軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生存戦略

「アルス様、本当にこの話をまとめるおつもりなのですね?」

「ああ、そうだよ、ペイン。交渉はお前が行ってくれ。今の状況なら話がうまくまとまる可能性があるはずだ」

「……わかりました。必ずや成果を上げてみせましょう。期待して待っていてください、アルス様」

「頼んだぞ、ペイン」

襲撃から生き残ったリオンが南部にある大貴族リゾルテ家とフォンターナ家の同盟の話を見事にまとめてくれた。

その情報が間違いのないものであり、他の貴族にも情報が伝わりだしたころになって、俺は新たにもう一つの手をうつことにした。

今回、その策を現実のものとするためにペインを使者として送り出すことにする。

俺の次なる一手はぶっちゃけるとそう特別なものではなかった。

それは三貴族同盟の中の一家であるメメント家と交渉することだった。

つまりは、現在アインラッド砦の南部で睨み合っているメメント軍と講和を結ぶことにしたのだ。

メメント家は王の身柄の確保という目的からフォンターナに向けた大軍を差し向けた。

だが、それは失敗に終わった。

俺が食料を焼き払い、カイルが【念話】によってかき回した戦場では当主級まで討ち取られたのだ。

そして、その後の軍の停止命令を半ば無視した形で逗留していたメメント軍にはさらなる不幸が襲いかかった。

バルカの騎兵団による夜襲で再び当主級の一人が討たれたのだ。

勢いだけで言えば、そのまま何かの間違いでフォンターナ側が勝利してしまうかもしれない。

そんな雰囲気が一瞬だけでたのは事実だ。

だが、そんなものはあっと言う間に霧散してしまった。

王を護送していたカルロスの死という出来事によって。

遠く離れた事件をきっかけとして、俺はバルカ軍の一部を別に振り分けて行動せざるを得なくなってしまった。

そうすると、もとの3つの陣地はどうなったかというと完全にお見合い状態になってしまったのだ。

バルカ側はカイルの【念話】によって情報伝達の速さが異常に速く、カルロスの死という情報をもとにして即座に陣地から軍の一部を引き抜いて他の場所へと行ったのだ。

だが、相対しているメメント軍はそうではない。

急に3つの陣地の中にいる軍の内訳が変わったが、それがどうしてかさっぱりわかっていなかった。

しかし、だからといってメメント軍も二人の当主級がいなくなってしまったばかりだ。

それも、一番戦いたがっていた強硬派の人間がいなくなってしまった。

結果としてメメント軍は一度大きく自分たちの陣地を下げて相手の出方を見るという消極策を選択したのだ。

これにより、俺がフォンターナ家の当主代行という立場に収まり、バルガスがアーバレスト領を手に入れるほどの時間がありながらも、にらみ合うフォンターナとメメント軍ではほとんど戦闘が行われなかったのだ。

そうして、今になってこの地に逗留するメメント軍にも遠方からの情報が入りだした。

つまり、王都に向かっていた王が死んだことを知ったのだ。

これはかなり大きな意味を持つ。

なにせ、メメント軍の当初の目的は王の身柄の確保であり、フォンターナを倒すことでも、フォンターナの領地を得ることでもなかったのだから。

ようするに、現在メメント軍は目的を見失って宙ぶらりんになってしまった状態に陥ってしまっていたのだった。

この瞬間はチャンスだ。

俺はそう判断してすぐに手を打つことにしたのだ。

メメント軍と交渉することを目指して行動した。

メメント家とフォンターナ家は一時的に対立して戦いへと突入したが、これは別に絶対に必要な戦いではない。

メメント家の目的はあくまでも覇権貴族へと上り詰めるために王の身柄を手に入れたいという思いがあり、そのためにフォンターナへと兵を送ってきたのだ。

対して、フォンターナ側も別にこれ以上戦いたいわけではない。

なにせ、こちらを襲ってきたメメント軍に勝ったところで得るものがないのだから。

あくまでも襲いかかられたから撃退しに動いただけで、戦いが終わるのであればそれが一番なのだ。

だが、だからといってこちらから「お互い戦う意味はないからもうやめようぜ」といったところでメメント軍は聞き入れられないだろう。

肝心の目的を果たせず当主級を2人も討ち取られたという事実だけをもってメメント領へと帰還したいなどとは誰も考えない。

故に、彼らにもなにか手柄と言えるだけの戦果が必要だったのだ。

「だからといって、譲歩しすぎじゃないのか、坊主? 今の状態だとペインは本当にあの条件でメメント軍と話をつけてきちまうぞ?」

「別にいいだろ、おっさん。それで戦が終わるんなら」

「……もう一度聞くが、本当にいいのか? メメント家と停戦合意を取り付けるためだけに、今後数年間は格安で麦を販売することになるんだぞ。そこまでする必要があるのか?」

