軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教会での質問

「……フォンターナ領横断列車は無理だな。少なくとも今は」

【線路敷設】という真っ直ぐに伸びるレールを敷くための呪文を作り上げた俺だが、その後、いくつかの問題点も見えてきた。

まず、フォンターナ領を横断するような東のウルク地区から西のアーバレスト地区まで伸びる真っ直ぐな線路を引くという考えは断念することになった。

本当なら、長距離を通る線路を作りたかったのだがそれもしょうがないだろう。

なにせ、線路の上を走る動力をヴァルキリーにしたのだ。

電車や蒸気機関車とは違って、まずは積載量が違うという問題もある。

が、それ以上にヴァルキリーはいかに優れた使役獣であるとはいえ生きた動物であるという点である。

食べ物も必要ならば水も飲むし、体を休める時間も必要だ。

角ありを列車を引くための動力として利用すれば、それでもいくらか走行距離が延びるかもしれないがそれはできない。

魔法が使える角ありは俺の持つ最強のカードでもある。

バルカ騎士領の中だけならともかく、他の騎士領を通過することもある列車に角ありを使うことはできなかった。

そのため、動力として列車を引いてもらうことになったのはすべて角なしだ。

彼らは【瞑想】などといった魔法も使えないので、しっかりと体を休めなければならない。

そんなわけで、地平線の彼方に続く線路を延々と列車移動できるということにはならなかった。

必然的に一定程度の休息場所が必要という結論に達したのだ。

では、どこで休憩するのが一番いいか。

線路の上を車輪を転がして運ぶとはいえ疲れてしまうヴァルキリーが安全に休める場所であること。

そして、休んでいる間に賊などに荷物を奪われないための場所が必要だ。

そうすると、簡易休憩所みたいな作りはなるべく避けたかった。

そういうわけで、結局フォンターナ領を走る線路は手頃な距離にある街から街へと向かうように敷設していくことになったのだ。

まあ、今なら丁度いいといえば丁度いいかもしれない。

地震が起きて被災者を収容するために、俺がフォンターナ領中の小さな町や村にまでアパートなどを建てたのだ。

その建物を駅舎などに活用しよう。

そうして、各地に点在する俺の建築物に向かって、縦横無尽に線路が敷かれることになったのだった。

一応駅舎と列車の保管庫、荷物の保管庫などの施設を維持していく必要もあるため、その地の住人にも働いてもらうことになる。

これが意外と地震の影響による失業者への対策にもなったので、移動効率が少々落ちてしまうが結果オーライとなったのだった。

※ ※ ※

「すみません。俺ってなにかしましたか、パウロ司教?」

「ふむ。アルス、あなたは自分のしていることがどれほど異常なことなのか、あまり理解していないようですね?」

「えーと、なんの話なんでしょうか? もしかして、線路を作ったのってなにか教会にとって不都合だったりしましたか?」

「いえ、線路はどうでもよろしい。それよりももっと重要な問題があります」

「あー、もしかして最近俺がしているバルカ式強化術が問題なんですかね? でも、フォンターナ領を守っていくためには当主級一人だけっていうのはちょっと大変なんで、しょうがなかったんですよ」

「その結果があれですか? あなたやガロード様以外の当主級が6人ほど増えたようですね? それについても聞きたいことはあります。が、ひとまずそれも置いておきましょう」

「あれ、強化術のことでもないんですか? それなら、パウロ司教が呼び出したのっていったい?」

「あなたは傷ついた配下の者たちに対して【回復】を使っていますね?」

「……ええ、使っていますけど。え、だめなんですか? 位階上昇によって覚えた【回復】は使っても教会になにか言われるような話は無いって聞いていたんですけど」

「そうですね。あなたが自身の実力で位階を上昇させ、それによって【回復】という魔法を使えるようになった。それをどのように使おうと教会が異を唱えることはありません」

「では、何が言いたいんですか、パウロ司教?」

「その前に、こちらへ。あなたにはこれからわたしの前で【回復】を使っていただきます。ああ、もちろんそのための対価は教会からお支払いしますのでご安心を」

【線路敷設】という呪文を作り上げ、実際の試用試験から得られたデータをもとに、どのように線路を敷くのか。

その際に、誰がどこまで維持費や管理費、人件費を負担し、安全を確保するのか。

収益をどのように分配するのか、などといったことまで多岐にわたる条件を各騎士領を治める騎士と協議していた。

お互いの利権が関わり合うことなのでアレコレといろいろ話し合っていたとき、教会からお呼びがかかったのだ。

なんのことだろうか、と思いながら教会にやってきたら、久しぶりにパウロ司教の顔がひどく緊張していたのだった。

どういうことかと話を聞いてみれば、どうやら【回復】についてらしい。

確かに俺は雫型魔石を体内に取り込んで位階が上昇してから覚えた【回復】という魔法を何度も試してみた。

そのことについて怒っているのだろうか?

といっても、パウロ司教が言うようにそれ自体を怒るというのはおかしな話なのだが。

パウロ司教がこっちに来いといい先導して歩く教会の通路を黙ってついていく。

そして、その先にあったひとつの扉を開け、中にはいっていく。

その部屋にはベッドが設置されており、そこに一人の怪我人が横になっていた。

黙ってここまで連れてきたパウロ司教がそのベッドのそばで立ち止まり、俺の顔を見る。

ということは、この怪我人にたいして俺が【回復】をかけるところを見たいのだろうか。

そのように判断した俺は一度パウロ司教の顔を見て、視線を合わせてから呪文を発動させた。

「回復」

俺が患者に対して右手の平を当てて、一言つぶやく。

すると、その患者の体を覆い尽くすように俺の体から発した魔力が包み込み、不思議な現象を発動させた。

体全体の傷を再生させていくのだ。

何度見ても異常な光景と言わざるを得ないだろう。

なにせ、ベッドに横たわった患者の体から、失われていた右手と左脚がニョキニョキと生えていき再生したのだから。

俺は今まで戦に出ても大怪我をしたことがなかったが、これほど【回復】には効果があるとは知らなかった。

そりゃ、こんなとんでも魔法があれば医学も発展しないというものだろう。

ミームも苦労するはずだと思ってしまう。

「……噂は本当だったのですね。まさか、失われた手足を再生することができるとは」

「え? もしかして、パウロ司教、できないんですか?」

「はい。できません。というよりも、【回復】が使える教会関係者でもそのようなことができる者というのは限られた特別な人だけでしょうね。大司教様といえどもできるかどうか……」

「はい? え、なんでですか? 呪文を唱えるだけでしょう? 司教以上の立場の人ならだれでもできるんじゃ……」

「いいえ、違います。【回復】という魔法は体の傷を癒やすことはできますが、欠損した肉体を修復することはできないのです。教えなさい、アルス。それはどのようにして行っているのですか?」

「いや、教えろって言ったって呪文を唱えているだけですしね。むしろ、できないのが普通だっていうのすら知らなかったからわかりませんよ」

まじかよ。

てっきり俺は欠損治療までできるのが【回復】の効果だとばかり思っていた。

だけど、違ったのか。

俺の左右の肩をガッチリと掴んで揺さぶるように質問をぶつけてくるパウロ司教を前にして、俺も動揺を隠せないでいた。

もしかして、これが原因で教会に身柄を拘束されたりするんだろうか?

困ったな、と思いつつ、なにか適当な言い訳でもないだろうかと頭を働かせることにしたのだった。