軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カイルの気持ち

「アルス兄さん、聞いたよ。アーバレスト家と戦いに行くんだよね?」

「カイルか。ああ、そうだ。どうやら周囲の状況がかなり動き始めている。それに触発されてアーバレストが動いてくる可能性があるからな。バルカは軍をパラメアに入れて状況を窺うことになる。ってことで、またしばらく出稼ぎに行ってくるよ。後のことは任せた」

「そのことなんだけどさ、ボクも行ったら駄目かな?」

「行くって、どこに行く気だ、カイル? まさかお前が戦場に出るとか言う気じゃないだろうな?」

「うん、ボクもアルス兄さんと一緒に行きたいんだ。駄目?」

「そりゃ駄目だろ。お前はまだ子供だ。10歳の子供が戦場に出る必要なんかないよ」

「でも、アルス兄さんもバイト兄さんも10歳の頃には戦に出てたじゃない。なら、ボクだって……」

「うーん、やっぱ駄目だよ、カイル。お前を戦場につれていくことはできない。バルカニアで待ってろ」

「どうして? ボクだって戦えるよ」

「なんだよ、カイル。今日はいつもよりもグイグイくるな。なんかあったのか?」

「心配なんだよ、アルス兄さんのことが。森のなかで不死者の竜と戦っていたアルス兄さんはあんなにボロボロになってたんだ。死んじゃっていたかもしれないんだよ。ボクだってアルス兄さんの力になれるんだ。だからボクも……」

「なるほどね。あのときのことが頭にあるのか。けど、やっぱりカイルが戦場に出るにはまだ早いかな」

「そんな!」

「まあ、聞け。それならこうしよう。カイルにはバルカ軍にとって重要な、特別な仕事を頼むことにしよう」

「特別な仕事? うん、わかった。ボクそれやるよ。どんな仕事なの?」

「カイルにはおっさんとペインの二人をつける。二人と協力してバルカ軍の支援を頼みたい。具体的にいえば、武器や食料の調達や配送なんかの輜重部隊の統率を任せたい。頼めるか?」

「戦場に出るわけじゃないんだね……」

「そうだけど、重要な仕事だぞ。というか、ぶっちゃけていえば戦いの勝敗はほとんど準備段階で決まると言えるんだ。軍は飢えるとなにもできないからな。この戦いはカイル、お前にかかっていると言ってもいい。どうだ、できるか?」

「うん、わかったよ、アルス兄さん。ボクに任せておいて。どんな状況になってもアルス兄さんが困らないようにしっかりと段取りしておくよ」

「よし、その意気だ。よろしく頼むぞ、カイル。じゃ、俺はそろそろ行ってくる」

「いってらっしゃい、アルス兄さん。気をつけてね」

うーむ、まさかカイルがこんなことを言い出すとは思いもしなかった。

カイルはバイト兄とは違ってあまり好戦的な性格をしていないので、てっきり戦場に行きたいとは考えもしないものだと思っていた。

どうも、俺やタナトスと一緒に森に入ったのが関係しているらしい。

あのハードなサバイバル経験がカイルにどんな影響を与えてしまうことになったのかは正直わからない。

いや、別に悪影響とも言えないのか。

どっちみち、ああいうことを言い出すのは早いか遅いかの違いでしかないのかもしれない。

というのも、騎士や戦場に出る兵の中には戦いで力を見せたものこそが人の上に立つ資格があるという思考の者も多いのだ。

長い歴史の中でずっと戦いが続いていたのも関係しているのだろう。

それは歴史ある貴族であっても変わらない。

魔法を授けることができる貴族であっても、戦場で逃げ出すような臆病者では誰もついてこないのだ。

カルロスもそうだった。

俺がもともとフォンターナ領を取りまとめていたレイモンドを討ち取ったあと、カルロスは自力で領内をまとめてみせた。

問題の原因となった俺と直接話し合い自勢力へと取り込む行動力を見せ、そのあと、領内で新たに実権を握ったカルロスに反抗的なものはカルロス直々に制圧していった。

だからこそ、大黒柱でもあったレイモンドを失ったあとだというにもかかわらず、フォンターナ領はカルロスのもとで一本化したのだ。

あのとき、もしカルロスが自身を貴族の当主であり無条件で自分が偉いのだ、などと勘違いして行動していればフォンターナ領はバラバラになっていたに違いない。

それに、今回も大軍を動かす気配のあるメメント家に対して自分で対処するという。

自分で行動しなければいけないときにはたとえ危険であっても行動する。

それこそが重要なのだ。

これはカルロスだけに限った話ではない。

そして、もちろんカイルにとっても他人事ではないのだろう。

俺はカイルの有能さを認めている。

独自魔法を使えるだけではなく、事務仕事など非常に頼もしいのだ。

だが、それを他人が認めるかどうかというのはまた違った問題だろう。

俺の弟であるというだけで、戦場にも出た経験がない子どもがバルカ騎士領の内務のトップみたいな地位にいる。

そのことに不満を持つものも当然いるのだ。

特に、俺と一緒に戦場に出てバルカ姓を授けられた奴らの中にはそう考えているものも少なくないかもしれない。

俺が知らないだけで、意外とそういうプレッシャーがカイルにはあるのだろうか。

もしそうならいずれ遠くないうちにカイルには戦場で働いてもらう必要があるのかもしれない。

が、個人的にはあまり好ましい選択ではない気もする。

そんなことでカイルの身に何かあれば一番困るのは俺なのだから。

どうしたものだろうか。

そんな子育てに悩む親のような気持ちになりながらも、俺はバルカ軍を率いてガーナがいる水上要塞パラメアへと入った。

どうやら、こちらの動きはすでにアーバレストも察知しているらしい。

パラメアについて早々に俺はガーナからアーバレスト軍が動いているという情報を伝えられたのだった。

こうして、ガーナの率いるイクス軍と連動したバルカ軍とアーバレスト軍の激突の日が近づいてきたのだった。