軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

老騎士の決断

「皆のもの、聞け。わしはアーム騎士家の当主として決断を下そうと思う。あのバルカ軍がこちらへと向かってきているそうじゃ。おそらくはキシリア家へと忠誠を誓わなかった我がアーム騎士領を狙ってのことだろう。そこでじゃ、わしはバルカの軍門に降ろうと考えておる」

フォンターナ軍の中でも近年急激に名を上げはじめたバルカ。

そのバルカが再びウルクへと進軍を開始したと聞いたのはようやくアーム騎士領でも雪が溶け始めた時期になってからだった。

その報告を受けたが、山がちな土地柄ゆえすぐに兵をまとめて出陣することは叶わなかった。

幸か不幸か、結果的にそれがアーム騎士家の運命を変えたのではないかと思う。

次々に入ってくる情報には耳を疑うものも多かった。

ウルクを裏切ったというキシリア家がバルカ軍が到着してすぐに戦闘状態へと発展した、が即座に鎮圧。

その後、キシリア家はバルカによってウルクの名を捨てさせられ、戦場にて盾のように使われたようじゃという。

報告だけでは定かではないが、ウルク軍と戦うキシリア軍の後方からバルカは攻撃を行ったというのだ。

だが、それが勝負の行方を決定づけた。

ウルク軍はフォンターナの軍勢に一矢報いることもなく、ミリアス平地の決戦で敗北した。

バルカ。

最近出てきた騎士でありながら、今ではウルク領内でその名を知らぬものなどおらぬだろう。

隣の領地であるフォンターナで農民暴動を起こしてフォンターナ家の守護者と呼ばれた高名な騎士レイモンドを殺害。

その後、新たに当主として存在感を発揮し始めたカルロス・ド・フォンターナによって騎士へと取り立てられた。

だが、その頃はまだ知名度は皆無だったと言えるだろう。

その名が知れ渡ったのは、バルカ家当主として騎士になったアルス・フォン・バルカがウルクへとやってきてからだった。

我が盟友であるミリアムが補佐するキーマ騎兵隊を壊滅させたのだ。

だが、これはあり得るはずのないことじゃった。

ミリアムという騎士はわしも昔からよく知っておる。

なにせ、何度も肩を並べて戦場であやつと一緒に戦ったからじゃ。

しかし、そのミリアムが所属する騎兵隊が負けたという。

しかも相手はバルカ家当主のアルスただ一人であったというのだ。

到底信じられるものではなかった。

あのミリアムがいながらたった一人の相手に負ける?

