軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

角切り

「さて、と。気が重いけどやっておかないといけないよな」

村へと帰ってきて荷物の整理がついたときのことだ。

俺はこれからあまり気持ちのいいことではないことを実行しなければならない。

それは使役獣の角を切る、という作業だった。

貴族のフォンターナ家に献上したヴァルキリー種3頭はすべて角を切り落とされてしまったのだ。

何もいきなり3頭とも切らなくてもよかったのではないかと思ってしまう。

だが、その現場で文句を言うわけにもいかず、見ていることしかできなかった。

父が心配していたように、角を切られた使役獣が衰弱死したりしないかどうか、こちらでも確認しておく必要がどうしてもあるのだ。

何日もこのことで頭を悩ませていたが、村に帰ってきた以上、先延ばしにすることには全く意味がない。

やるなら、さっさと実行してしまわなければならないだろう。

こうして、俺は使役獣の角を切ることにしたのだった。

※ ※ ※

使役獣は俺が最初に育てたヴァルキリーと、その後2回目に育てた5頭がいる。

その5頭のうち、俺が直接魔力を与えて卵から孵化させたものが2頭だ。

ほかの3頭は初代ヴァルキリーに【魔力注入】をしてもらい、孵化させた。

そして、今回貴族へと献上したのはヴァルキリーに育てさせた3頭だった。

つまり、今残っているのは俺が育てた2頭ということになる。

今回はこの内の1頭の角を切ることに決めた。

理由は単純だ。

同じ条件の使役獣で1頭は角を残し、もう1頭は切り落とせば、それぞれの経過を比較できると考えたからだ。

もし、角を切ったほうが明らかに早死するようであれば、角切りはやめさせたほうがいいだろう。

街で買ってきた金属製の刃物を初めて使うというのが生き物の角を切る事になってしまうとは……。

だが、考えてみれば前世でも鹿の角を切ったりしていたようにも思う。

あれは確か、角があった場合、その角で鹿同士が喧嘩して大怪我につながったりという問題があったのだった気がする。

今の所、生まれた使役獣同士で喧嘩するようなことは見られないが、今後そういうこともあるのかもしれない。

何より、いい加減、使役獣のことはペットのような家族の一員ではなく、商品となる家畜と考えたほうがいいのかもしれないと思った。

あまり、むやみに名前をつけないほうがいいかもしれない。

「よし、やるか。悪いけど、我慢して、暴れないでくれよな」

俺はそういっておとなしく立っている1頭の白い体毛をなでながら声をかけ、角を切り始めたのだった。

結構な硬度を持つ角を2本も切るのには大変苦労した。

だが、俺が言ったことを理解しているのか、じっと我慢し続ける使役獣。

そして、ついに2本目の角がゴロンと地面に落ちたのだった。

※ ※ ※

「うーむ。まさか、こんな結果になるとは……」

使役獣の角を切り落としてから数日が経過した。

今のところ、角を切られた個体は元気そのものだ。

特に体調不良を訴えて、衰弱しているといった傾向は見られない。

とりあえず、何もなさそうだと言うことでホッとしていたところだった。

だが、その後、新たな事実が判明した。

それは、角を切った個体は魔法を使えなくなっているということがわかったのだ。

俺が使う【整地】や【土壌改良】といったオリジナル魔法だけではなく、生活魔法の【飲水】なども使えなくなっていたのだ。

たまたま目撃した、角のある個体から水を飲ませてもらっているところを見かけて、ようやく魔法が使えなくなっているということに気がついたのだった。

これはどうしたことだろうか。

現状わかっていることは角がある個体は今も普通にすべての魔法を使っているのにたいして、角がない個体は全く魔法をつかえないということ。

だが、目に魔力を集中させて使役獣を観察してみたところ、肉体から魔力がなくなったというわけでもないようだ。

魔力はあるが、使えていないというのが現状を説明する言葉になるのだろうか。

実はこれは後でわかったことだが、人間でも同様のことが起こり得るらしい。

もちろん、人間には角などというものは生えていない。

そのかわり、人間は両方の手がなくなってしまうと魔法が使えないのだそうだ。

これは父が話してくれたことだが、稀に戦場では両手を失うものもおり、その人達はその後の人生を魔法なしで過ごすことになるという。

【照明】や【着火】といった生活魔法は、魔法を発動したい場所を指で指し示してから呪文を唱えることを考えると、手がなければ発動しないものなのかもしれない。

そして、ヴァルキリーたちにとっては手のかわりに角がその役割を果たしているのかもしれない。

「……これって、ある意味貴重な情報かもな……」

ヴァルキリーたちの角を切れば魔法が使えなくなる。

デメリットしかないように思えるこの情報だが、俺にはメリットに映った。

というのも、以前行商人が魔法の使える使役獣は聞いたことがないと言っていたことを覚えていたからだ。

もしかしたらいるのかもしれないが、魔法が使えない使役獣業界の中に突如魔法が使える種が現れたらどうなるのか、想像もつかない。

もしかするとトラブルの原因になるかもしれない。

が、それ以上に大きな問題がある。

それは、俺の育てたヴァルキリーという種の使役獣は、使役獣の卵さえあれば【魔力注入】という魔法を用いて量産することができるというところにある。

本来、俺にしか育てられないからこそ、俺から購入する必要があるのだ。

それが、俺がいなくとも同じヴァルキリーという使役獣を量産できるとわかれば、俺から買う必要性がなくなる。

つまり、それは俺の独占利益がなくなってしまうということになる。

「よし、行商人に売る使役獣は全部角を切ってしまおう」

こうして俺は使役獣を出荷する前には必ず角を2本とも切ることにしたのだった。

切ってしまったあとの姿は体毛に隠れて切り痕すら見えないため、前世の馬に似た生き物に見えてきて、もともとこういう姿で生まれたのではないかとすら思ってしまう。

寿命に影響が出ないのであれば、この角切り作業は続けていこうと心に決めたのだった。