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作品タイトル不明

三頭会議

「この度の大規模広範囲の地震の原因はすべてフォンターナ領の領主代行アルス・フォン・バルカによるものである。よって、我がパーシバル家はフォンターナ家へとその責任を追及すべきであるとここに提案する」

元覇権貴族であるリゾルテ家を追い落とし、その勢力を拡大させた三貴族同盟。

その三貴族同盟が一同に介して年を跨ぎながらも話し合いを続けていた。

教会が主導して開催された三貴族同盟会談といわれるものだ。

この三貴族同盟会談の主な目的は次の覇権貴族を決めるというものだった。

いまだに数多く存在する各地の貴族家に対して、王家と密接な関係を持ち、間接的にだが強力な影響力を持つ覇権貴族へと上り詰める。

3つの大貴族はすべて自分たちがその地位にふさわしく、しかし、絶対に他家にはその覇権を握らせてはならないと思っている。

会談を開始した当初はお互いが牽制しあって、いつ暴発してもおかしくない一触即発状態に陥っていた。

だが、そこにだんだんと変化が現れた。

未だ覇権を握ることを狙いつつも、ひとまずは現状で安定化しようという動きが出始めたのだ。

その理由は三貴族同盟の北と南にあった。

元覇権貴族であり、衰えたとはいえ未だ存続している南の大貴族であるリゾルテ家。

そして、そのリゾルテ家と北のフォンターナ家が南北同盟を結んだことが最初のきっかけだった。

その同盟はかなりの異例の事態だったと誰もが感じていた。

なぜなら、北のフォンターナ家はほんの少し前に当主であるカルロス・ド・フォンターナが領地から遠く離れた土地で亡くなっていたのだから。

残された子供はまだ話をすることすら不可能な幼子であり、急場をまとめるのは不可能である。

誰しもがそう考えていたのに、事態はまたたく間に進行したのだ。

農民出身と言われる騎士が当主カルロスの死の直後に動いた。

その速さはまさに電光石火と言えるほどだ。

誰もが関知しない間に当主の死を知ったその騎士は次期当主であるカルロスの嫡子を保護し、当主代行の地位に収まった。

そして、その直後にリゾルテ家と同盟まで結んでしまったのだ。

ほんの少し前まではそこいらに存在している貴族家となんら変わらなかったフォンターナ家をまたたく間に拡大した英傑であるカルロスと密接に関係のあったアルスという騎士。

しかも、そのアルス・フォン・バルカ率いるバルカ軍は圧倒的多数を誇るメメント軍と対峙しても一切引かず和睦に持ち込んだのだ。

メメント軍が北へと向かった当初は誰もがメメント側の圧勝と予想していたこの戦いの結果は予想外の出来事でもあった。

北と南に大きな不安要素が残っているというこの状態で続けられた三貴族同盟会談は少しずつその目的を変化させていった。

あわや、三大貴族同士で戦い合う日が来るかと思われたこともあったが、当面の問題についての話し合いを優先することで、だんだんとその内容が変わったのだ。

次の覇権貴族を決めるためではなく、三大貴族、及びそれらの影響力が及ぶ貴族領に起こる問題についてを話し合う場へと。

そうして新年を迎えてしばらくしたころになると三貴族同盟会談はその名を三頭会議と呼ばれるようになった。

互いの領地、経済、軍事など多岐にわたる内容を議論し合う場へとなったのだ。

話し合うことはいくらでもあり、潜在的な敵がいることで無駄に三貴族同盟内で争い合うのは愚行との認識が一致した結果、武力を用いずに妥協点を探すことができる場が出来上がったのはすべてのものにとって幸運なこととなった。

