軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

罠に潜む魔物

「殺せ、絶対に逃がすな!」

「やつを倒したものには莫大な褒美を与えるぞ!」

「バルカの連中は皆殺しにしろ!」

ヴァルキリーに乗って駆ける俺とバルカ騎兵団。

その後ろから猛追をかけるウルク軍。

そのウルク軍からは俺の首を獲ろうと様々な恐ろしい言葉が飛び交っていた。

おっかねえ。

戦場で正々堂々と戦った結果、俺が勝っただけなのにウルクの連中はここまで根に持つのかと思ってしまう。

まあ、俺も身内に手を出されたら許さないんだろうけど。

そんなことを考えながらもひたすらヴァルキリーにまたがる下半身からは力を抜くことなく、しっかりと騎乗姿勢を保ち続ける。

そして、安定させた体勢を維持しつつ、時折後方へと目を向ける。

「バイト兄、ウルクの連中がそろそろ疲れ始めている。例のポイントまで誘い込むために一度足を緩めて相手を叩くぞ」

「よし、了解だ、アルス。全員、後方の追手を迎え撃つぞ」

「「「「「おう」」」」」

縦に伸びるウルクの追撃軍。

だが、そのなかで騎竜などの騎乗型の使役獣に騎乗しているのは一部の騎士だけだ。

ほかは、自分の足で走って追いかけてきている。

が、そのまま全力で逃げ続ければ歩兵はみんな置いてきぼりになるかもしれない。

ここまで危険を冒してわざわざ自分の身を餌にしたのだ。

できれば戦果は多いに越したことはない。

そこで、俺は一度ヴァルキリーの足を緩めて追撃軍に一撃を加えることにした。

先頭を走る俺とバイト兄が大きく旋回するようにして進路を変える。

それまで逃げていた方向とは逆方向へと向くように追撃軍にこちらから向き合うように進む方向を変えた。

これにはさすがに相手も驚いたようだ。

正面衝突するかのようにお互いの軍がぶつかり合う。

「アルス!」

「いいぜ、バイト兄」

だが、その正面衝突はこちらに分があった。

それは俺とバイト兄が持つ雷鳴剣という武器による攻撃が両者の衝突力に明暗を分けたからだ。

雷鳴剣の射程範囲を見極めて、俺とバイト兄が同時に電撃を魔法剣から放つ。

それにより、ウルクの追撃軍の先頭を走っていた騎士たちの足が止まったのだ。

電撃による感電。

一撃でも貰えば命に関わりかねない威力の攻撃は問答無用に相手の動きを止めることに成功する。

感電し動きを止めた相手に向かって騎乗したヴァルキリーごと突っ込む。

当然、俺とバイト兄はそのまま雷鳴剣から電撃を放ちまくり相手の動きを牽制する。

それと同時にバルカの騎兵たちは【散弾】をばらまいていった。

【氷槍】よりも一撃の威力は低いものの、ダメージは決して馬鹿にできないうえに命中力がある俺のオリジナルの攻撃魔法。

その【散弾】をばらまきつつ、追撃軍の一部を貫くように突進し、すぐに離脱する。

「よし、撤退だ」

攻撃は成功した。

が、それはウルク軍の一部に損害を与えただけだ。

そのまま戦ってもこちらの体力と魔力が先に尽きるだろう。

なので、一撃加えた後は敵軍から脱出し、再度進路を変えて逃走する。

この逃げながらの攻撃を何度か繰り返しながらも、走る速度を調整し、俺はウルク軍を目的の場所まで誘導していったのだった。

※ ※ ※

「ようやくついたな。バイト兄、わかっていると思うけどヴァルキリーを走らせる場所を間違えるなよ?」

「大丈夫だ。前を走るヴァルキリーの後を辿るように走れば間違えることはないからな。それに言われなくてもみんな死にたくないから必死だよ」

ウルク軍との追いかけっこがようやく終わろうとしていた。

事前に用意した目的の場所へと到着したのだ。

今まで逃走していたのはアインラッドからフォンターナ領の内部へと進む方向だった。

アインラッド砦に行く途中で作り上げた罠。

そこにウルク軍はホイホイと誘われたのだった。

といっても、相手も普通ならそんなに簡単にはついてきていなかっただろう。

が、やはり俺という餌が効いたのだと思う。

それに、こちらも全く損害がないわけではない。

何度も突撃を繰り返したことで傷つき、血を流している。

それをみて、チャンスがあると判断したのだろう。

が、それもここで終わる。

