軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリアス平地の戦い

ほぼ同数のフォンターナ軍とウルク軍の両軍が向き合って陣取っている。

その場所はキシリアの街からウルクの領都へと向かう途中にあるミリアス平地と呼ばれる場所だ。

こちらの軍の配置はすでにすんでいる。

中央軍と右翼軍、左翼軍として陣取っており、バルカ軍は中央軍の後方に位置している。

中央軍の前方にはキシリア軍がおり、右翼にアインラッド軍、左翼にビルマ軍ということになった。

キシリア軍がどのような動きをするかは少し微妙なところだが、少なくともワグナーのやる気は十分だった。

この戦いで活躍してくれることを祈ろう。

今回のウルクとの戦いは奇襲などを行わずに戦うことになった。

バルカ軍は今までほとんど奇襲ばかりで勝利を得ていただけに、俺は今回もそうしたほうがいいかとも思った。

だが、ピーチャなどを始めとした他の騎士たちとの協議で奇襲は却下された。

というのは、俺達の戦略目標が関係している。

今回の戦略でいちばん重要なのは、いち早くウルクを平定することにある。

カルロスが王を保護したことで、他の大貴族から睨まれる前にウルクからの横槍が入らないようにすることが目的なのだ。

そのために必要なのは、ウルク領全体がフォンターナへと負けを認める必要があるということ。

すなわち、奇襲などではなく正々堂々と正面からぶつかった戦いでフォンターナ陣営がウルク家に勝ち、ウルク領を手に入れることが重要なのだ。

と、言うわけで両軍が時間を示し合わせたかのようにミリアス平地へと集まり、こうして正面から向き合っているのだ。

ウルク家も奇襲されたり、領内を荒らされるよりこの平地で勝利を得て追い払いたいということなのだろう。

そして、いつものように戦の前に前口上が行われた。

今回は中央軍に俺がいるものの、軍の前にでてしゃべっているのは別の騎士だ。

北の街ビルマの守護を任されている騎士が張り切って大声を上げている。

話しぶりは参考になるが、少し言葉の使い方が難しいのか、あるいは声に魔力が通っていないのかもうひとつ士気が上がりきっていないがいいのだろうか?