だが、その三頭会議も長くは続かなかった。

突然の天変地異が襲いかかったのだ。

もうじき春が来て、これから更に忙しくなってくるというときになって、なんの前触れもなく突然の不幸がすべてのものに降り掛かった。

広範囲に地揺れを起こした大地震によって三大貴族のどの領地も影響を受けたのだ。

建物が崩れ、それによって多くの人が冬の寒さに身を震わせた。

たとえどれほどの大領であろうとも無視できない大災害が引き起こされたのだ。

だが、しばらくすると不思議な話が聞こえてくるようになった。

未曾有の大災害を事前に「予告」したものがいるのだという都市伝説のような話だ。

こういう話そのものはよくあるものだ。

実際に何かが起こってから、あとになって「実は自分はこの出来事を予期していた」と主張し、まるで予言者であるかのように振る舞う不届き者が出現するのは世の常だからだ。

しかし、今回は違った。

大災害が起きる直前に観測された3つの天文現象。

地震という現実的な被害を与える前に、まるで恐怖を引き出すかのように起こった星と月と太陽の異常事態。

それを事前に宣告した者がいたのだ。

その人物こそ、近年急速に注目度が上がったフォンターナ家所属の騎士であるアルス・フォン・バルカその人である。

アルス・フォン・バルカは数日前から盛んにその天文現象が起きることを喧伝していた。

なんと驚くべきことに、フォンターナ領とは遠く離れた王領にまでその情報を届けていたのだという。

そして、その直後に地震が起きた。

この地震は誰が原因であるか。

考えるまでもないだろう。

アルス・フォン・バルカは氷の一族に名を連ねる一方で、独自に土の魔法を習得し、その力を以ってして敵対する勢力と戦っていたのだから。

地揺れはまさに土に関係した現象であり、この事態は自ら魔法を開発するという情報すらあるアルス・フォン・バルカがいよいよ上位魔法を生み出したのではないかと考えられたのだ。

しかも、地震が起きる前日の夜の月も注目された。

本来ならば夜空に月が見えることがない新月の日に、赤い月が現れたのだ。

この赤い月は古来より不吉の象徴とも言われている。

すでに文献は失われてしまっており、原理はわからないものの、魔力が関係していると考えられていた。

大気中の魔力がその濃密さを増す特別な日に、本来は存在しない赤い月があたかも空に浮かんでいるかのように浮かび上がるのだ。

やつはその魔力を利用して、土の大魔法を発動させたのではないか?

そう考えるのは当然の流れだった。

だからこそ、三大貴族家の一角たるパーシバル家はこの大災害を引き起こした北の悪魔を討伐すべきであると三頭会議で宣言したのだ。

「異議あり」

だが、そこで反論が起こった。

今回の三頭会議でフォンターナ家に対しての責任追及があることは誰の目にも明らかだった。

だからだろうか。

フォンターナ家から証人として会議へと出席した者がおり、その人物が異議を申し立てたのだ。

「我がフォンターナ家、及び当主代行たるアルス・フォン・バルカはそのような事象を発現できるいかなる手法も持ち合わせてはいません。事実無根であり、逆にフォンターナ家はパーシバル家にこそ責任を求めます」

「なんだと? 貴様、我らパーシバル家にいかなる責任があると言うのだ!!」

「先程も言ったとおり此度の災害はフォンターナ家が関知するものではありません。むしろ、なぜこのようなことが起きたのか、それは昨年の王の死が関係しているのではないでしょうか。王領へと帰還しようと視察先であるフォンターナ家から移動中であった王が突然の襲撃によってお隠れになってしまいました。言ってみれば、此度の災害は王の怒り、あるいは天の意志と言えるのではないでしょうか。そうであれば先の王襲撃事件の首謀者こそが、此度の大災害を引き起こした直接の原因であると考えます」

「どういう了見だ? まさか、王に手をかけたのが我らパーシバル家だとでも言いたいのか?」

「いかにも。我がフォンターナ家は先代当主カルロス様が亡くなられてからこの件に関して緻密な調査を行なってきました。そこで、浮かび上がってきたのは間違いなくパーシバル家の存在です。三頭会議にご出席の御歴々に問いたい。王の身に手をかけたものを許してもいいのでしょうか。否、答えは否です。パーシバル家へ王の死についての説明を求めます」

本来は地震についての責任を追及するためのはずだった三頭会議。

だが、そこへ一石を投じる者がいた。

フォンターナ家に所属するグラハム騎士家当主のリオン・フォン・グラハムだ。

当初は釈明に訪れたはずのリオンが堂々と宣言した。

王の命を奪ったのは三大貴族のうちのパーシバル家である、と。

そして、その発言の直後、三頭会議内では大きな拍手が起こった。

パーシバル家がフォンターナ家に地震の原因を追求すると発言した際よりも大きな拍手が起こったのだ。

その拍手は間違いなく、リオン・フォン・グラハムに同意を示すという合図に他ならない。

それも当然だろう。

三大貴族が会談を開く前から王都圏で活動を開始したリオン・フォン・グラハムが、なんの算段もなくこの場に訪れることは無いのだから。

すでに、王家と教会、そして三貴族同盟内でもフォンターナ家と経済的つながりを持つことになったラインザッツ家とメメント家はすでにこの発言について同意をすることを内密に了承していたのだから。

こうして、三頭会議は新たな局面を迎えた。

3つの大貴族がそれぞれ話し合う場から、王殺しの主犯とされたパーシバル家に責任を問う場にさらなる変質を遂げ始めたのだった。