軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄嫁

「不安もあったけどなんとかうまくいってるみたいだね、エイラ姉さん」

「もちろんよ、アルスくん。今のところ、トラブルも起こっていないし、大丈夫だと思うわ」

「わかった。でも、何かあったらすぐに俺かバイト兄を呼んでよね。父さんでもいいしさ。姉さんに何かあったら大変だしね」

「ありがとう。けど、大丈夫よ。うちの人もいるんだし、なんとかなるわよ」

新しくバルカニアにできた賭博場。

ヴァルキリーを用いたレース場といくつかの賭け事を行う複合施設と、その周辺の宿泊施設の管理。

俺はそれを誰に任せようかと考えていた。

一番簡単なのはおっさんの知り合いの商人などにその手の仕事に慣れていそうな人もいるだろうし、そいつに任せようかとも思った。

だが、それはやめておいた。

なぜなら、ここはバルカ騎士領の財源と治安維持にも関わる施設なのだ。

もし、変なやつに任せて何かあったら困るという思いがあった。

だが、それでは誰に任せることにするかというとこれが困った。

もともと、俺の知り合いは文字の読み書きも数字の計算もできない村人がほとんどなのだ。

ある程度信頼できる知り合いの中から選ぶにしても非常に人選が難しかったのだ。

そこへ白羽の矢がたったのが長兄であるヘクター兄さんと結婚したエイラ姉さんだった。

エイラ姉さんはもともとバルカ村の村長の娘である。

俺がまだバルカ騎士となる前にヘクター兄さんと結婚していた。

結婚した理由はバルカ村の村長である親父さんの影響が大きい。

まだ小さかった俺が開拓した森の土地を狙って、いずれ合法的に手に入れるために村長の娘であるエイラ姉さんとヘクター兄さんを結婚させたのだった。

が、俺がその後すぐにフォンターナ家と一戦交えたおかげでその狙いは頓挫していたのだが。

しかし、村長の思惑があったとはいえ、別にヘクター兄さんとエイラ姉さんの仲が悪かったわけではない。

むしろ、非常に良好で円満な家庭を築いて生活していた。

が、エイラ姉さんはヘクター兄さんに少し思うところもあったようだ。

というのも、ヘクター兄さんは俺やバイト兄のように戦場に行くのはあまり乗り気ではなく、のんびりと農地を耕して生活したいという性分の人だった。

対してエイラ姉さんは少し違う。

もともと、バルカ村の村長にはエイラ姉さんしか子供がおらず、いずれは結婚した相手と協力して村を発展させるようにと小さいときからそれなりに教育を受けていたそうなのだ。

そのため、エイラ姉さんは文字の読み書きや数字の計算はできる。

が、彼女は別にやりたいこともあったという。

それは街に出て結婚して裕福に暮らすという少々少女じみた夢を持っていたのだ。

もちろん、農村の村長のもとへ嫁いでくる相手と結婚することが決まっているのでそんな夢は叶いっこない。

本人もあくまでもそうなったらいいな、くらいの考えだった。

だというのに、その状況が変わってきた。

結婚相手の弟が騎士となり、領地を任されて、貴族と血縁関係まである本物のお嬢様と結婚したのだ。

しかも、同じ土地に住むようになった。

エイラ姉さんは自分の夢が一気に現実味を帯びたことを感じただろう。

俺がバルカ城を建てたあとは足繁く城へと通い、リリーナやクラリスと交流を持とうとしたのだ。

エイラ姉さんが賢かったのは、別に金持ち生活をしたかったわけではなかったというところにある。

言ってみれば、エイラ姉さんは自分をもっと高めたいと思っていたのだ。

そのため、クラリスに頼み込んで城で行儀見習のようなことを始めたらしい。

やんごとないお相手に粗相をしないような行儀をクラリスから叩き込まれたという。

アインラッド砦から帰ってきた俺が久しぶりにエイラ姉さんと再会したときには驚いたものだ。

それまでは農村の女という感じだったのに、雑な動きが減り、気遣いのできる気品ある振る舞いがそれなりにできるようになっていたのだ。

1年にも満たない期間でここまで変わったというのは相当な努力があったのだろう。

そんなエイラ姉さんがなぜ賭博場の支配人に抜擢されたのか。

それはこの賭博場がよそからも人を呼ぶために作られたクリーンなものをイメージして作られたからだ。

最初はちょっと高級路線の宿泊施設をエイラ姉さんに任せようかと思ったのだが、どうせならということで北西区全体のマネージャーのようなものに抜擢したのだ。

城でリリーナの側仕えをしているクラリスにかわって、北西区全体の接客レベルを上げてくれることを願っている。

「でも、良かったのかしら、アルスくん。女である私が魔法を授けてもらって」

「いいんじゃないの? エイラ姉さんは読み書き計算ができるからカイルの魔法が使えれば仕事がはかどるでしょ。あって不便はないと思うけど」

「ええ、それはもちろんよ。カイルくんの魔法はすごく助かっているわ。でも、そうじゃないでしょう。普通女性には魔法を授けるものではないと思うのだけど」

「そうらしいね。けど、うちは基本的に人材不足だから。あんまり、男だ女だってこだわってる意味がないと思うんだ」

「そう……。アルスくんがそういうのであれば、私がどうこう言うのもおかしいわよね。安心して、アルスくん。私、頑張ってこのエリアを盛り上げていくからね」

「うん、期待してるよ、エイラ姉さん。でも、ほんとに何かあればすぐ言ってね」

エイラ姉さんは女である自分が魔法を授かったことを気にしていた。

まあ、それはそうだろう。

このあたりの慣習では基本的に男が戦場で働いて活躍した結果に得られるのが魔法なのだ。

原則的に女性が魔法を授かるようなことはない。

それなのに攻撃魔法ではないとはいえ、自分が魔法を授かるようなことがあってもいいのかと気になるのだろう。

だが、一般的ではないだけで別に女性が魔法を授かることが禁止されているわけでもない。

むしろ、俺としては女性であっても能力とやる気があるのであればその力を使って領地のために働いてほしいと思っている。

それに、教会でもエイラ姉さんがカイルに名付けを受ける際に儀式を断られたわけでもないのだ。

であれば、教会が公認していると解釈してもいいということになるのではないだろうか。

こうして、バルカ騎士領ではじめての女性魔法使いが誕生したのだった。