「もちろんあるよ。たとえ損をすることになる契約を結んでも、メメント家とは停戦する。そうしないとフォンターナに未来はないからな」

「だが、相手はあの三貴族同盟の一家だぞ? 王やカルロス様を襲撃した可能性だってあるんだ。そんな相手に麦をものすごく安い金額で販売するなんて、俺には坊主の考えていることがわかんねえな」

俺がペインを使者として送り出したのを見送っていたら、そばにいたおっさんが話しかけてきた。

どうやら、今回の件についてあまり納得がいっていないようだ。

俺は今という状況がメメント家と交渉すべきタイミングであると考え、そして、話をまとめるためにペインに譲歩案をもたせていた。

それが、おっさんの心配する麦の格安販売である。

譲歩案に含まれたその条件が締結されると、今後数年間に渡ってフォンターナはメメント家に対して相場を遥かに下回る価格で麦を販売しないといけなくなるのだ。

麦とはすなわち税である。

多くの貴族にとってみれば、領地を持つ意味はその地に住む者たちから税を取り立てる権利を持つことであり、それはつまり収穫した麦を徴収することにほかならない。

つまり、俺が用意した譲歩案というのはフォンターナ領で取れる税を恐ろしく低い価格でメメント家へと流すことを意味する。

人によってはメメント家へ服従するようなものだと思う人もいるかもしれない。

「だけど、これは必要な取引でもある。これをしていないとフォンターナは干上がるからな」

「干上がる? フォンターナが? どういうことだ、坊主」

「……今のところ、カルロス様を襲撃した相手がどこのだれだかは判明していない。だが、おそらくは三大貴族のどこかだとは思う。けど、メメント家は違う。メメント家は王の身柄を要求していたからな。カルロス様ごと王を躊躇なく殺したことから、メメント家が襲撃したと考えるには違和感が残る」

「……つまり、坊主は襲撃したのは三大貴族の残りの二家のどちらかだと思うのか?」

「そうだ。そして、それとは別にもう一つ考えておかないといけないことがある。なにかわかるか、おっさん?」

「フォンターナが干上がる……。そうか、通商問題だな」

「そうだ。フォンターナ、ひいてはバルカは交易を通して成長してきた領地だ。フォンターナ領で作られたものは商人が南に持っていって販売し、そこで得た収益から今度は王都圏などの商品を仕入れて北に運んで利益を得ている。つまり、三貴族同盟が連携して攻めてこなくても、北に向かう商隊の移動を止めるだけでフォンターナは経済危機に陥る可能性があるんだよ」

「最北に位置するフォンターナを経済的に封鎖することを三貴族同盟が狙ってくることを心配しているってことだな?」

「そのとおりだよ。フォンターナの当主代行となった俺は他の貴族とのつながりがない。そこをついて貴族間で村八分状態にされる可能性がある。だからこそ、先手を打って経済封鎖の網を破るためにもメメント家と経済的なつながりを作りたいんだ」

「だが、メメント家がそこまで信用できるのか? フォンターナから買った食料でこっちを攻めてきたら笑い話にもならないぞ?」

「たぶん、それはないと思う。メメント家の目的はあくまでも覇権貴族になりたいってところにあるんだ。フォンターナそのものよりも同盟内の二つの貴族家を見ざるを得ない。そして、おそらくはメメント家が三貴族同盟の会談で覇権を得るには至らない。と、なると必ず三大貴族同士で争う時が来る。メメント家にとっても、大量の食料を安く買い取れる条件というのは魅力的な提案になるんだ。軍を動かして得た戦果として領地に報告できる実績になると思うよ」

今のフォンターナにとってなによりも重要なこと。

それは三貴族同盟が意思を統一してフォンターナに対処してくることだ。

三貴族同盟が連携をとって北へと軍を派遣して攻めてこられたらアウト。

それに対しては南部の元覇権貴族リゾルテ家と手を結ぶことでリスクを減らす。

そして、戦いではなく経済的な締め付けを三貴族同盟がフォンターナに対して行なってくることも考えておかなければならない。

商品が今までのように運ばれてこないようなことがあれば非常に困る。

だからこそ、それを未然に防ぐために多少の損を覚悟してでもメメント家と取引が続く状態を作っておきたかった。

それに麦ならば【整地】と【農地改良】の魔法を使えばもっと収穫量が増やせる。

それほど壊滅的な損害になることはないはずだ。

こうして、俺はリゾルテ家と手を組みつつ、メメント家と経済的なつながりを残すことをフォンターナの生存戦略として位置づけて、メメント軍と講和を結ぶことにしたのだった。