。