俺たちバルカ騎兵団が罠地点に突入した。

この罠は一歩間違えればこちらにも被害が出かねない。

そのため、被害が出ない場所を予め用意しておき、そこを走り抜けた。

今回俺が用意した罠は前回、アトモスの戦士という巨人に使った池ポチャの水攻めに近いものだった。

二度目ではあるが、あのときは一度目の隘路の罠でウルクの人間は被害にあい池の罠を直接見ていなかったというのもある。

ようするにウルク側としては初見とも言える罠だ。

が、前と全く同じではない。

なぜならここにはあのときと同じような池はないからだ。

池の代わりに俺が穴を掘った。

といっても、それほど深くはない。

広いかわりに、せいぜい太ももが濡れるくらいのものだろう。

そこに水を貯めただけのものすごく浅いプール。

それがこの罠だった。

だが、この罠は追撃を仕掛けていたウルク軍を始末することが可能な非常に危険な罠だった。

浅いプールの真ん中に、水に濡れずに走り抜けられる一本の道がある。

そこを走るヴァルキリー。

が、当然そんな道があるとは知らないウルク軍は真ん中の細い道ではなく、足が濡れることもいとわず水へと踏み込んだ。

なんの変哲もない水があるだけにしか見えないそれが、人を食らう化物であるとも知らずに。

※ ※ ※

「な、何だ? 俺の足が!?」

「い、痛え。痛えよ」

「た、助けてくれー。誰か、助けて!」

ヴァルキリーに騎乗する俺の耳にウルク軍から兵の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

足が濡れる程度の水の中に踏み込み、それでも変わらずに追撃してきていた兵に悲劇が訪れたのだ。

兵だけではなく、騎士が騎乗している使役獣までが叫ぶように鳴き声を放っている。

その状況はまさに阿鼻叫喚と言えるものだった。

だが、それは事情を知らないものから見ると何が起こったのか全くわからない。

なぜなら叫んでいる彼らが何故痛がっているのか、すぐには理解できなかったからだ。

そうすると、人はどういう行動を取るか。

よほど偏屈でなければ、仲間を助けようと浅い水の中に入っていき手を差し伸べる。

しかし、それが二次被害を生み続けていた。

「ほんとにやばいな、あいつは」

「そうだな、バイト兄。さすが、パラメアを全滅に追いやっただけはあるな。あんなもんが水の中にいるとか危険すぎるわ」

罠にかかったウルク軍をヴァルキリーの上から首を回して見る俺とバイト兄がそう言い合う。

今回用意した罠にはちょっと工夫を凝らしてみたが、それが想像通りの効果を発揮してくれていた。

自分でやっておいてなんだが、それを見てあまりの光景に引いてしまった。

浅い水の入ったプールの罠。

何の変哲もない水が入っただけの、一見して危険なところはなにもない、ただの大きな水たまり。

だが、そこには非常に危険な魔物が潜んでいたのだ。

アーバレスト領における難攻不落の水上要塞パラメア。

パラメア湖の中央に位置する砦を守る要因になっていた、しかし、パラメア陥落の最後のひと押しになったパラメア湖の魔物。

俺はそれを捕獲して持ち帰っていたのだ。

その魔物の正体はいわゆるスライムと呼ぶようなモンスターだった。

水の中に潜めばどこにいるのかがわからないような、水性の魔物。

ただ、水から取り出せばジェルのような体を持つその魔物は、自分が潜んでいる水に獲物が入ると近づいていき酸で溶かして捕獲してしまうのだ。

その危険な特性をもつスライムを俺は運良く捕獲し、魔法で造ったガラスの容器で保管して運んできていたのだ。

それをこの巨大プールの罠に用いた。

そう、つまり、この浅い水位しかないプールは人食いスライムの狩場となっていたのだ。

それを知らないウルク軍はズカズカと水の中に入り込み、足を溶かされ転倒し、全身が水に浸かりさらに体を溶かされていく。

それを助けようと入り込むとさらに被害が増えていく。

しかも、後ろからは更に続々と事情を知らないウルクの兵がきているのだ。

こうして、ウルクの追撃軍は多数の騎士を含む先頭部隊がスライムに溶かされ、それを見た後続が助けようと右往左往し、敵地であるフォンターナ領の中で完全に足を止めることになったのだった。