しかも、1000はいた騎兵すべてを殲滅されるという形でじゃ。

あまりのことにわしは何を信じていいのかわからなかった。

もはや自分の頭がおかしくなったのかと思ったほどじゃ。

だが、バルカの実力は間違いのないものだった。

その後、バルカは快進撃を続けた。

ウルクでは当主としての力を備えたペッシ様を討ち取ったうえに、アーバレストでは当主その人を討ったのだ。

その実力を疑う者はすでに誰もいなかった。

そこで、わしは気づいた。

時代が変わる、その節目にあるのだと。

それは実際に自分の目で見てはっきりした。

我がアーム家に近づいてきたバルカ軍を見てそれをはっきりと分かってしまったのじゃ。

バルカ軍がアーム騎士領に向かっている。

その報告を受けてわしは騎竜へとまたがり、偵察に出たのだ。

そして、バルカ軍を目にした。

それはわしの知っている軍の進み方とは全く違っていた。

列をなし、一定速度でアーム騎士領へと向かっていたのじゃ。

普通、軍というのは統率を取ることが何よりも難しい。

集めた農民たちを遅れずについてこさせて目的地へと向かうというのは、言葉にするよりも難しいのだ。

下手なものに兵を預けて進軍させると、目的地に到着するまでに大きく数を減らすことすら珍しくない。

それはそうじゃろう。

兵として連れて行かれた先では命をかけた戦いが待っているかもしれないのだ。

逃げる者がいてもなんらおかしくない。

だが、バルカ軍は違った。

きちんと整列した兵たちが列を乱すことなく進軍しているのだ。

誰かに見られているわけでもない、田舎の道を進むだけであるというのにである。

それを見て悟ってしまった。

バルカはアルス・フォン・バルカただ一人が強い軍なのではない、と。

あの軍は異質すぎる。

ウルク家が敗れたのは偶然ではなく、必然であったのだと理解した。

そう考えたわしは館に帰り、すぐに自分たちの配下へと告げたのじゃ。

アーム家はバルカの下につく、と。

反対する者も当然いた。

だが、事態は急を要する。

これが残りの命の短いであろうわしの最後の仕事だと思ってなんとか説得した。

そして、なんとかバルカ軍がアーム騎士領に入ったタイミングで我が家は方針を固め、白旗を揚げて降参したのだ。

そのバルカ軍からは驚いたことにあのミリアムの孫であるペインがおり、使者としてアーム家と交渉にやってきた。

わしはすぐさま丁重にもてなしてペインと語り合った。

やはり、ペインもわしと同じように感じたのだという。

もっともペインは昨年あったペッシ様の軍とバルカ軍が衝突したあの激戦で気がついたのだから、わしよりは早かったようだが。

そのペインによって引き合わされた少年。

今年で12になるという少年だ。

わしが挨拶をすると、「よろしく、ジタンさん」と話しかけてくる。

わしはてっきり、もっと偉丈夫が相手だとばかり思っておったのじゃが違った。

アルス様の隣におった兄であるバイト様やそのバイト様とは反対側にいる青年タナトス殿のほうがよほど体も大きく押し出しが利く。

だが、やはり真に恐ろしかったのは当主であるアルス様じゃった。

魔力だ。

長い間わしも幾度も戦場で騎士たちを相手に戦ってきた。

だが、その誰よりも魔力が濃かった。

魔力量だけならば貴族のトップである当主様のほうが多いじゃろう。

じゃが、その濃密な魔力は今まで一度も見たことがなかった。

魔力が濃すぎて黒い闇のように見える。

バルカの通り名の中に「白い悪魔」などと言うものがあったが逆じゃろう。

あれはどう見ても漆黒の悪魔にしかみえん。

このひとは今、何を考えているのだろうか。

わしと話し狐谷についての説明を聞きながらでも時折目線が離れる。

あたりを見渡しているのだ。

わしの供回りの騎士や遠くで待機しているアーム家の兵たち。

そこにわずかでもおかしな動きがあれば、おそらくは即座に対応するじゃろう。

この場にいる者を皆殺しにし、アーム家へと襲いかかる。

恐ろしかった。

何がこの人の機嫌を損ねるのかわからない。

質問された狐谷について知りうる限りを教えた。

が、それ以上に絶対に行ってはならぬと伝えた。

狐谷はかつてウルク家が総力を上げて調べ上げ、そして諦めるしかなかった土地だ。

危険すぎる。

が、それ以上に不用意に近づいてバルカの兵が死んだ場合、そのことがアルス様のお怒りにつながるかもしれない。

だが、行ってしまわれた。

狐谷に入れば兵だけではなくアルス様本人も無事では済まない。

そう思っていたのに、帰ってきたのだ。

幻の金属と呼ばれる炎鉱石を手にして。

底が見えない。

心底、そう思った。

だからこそ、バルカではなくバルト家へと忠誠を誓えと言われた時にも承諾した。

絶対に逆らってはいけないと心から思ったからじゃ。

そして、それは間違いではなかった。

アルス様は周囲の騎士領へと手紙を出したのだ。

アーム騎士領を起点として周囲でキシリア家へと忠誠を誓わなかった家に対して、バルカへとつくようにという内容を。

そして、待った。

手紙を受け取って即座に動けば挨拶に来られるだけの時間をだ。

逆に言えば、即時返答がなければ手紙を無視したとみなしたのだ。

あっという間だった。

即座に頭を下げに来た騎士家は許された。

それはおそらくわしと同じようにバルカ軍の進軍の光景を見ていたのじゃろう。

あれに無意味に逆らってはいけないと見ただけでわからされたのだ。

だが、そうではないところもあった。

もしかしたら、ゆっくりと検討する気だったのかもしれない。

だが、そんな猶予は一切なかった。

バルカが騎士領を攻め始めたのだった。

それも恐るべきスピードで周囲を平定していった。

最終的にバルカの軍門に下るか、あるいは攻め取られた領地は旧ウルク領の三分の一ほどになったのではないだろうか。

我がアーム騎士領のあるウルク領南東部を始めとしてそこから北上する形で領地を切り取ったのだ。

もともとあったウルク領の東部分が取り尽くされたと言ってよいだろう。

だが、この快進撃にはアルス様自身は参加していなかった。

バイト様だ。

アルス様の兄であるバイト様、我が主でもあるバイト様がバルト家の力で領地を得たのだ。

その間、アルス様がしていたのは炎鉱石を取りながらの街づくりじゃった。

四方を高い壁に囲まれた新たな街。

それをアルス様は作り上げてしまわれたのだ。

バルカが持つ魔法によって。

旧ウルク領南東部の中で比較的交通の便がよく、狐谷にもいける場所という理由で旧ラムル騎士領に街を作ってしまわれた。

一辺1kmという長さで壁に囲まれた都市、バルトリア。

白のレンガで作られた同一規格の建物が規則的に並ぶその街の中心に見たこともない建物が作られた。

ステンドグラスというらしい、色鮮やかなガラスのついた壁。

光が当たると幻想的な光景が現れる、今までにない建物。

聖堂と呼ばれる建物がたてられたのだ。

その聖堂でバイト様が我らに名付けをしてくださった。

ウルクの名を捨て、バルト家へと忠誠を誓う我らに新たな名が授けられたのだ。

こうして、旧ウルク領の東にはバルト騎士領が誕生し、アルス様は名実ともに当主級になられたのだった。