軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

純銀

「いいな、使えるぞ、お前」

「クーン」

「よーしよしよし、かわいいじゃないか。よし、これからは俺がお前を飼ってやろう。俺のために銀を作れ。いいな?」

「……クーン」

「嫌ならここでお別れだ。お前の仲間と一緒に土に帰ることになるぞ。そのかわり、俺のために働けば、今後食べ物に不自由することはない。どうする?」

「ワン」

「よし、決まりだ。お前はこれから俺と一緒だ。良かったな」

「……おい、アルス。お前、その犬人と話なんかできるのか?」

「なんだよ、バイト兄。そんなのこいつの目を見ればわかるだろ。俺と一緒に来たいって言ってるだろ」

「俺にわかるかよ。どうせ、お前が適当に言ってるだけだろ。けど、そんなやつを飼うのか? なんか役に立つのか?」

「ああ、俺はこいつを気に入ったからな。もらっていってもいいよな、バイト兄?」

「別にいいぜ。犬人なんて魔物を飼う変わり者はここにはいないからな」

鉱山にいた犬人亜種。

そいつを俺は飼うことにした。

ここの領主でもあるバイト兄が許可を出したのだから遠慮なくもらっていこう。

もっとも、バイト兄はこいつが鉄を銀に変えることができるということを知らないのだが。

知っていたら揉めていたかもしれない。

バレる前にさっさとバルカニアに帰ったほうがいいかもしれない。

犬人は鉄などをその小さな手のひらで握ると形を変えるという魔法が使える魔物だ。

その魔法によって槍の穂先や弓の矢じりを作って武器として活用している。

だが、この白い犬人は少し違ったのだ。

俺が調べた限り、鉄を手に握るとその鉄が銀へと変換されたのだ。

だが、この魔法は犬人にとってはあまりいいものではなかったのではないだろうか。

同じように武器の形にしたときに鉄と銀では鉄のほうが硬く、武器素材として優れているのだ。

そのせいで犬人の種族内では弱い犬人としての地位に貶められていたのではないだろうか。

が、人間社会ならば話は別だ。

銀は金銭的価値があるからだ。

鉄を採掘できる鉱山の問題を解決しに来たら銀山を見つけたようなものだ。

ありがたく有効活用させてもらおう。

「よし、お前にも名前があったほうがいいだろ。俺がつけてやるよ。これからお前の名前はタロウだ。いいな、タロウ。俺がタロウって呼んだらちゃんと返事するんだぞ」

「ワン」

「よーしよしよし、いい子だ、タロウ」

「なんだそりゃ。変な名前だな、アルス。まあ、犬人にはそのへんてこな名前がちょうどいいか」

「いや、いい名前だろう。よし、タロウ、お前には首輪も新しく作ってやろう。俺が硬化レンガで鎖とネームプレートを作ってやるからな」

「ワン!」

白い犬人にタロウという名前をつけた俺は魔法で硬化レンガ製の鎖とタロウという名前入りのプレートを作った。

そうして、それをタロウの銀製の首輪の代わりに首に通してやる。

おしりから生えている尻尾がぶんぶんと左右に揺れているし、たぶん喜んでくれているのではないだろうか。

どうでもいいが、犬に向けた言葉を投げかけつつもタロウは二本の足で立っているので微妙に犬ではなく子供にでも首輪をつけているような感じもする。

いっそのこと四本脚で行動させようかとも思ったが、骨格は人間のように立って歩くことを前提としているようだ。

どういう進化をたどればこうなるのだろうかと思ってしまう。

「ま、いいや。とにかくこれで鉱山の問題は片付いたことになるな。あとは任せて大丈夫だよな、バイト兄?」

「ああ、問題ない。鉱山には他の生き残りはいないし、近いうちに再稼働させる。採れた鉄は順にバルカニアに送ることにするよ」

「ああ、頼んだ。それじゃ、俺はタロウを連れてバルカニアに戻るとしますか」

こうして、俺は二足歩行する白い毛の犬の特徴を持つ魔物という手土産を持ってバルカニアへと引き返していったのだった。

※ ※ ※

「と、いうことがあってだな。こいつを連れて帰ってきたってことだ」

「相変わらず行く先々で変なことをしてくるな、坊主。で、どうしてそのタロウってのを俺に見せに来たんだよ」

「いや、おっさんと一緒に感動を分かち合いたかったんだよ。見てくれ、これがタロウが鉄を魔法で銀にした首輪だ」

「ふーむ、これがそうなのか。よく気づいたな、これほど汚れている状態で銀製だとわかるのはものを見る目がついてきたな、坊主」

「まあね。銀はもともと酸化しやすかったりして汚れやすいみたいだしね。正直見落としてもおかしくなかったよ。もっとも、最初に見たときはこれ以上に汚れてたんだけどね。坑道のなかで生活してたせいもあるし」

「で、そのもうひとつのものはなんだ、坊主? そちらは明らかに銀の輝きが違うようだが……」

「こっちか。こっちはバルカニアに帰ってきてから作らせたものだったんだけど、すごいだろ。純度が段違いなんだよ」

「……純度? もしかして、それはタロウが魔法をかけた鉄に違いがあったりするのか?」

「正解だよ、おっさん。今までタロウは自然界に存在する不純物の多い鉄鉱石に魔法を使っていた。だから銀も純度が低かった。だけど、このバルカで最新設備の炎高炉で生み出した鉄に魔法を使わせたらどうかと思ってな。見ての通り、ほとんど混じりけのない純銀に近い純度の銀が出来上がったってわけだ」

「すごい、すごいぞ、坊主。ここまで不純物のない銀は俺も見たことがない。これはすごいぞ」

「だろ? って言っても、逆にこれだけすごいと悪い意味で目立ちそうなんだよな。これをいきなり市場に流すと、どこから出てきた銀なのかを探られることになる」

「なるほど。タロウのことを嗅ぎつけられると面倒だな。わかった。しっかりとタロウを守れるように手配しておく」

「ああ、よろしく。まあ、しばらくはタロウに作らせた銀は厳重に保管しておこう。どうせ、何かの機会に大口支払いが発生するかもしれないしな」

「……ありそうだな。坊主はすぐに散財するからな」

バルカニアに帰ってきた俺は新たな実験を行った。

その結果、わかったことがあった。

それはタロウの魔法で作ることができる銀は、魔法を発動する際に持っている鉄によって出現する銀の純度が変わるということだった。

そのへんで犬人が手にすることができる鉄鉱石よりも、バルカニアだけにある炎高炉で作り上げた鋼鉄のほうが純銀に近かったのだ。

タロウは魔法を使う魔物という分類ではあるが、特別魔力量が多いわけでもない。

銀を作る魔法を発動できる回数には限りがあるということだ。

だが、その数少ない魔法の使用回数の問題も解消できた。

一度炎高炉で鉄鉱石をバルカ産の鋼の鉄に変換し、それをタロウが銀に変える。

すると恐ろしいほどの純度の銀の延べ棒が出来上がったのだ。

こうして、バルカの隠し金庫には人知れず純銀の延べ棒が積み上がっていったのだった。