軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

働くために

「やっぱ、女の人ってやる気に満ち溢れているもんだね」

「エイラ嬢ちゃんがリード家の魔法を授かってから、何人もの女性が我も我もとあとに続いたからのう。お主はこうなることを読んでいたのではないのか?」

「そりゃ、ちょっとはいるかもしれないと思っていたけどね、マドックさん。でも、男が遊びにうつつを抜かしている間に女の人が自立しかねない勢いだよ」

「フォッフォッフォ。さすがにおなごが自立して生活するのは難しいだろうな。だが、家庭内での立場は強くなるかもしれんのう。これから結婚する男どもは大変だろうて」

「ま、いいんじゃない。女の人が働ける環境ってのは悪くないと思うし。それよりも、マドックさんがバルカ姓を返上するとは思わなかったよ。俺はそっちのほうが驚いたね」

「すまんのう。お主にバルカの名を授けてもらったことは感謝しておる。が、どうもわしは年を取りすぎたようじゃ。再び戦場に行くのはしんどいんじゃよ」

「わかっているよ、マドックさん。俺の方こそマドックさんには感謝しているんだよ。でも、戦場には出なくてもここでの仕事は続けてくれるんでしょ?」

「うむ。お主に任された裁判官なら戦場に出るよりはいくらかマシじゃからな。だが、それでも書類仕事が多すぎてのう。木こりとして生活しておったわしには文字を読むのもしんどかったのじゃ」

「なるほど。カイルの【速読】なら文字を読んでも疲れないってことか。ま、気にしないでよ、マドックさん。別に俺はバルカ家であろうがリード家であろうが、マドックさんのことは本当に感謝しているんだから。これからもバルカ騎士領のために働いてくれるって言うなら不満なんかないさ」

「ありがたいのう。お主のためにもこの老骨に鞭打って頑張らんとならんな」

「無理しないでよ。いい年なんだから」

「フォッフォッフォ。まだまだ若いもんには負けんわい」

新しくできた賭博場の運営のためにエイラ姉さんに行ったカイルからの名付け。

それによって、バルカニアには女性魔法使いと呼ぶべき存在が誕生した。

それはなかなかにショッキングな事件であったらしい。

今までは農村の冴えない男たちと結婚して重労働の開拓を行いながら畑仕事をこなして、日々なんとか暮らしていく貧乏生活を送らざるを得なかった女性たち。

戦場に出て武器を振るうこともできずにそんな境遇に甘んじるしかなかった立場だったのが、ある日突然変わったのだ。

勉強を頑張れば攻撃魔法ではないが魔法を授かることができ、しかも働く場所まであるという状況に。

そんな話を実例付きで見せつけられてじっとしていない女性が何人もいた。

もちろん、全員ではない。

それまでの親や祖父母から続く伝統的な価値観で、女は家庭を支えるべしという考えの人もいた。

が、そうではなく、自分の力で少しでも生活をよくしようとあがく女性が出てきたのだ。

彼女たちはエイラ姉さんの話を聞いて即座に学校へと通い、文字と計算を覚えるべく勉強を開始した。

そして、その努力が実って及第点レベルの学力がついたとき、本当にカイルから魔法を授かることができたのだ。

バルカニアの学校で勉強して努力が認められたものには魔法を授けるようにしていたのに目をつけたらしい。

しかもその後は賭博場、あらためバルカニア娯楽エリアへと就職が決まっていく。

自らの努力だけで、男の力を借りることなく生活することに成功する者が出てき始めたのだった。

これをみて、次は自分だと頑張るものも増えた。

対して、自分ではなく我が子をけしかける者も現れたようだ。

そこそこ年をとった自分では物覚えが悪いが、まだ若い我が子であれば勉強すれば魔法を授かることができる。

しかも、戦場で命をかけずとも魔法を手に入れる可能性があるのだ。

父親が引くほどの情熱を持って、我が子を学校へと送り出す母親が現れたのだった。

そんな風に周りの状況が変わりつつあるときに、マドックさんが俺に声をかけてきたのだ。

内容は俺が授けたバルカ姓を返上し、リード家から魔法を授かるというものだった。

マドックさんはもともとバルカ村の木こりで、その中の年長者でもあり、俺とは何年も前から魔力茸を育てる原木の取引をしていた人である。

俺が森を開拓したときには木こりたちが不満を持ちつつあるということをそれとなく伝えて、未然に軋轢が発生するのを防いでくれたりもした。

そのことがあったため、俺はバルカ騎士領をカルロスから任された際に、マドックさんに裁判官になるようにお願いしたのだ。

マドックさんのような年長者であれば、なにか揉め事が起こったときでも対処しやすいと考えたからだ。

この考えは間違いではなかった。

マドックさんは裁判官として問題が起こった際に他の裁判官である村長たちと協力して解決していってくれたのだ。

だが、この仕事もだんだんと大変になってきていたらしい。

それは書類の量が増えてきていたことにある。

それまで、問題が起こると村長や年配者が双方の意見を聞いてお互いが納得するように調停するようなことが多かったらしい。

だが、俺はそれらの件を文字に書き起こして法となるようにすることを裁判官へと命じていた。

さらに、その仕事に追加して商人たちのトラブルとそれを元に格付けするという作業までもが発生してしまった。

毎日、それなりの量の書類が必要になってしまったのだ。

他の村長たちに文字を教わり、【記憶保存】で無理やり覚えて単語だけでもなんとか書類を作成していたマドックさん。

だが、それが限界にきていた。

その時現れたのが、カイルの【速読】や【自動演算】という魔法だったのだ。

大分悩んだようだが、マドックさんはバルカ姓を捨て、リード姓になることを決意した。

だが、話を聞けば聞くほど俺のために働くべく決定したのだと分かる。

決して俺のことが嫌いになったり、仕事が嫌になったわけではなかったのだ。

であるなら、俺が反対することもない。

俺はすぐに金を用意してカイルとともにマドックさんを教会へ連れて行き名付けの儀式を行ったのだ。

こうして、それまでの関係に少しずつ変化が訪れながら、バルカニアには再びキラキラと光るような真っ白な雪が降る季節がやってきたのだった。