軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不死骨竜との戦い

「オラアアアァァァァァァァ!」

「カンカカカン」

深い森の中で俺と不死骨竜が激突する。

逃げ続けていた俺は汗が吹き飛ぶほどの急回転で方向転換をし、追いかけてきていた不死骨竜を自身の正面に捉えた。

そして、右手で腰に吊るした斬鉄剣の柄を握りしめる。

すぐさま鞘から斬鉄剣を取り出し、両手で握って真正面に構えた。

次の瞬間、全力で斬鉄剣を振り下ろす。

骨だけで動く異形の化け物相手に技など必要ない。

ただ、全力を出し切る。

俺は一瞬で全身に魔力を練り上げ、それを斬鉄剣に注ぎ込む。

普段よりも魔力を込め、それを攻撃力へと転化する。

バイト兄の猿真似だ。

だが、尋常ではない量の魔力を注ぎ込み、一時的に武装強化と似たような効果を発現させた。

迫りくる不死骨竜。

骨だけの体で生き物を食べる必要などないはずだ。

だというのに、俺に向かって口を何度も開閉させてカンカンと音を鳴らしながら噛み付こうとしてきている。

俺を食う気なのだろうか。

あるいは、俺を殺したいと考えているのか。

いや、俺を殺すほどの動機がやつにあるはずもない。

やはり、目に止まった生きている生命体に襲いかかっているにすぎないのだろうか。

追撃してきた不死骨竜が俺に噛みつき、それを斬鉄剣グランバルカで迎撃する。

それは一瞬だった。

いや、一瞬よりもはるかに短い時間だったのかもしれない。

だが、俺にとってはそうではなかった。

大きく口を開けて、その口の上下に生え揃えた太く鋭い牙がいくつも生えた竜のアギトが近づいてきているのが見えたのだ。

まるで時間が引き伸ばされたようなゆっくりとした時間だった。

だが、そのゆっくりさは不死骨竜だけではなく俺自身もまた同じだった。

恐ろしくゆったりとした動きで俺を噛み付こうとする不死骨竜を見ながらも、斬鉄剣を振り下ろしている自分の腕もまた遅かった。

だが、焦ることはない。

これは今までにもあったことなのだから。

全身に満ちた魔力は脳の機能も強化して思考が高速化されているのだろう。

だったら、今ここでできるだけのことをするだけだ。

遅々として進まない自分の腕を見ながら、不死骨竜を観察する。

白い骨はここまで幾多の木をなぎ倒してきたというのにどこかが欠けているということもなく健在だった。

だが、そうであっても狙う場所というのは存在した。

今、俺を襲う鋭い牙のついた不死骨竜のアギトは頭蓋骨の前面にある。

その頭蓋骨だが、動物の頭の骨は脳みそを守るために丸くなっているものの、単一の骨というわけではない。

頭蓋骨というのはいくつかの骨が組み合わさって脳を保護する形になっているのだ。

つまり、今俺を攻撃しようとしている竜の頭の骨は複数の骨がひっついてできているということであり、ひっついていると言ってもそこは構造上弱いはずなのだ。

もっともそれが骨だけで体を維持している不死者にも適用されるのかはわからない。

だが、ゆっくりと動きが見える不死骨竜の頭蓋骨にいくつかの骨と骨との接合部が見えた。

そこをめがけて斬鉄剣の軌道を修正する。

ちょうど、不死骨竜の頭蓋骨の真ん中に縦一文字のようにある骨の接合部。

それを狙って最高の切れ味を誇る斬鉄剣の刃を滑り込ませるように振り切ったのだった。

ドンッという音が森に響く。

斬鉄剣を振り下ろした俺は、次の瞬間には大きく吹き飛ばされて木に叩きつけられていた。

背中から受け身も取らずに太い木の幹に叩きつけられた。

だというのに、俺は自分の背中に痛みを感じなかった。

背中は痛くなかった。

いや、痛くないはずはない。

しかし、俺が痛みを感じていたのは自身の胸部にだった。

目を下へと向ける。

俺が着ていた鬼鎧。

それがドロリと崩れ落ちていた。

着用者にピッタリとフィットする魔法の防具。

鬼の素材から作り上げた一品で防御力を上げるだけではなく、自分の力までもが向上するという特性のある装備。

それが不死骨竜のおぞましい魔力に触れたことで腐り落ちていたのだ。

そして、その鬼鎧が俺の体から落ちたあとに出てきたもの。

それは俺の胸だった。

不幸中の幸いというべきか。

不死骨竜の口に生えていた鋭い牙が俺に突き刺さったわけではなかったようだ。

俺の攻撃によって攻撃の軌道がそれたのか、やつの上顎部分がぶつかった形になったからだ。

だが、だからといってダメージがまったくないわけではない。

いや、むしろ被害は甚大だった。

あばらが何本折れたのだろうか。

口から血がドバっと出て呼吸もままならない。

皮膚も黒い。

まるで不死骨竜のどす黒い魔力が俺の皮膚を通して、体を侵しているかのようだった。

まずい。

たった一度、相打ちのように攻撃を与えあっただけだ。

だと言うのに、俺はもう一度腕を振り上げることすらできない状態になってしまっていた。

……死ぬ。

諦めなどではなく、間違いようのない事実として俺は自分の死を意識してしまった。

どんな格好であっても最後まで逃げ続けたほうがよかったかもしれない。

必死に、泥まみれになろうとも、汗とよだれと涙を垂れ流しながらでも動けなくなる最後まで徹底的に逃げるべきだったのだ。

慢心があったのかもしれない。

なんだかんだで、俺はここまで負けたことがなかった。

自分よりも強い相手に出会ったことはあったが、あの手この手で自分が有利な状況を作り勝ち残ってきた。

そして、魔力も増え着実に強くなっていた。

そうしていつしか勘違いしてしまったのかもしれない。

自分は強いのだ、と。

だが、そんなことはなかった。

俺よりも強いやつはいる。

それは人間の中にもいるが、人間以外でも当然いる。

そんな当たり前のことがわかっていなかったのだ。

……いやだ。

だが、そんなことに気づいたからと言って素直に死を認める気にはならなかった。

死ぬのは嫌だ。

もう二度と死ぬのはごめんだ。

たとえ俺が勝てないほど強い相手であっても、こんなところで死にたくない。

そう思った。

ズサッと音をたてて木の幹から地面へとずり落ちる。

もう腕も上がらない。

だが、顔だけは下げなかった。

顔を上げてまっすぐに不死骨竜を見る。

やはりだ。

こちらも大打撃を受けて瀕死の重傷だが、相手も別に無傷だったわけではなかった。

不死骨竜の頭蓋骨がざっくりと縦に切れている。

そして、その切れ込みから頭の中が見えた。

本来ならば竜の脳があるであろう場所。

そこには真っ黒に輝く不思議な石が見えた。

魔石、かもしれない。

この世には魔力の籠もった不思議な石が存在するらしい。

もしかしたら、あれがそうかもしれない。

そして、あれこそが不死骨竜の体を動かす原動力になっているのではないだろうか。

もう体はまともに動かない。

だが、あれが不死骨竜にとっての急所であれば一矢報いることはできるかもしれない。

そう考えた俺は最後の力を振り絞って斬鉄剣を握りしめながら立ち上がったのだった。