だが、どうやら前口上は無難に終わったようで、軍の前に出ていた騎士が引き返し、ついにミリアス平地での戦いが始まったのだった。

※ ※ ※

「「「「「オオオオオオオォォォォォォォォォォ」」」」」

騎士が引き返してしばらくして両軍が動き始めた。

こちらの動きは単純明快だった。

中央軍と右翼軍、左翼軍が一斉に攻めかかったのだ。

非常にシンプルすぎる作戦。

もしかすると、相手に超高性能軍師でもいれば術中にハマって負けるかもしれない。

だから、そうならないように俺はひとつの作戦をたて、実行に移した。

『やれ、タナトス』

『わかった、アルス』

俺がそう言うとタナトスが動く。

次の瞬間、バルカ軍の中に突然巨大な人型が現れた。

アトモスの戦士タナトスが魔法を発動させたのだ。

常人の3倍はあるかという大きな体。

魔法剣による攻撃すら防いでしまうほどの魔力に裏打ちされた防御力を持つ肉体。

そして、丸太を振り回すだけでも大きな被害を生み出す圧倒的な膂力。

かつてバルカ軍を苦しめた巨人が戦場で姿を現したのだった。

だが、俺はその巨人の力をそのまま使うつもりはなかった。

タナトスを突っ込ませればそれだけでウルク軍に被害を出すことができるだろう。

しかし、相手にもウルク家当主がいる。

【黒焔】という対象を燃やし尽くす地獄の炎を生み出すことのできる魔法を持つウルクの当主が相手ではタナトスといえども危険かもしれない。

だからこそ、俺はタナトスに別の攻撃をさせることにしたのだった。

巨大化したタナトスが地面に置いている硬化レンガ製の槍を拾い上げる。

そして、その槍をとある道具にセットした。

その道具とは投槍器と呼ばれるものだ。

槍を持つ柄の端っこに引っ掛けるようにして、投槍器を握る。

そうして、槍そのものではなく投槍器のほうを持ち、腕を後ろから前へと移動させた。

巨大化したタナトス用に俺が作った硬化レンガ製の大きな槍が空を飛翔する。

投槍器という道具を使ったことと、タナトスの持つ尋常ではないパワーにより槍がものすごい速度で飛んでいく。

その槍は俺達バルカ軍の前にいるキシリア軍の上を飛び越え、そのままウルク軍へと向かっていった。

巨大槍が高速で飛行し、放物線を描きながら地面へと落下する。

ものすごい衝撃音とともに人も土も巻き上げるようにして弾け飛ばす。

やったら強いだろうとは思っていたがここまでの攻撃力を持つとは思わなかった。

以前から投石機を使ってレンガを散弾のようにばらまいたりする攻撃を行っていたが、それとは比べ物にならない一撃の破壊力がある。

そう、これこそが俺が今回用意した秘策だった。

タナトスという稀有な力をもつものの存在により実現可能になった攻撃方法。

それと同時に、去年痛い目を見たウルクの上位魔法【黒焔】に対する対応策でもある。

【黒焔】は危険すぎる。

その攻撃をもらってしまうと、おそらく生きながらえることはできないだろう。

だが、だったらその攻撃をもらわなければいい、と俺は考えたのだ。

【黒焔】は本来当主が目の前の相手を焼き尽くすための魔法だ。

それをペッシは攻城戦に用いた。

だが、今回その戦法はウルク家が使うことはできない。

ウルク家も投石機を作ることはできるだろうが、普通は投石機というのは戦場近くの木を切って組み立てるのだ。

木でできた投石機に大岩をセットして、その岩に【黒焔】をつけると、燃えている熱で投石機そのものも炎上する。

ペッシが【黒焔】という上位魔法を投石機の攻撃と組み合わせて使うことができたのは、あくまでも俺が作って放置したままだった耐火性の高い硬化レンガでできた投石機が存在したからである。

しかし、硬化レンガ製の投石機はペッシを倒したあとにきちんと回収して処分した。

今回の戦場でも俺が確認した限り、それらしいものはない。

つまり、ウルク側に【黒焔】を使った遠距離攻撃手段はおそらくないはずだ。

となれば、こちらは【黒焔】の射程距離範囲外から攻撃すれば安全に戦いを進められるということになる。

『ちょっとずれたな。タナトス、もう一度だ。今度は少し右に飛ばす方向を修正してみてくれ』

『よし、任せろ、アルス』

タナトスが行った遠距離からの重量物質の攻撃。

その攻撃の効果を確認した俺がもう一度タナトスへと声をかけた。

今の俺は、魔法で作った塔の上にいて、双眼鏡を覗き込んでいる。

タナトスが投げた槍が落ちた場所を双眼鏡で確認していたのだ。

そして、その場所が狙いをずれたことを見て、投げる方向の修正をタナトスへと命じる。

そう、別にタナトスが投げることのできる槍は一つだけではない。

事前に作り上げていた硬化レンガ製の巨大槍は複数ある。

そのうちの一本をタナトスが拾い上げ、再び投槍器を使って宙へと飛ばす。

そして、その槍が再びウルク軍を襲った。

『おしい。今度はもうちょっと奥だな。気持ち高めに飛ばせるか?』

『大丈夫だ。ちょっと高めだな』

塔の上でしている俺の仕事は軍の指揮を執ることではなくタナトスという狙撃手のパートナーに当たる観測手だった。

そして、観測手たる俺はターゲットをしっかりとロックオンしている。

こちらと同様に中央軍と、右翼軍、左翼軍に分けているウルク軍だが、その中でもひときわ異彩を放つ存在がいる。

眼に魔力を集中させて観測することによって、ウルク軍の中でも最も魔力量が多いものが実際に見えているのだ。

体から溢れ出た魔力がまるで炎のように燃え上がるほどの人物。

ウルク軍の中にいるそんな人物など該当者は一人しかいない。

すなわち、ウルク家当主その人である。

『ヒット。いいぞ、タナトス。狙い通りだ。当主にぶち当たったぞ』

三度目になるタナトスの投槍攻撃。

それが間違いなくウルク家当主へと命中した。

巨大な槍が高速で宙を飛び、重力の力も加わって落ちてきたところで命中したのだ。

これは魔法剣による攻撃を防ぐこともできる当主級といえども、防ぎようがないのではないだろうか。

その考えは間違いではなかったようだ。

塔の上から双眼鏡で観測していた視界内で当主が巨大な槍を防ごうと九尾剣を構えたまでは良かったが、当然槍の勢いを止めることなどできずに押しつぶされる。

そして、その直後からそれまであったひときわ多い魔力の立ち上る光景が消えたのだった。

「ウルク家当主討ち取ったぞ。バイト兄、騎兵で攻撃を仕掛けろ。一気に攻め潰せ」

こうして、ミリアス平地での戦いは開始直後にウルク家当主の死亡によって、戦況は大きくフォンターナ側へと傾いたのだった。