軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天才

「ただいま、リリーナ。やっと帰ってこられたよ」

「おかえりなさい、アルス様。戦場での活躍はこちらでも噂になっていますよ」

「そうなのか。ま、とりあえず無事に帰ってこられたってだけで儲けものだよ。これからはゆっくりしたいね」

「ふふ、そうですね。けれど、アルス様。今すごくお仕事が溜まっているようです。バルカ騎士領ができてすぐに主だった者たちが出兵していったので、残った者たちは大変だったのですよ」

「ああ、そうか。そう言えば、帰ってきたときに見たけどバルカニアに向かって来る商人の数も多かったし、バルカニアにいる人も増えてたな。というか、よく持ちこたえてたな。俺とかおっさんがいなかったのに」

「本当に日増しに移住者が集まってきていましたから大変だと思いますよ。それに自由市のチェックや商人の格付けなどもありますし」

「グラハム家の縁者に感謝しないといけないな。後で礼を言っておくよ」

「はい、みんな喜ぶと思います。けれど、一番たいへんだったのはカイルくんですよ。あの子のこともしっかり褒めておいてくださいね、アルス様」

「カイルか。あいつは残って事務仕事だもんな。わかった。カイルにもちゃんと礼を言っておくよ」

カルロスの招集によって兵を引き連れて戦場へと行っていた俺たち。

当然だが、領地を完全に空にするわけにはいかない。

が、まともに戦えないものばかりを連れて行って俺にもしものことがあっても困る。

というわけで、主なメンバーは総動員で戦場へと出払ってしまっていた。

そうすると領地の運営は残ったメンバーだけでやることになる。

一応主なところはグラハム家関係の人間の手を借りているがそれでも仕事数に対しての人数が圧倒的に足りなかった。

特に俺と直接血の繋がりのある人間は母さんと長男であるヘクター兄さん、そしてカイルだけであるが、まともに文字を書け計算もできるのは最年少のカイルだけなのだ。

ようするに領地の経営の代理人としてはまだ年齢1桁のカイルの両肩にその責任がのしかかっていたことになる。

本当に大丈夫だろうか。

カイルがブラックな職場である領地経営で死にかけているかもしれない。

俺はリリーナへ帰還の挨拶をしたあと、すぐに執務室へと向かっていったのだった。

※ ※ ※

「カイル様、こちらの書類のチェックをお願いします」

「自動演算。……ああ、こことここ、あとこっちも計算が間違っているね。特にそこが間違っていると全体の計算が大きく狂うからやり直しておいて」

「わかりました」

「カイル様、こちらもご確認を」

「うん、わかった。速読。……この商人は以前別件で問題を起こしていたはずだったよね。この格付にはふさわしくないから駄目だよ。ほかは問題ないからそこだけ直しをよろしく」

「はい、ありがとうございます」

「カイル様、こちらもよろしくお願いします」

「うん、……あれ、アルス兄さん。リリーナ様のところに行ったんじゃなかったの?」

「ああ、ただいま、カイル。リリーナと話してたんだけど、領地の仕事が大変だって聞いたからな。様子を見に来たんだけど」

「そうなんだ。じゃあ、ちょっと待ってくれるかな。あ、そうだ。当主のサインが必要な書類があるから、アルス兄さん、そっちをお願いしてもいいかな」

「お、おう。わかった。どの書類だ?」

「ここだよ。これ全部今日中によろしく」

「……この山盛りになった書類がか? これを今日中にやらないといけないのか?」

「仕方ないよ。しばらくいなかったんだから。よろしくね、アルス兄さん」

執務室へと入った俺は忙しく働くカイルや他の者たちの姿に驚かされた。

なんだかものすごい大変そうだが、それにしてもカイルの頼もしさが半端じゃない。

次から次へと書類に目を通して仕事をこなしている。

というか、俺がいたときよりもかなりきっちり仕事をしているのではないだろうか。

俺はカイルに渡された山積みの書類をチェックして、それにサインを書いていったのだった。

※ ※ ※

「お疲れ様、アルス兄さん」

「つ、疲れた。なんでこんなに仕事があるんだよ」

「なんでって決まってるでしょ。アルス兄さんや他のみんなが戦で活躍して領地が増えたんだよ。その分、やることが増えたんだからね」

「そうか、書類の中にあったけど、もう新しく増えた領地の検地までやってたんだな。っていうか、カイル。お前、あれはなんだよ」

「あれってなに?」

「いや、なんかすごい速度で書類を読んだり、計算したりしてただろ。どの書類もあっという間に内容を把握して計算するなんて尋常なことじゃないぞ」

「ああ、あれか。実はアルス兄さんに聞いた呪文の作り方ってあったでしょ。さすがに毎日すごい量の事務仕事があったから、それがちょっとでも楽になるようにと思って、文章を読む速度を上げたり、計算速度を上げる魔法をつくったんだよ」

「……え、今なんて言ったの、カイルくん?」

「だから、魔法をつくったんだよ。【速読】と【自動演算】ってやつを。どう? すごいでしょ、アルス兄さん」

……まじで?

いや、仕事中に何度もそのワードが聞こえてきていたのでもしかしてとは思ってはいたんだ。

だが、聞き間違いではなかったのか。

どうやら【速読】というのは書類に書かれた文字を見た瞬間に全文を理解できるらしい。

【自動演算】に至っては正しい計算結果を瞬時に出すこともできるとか。

魔法って本来魔力を扱った技を魔術として使いこなす魔術師が、さらなる修練によって呪文というキーワードをつぶやくことで発動させられる技術へと昇華させたもので、簡単に作れるものではないはずなんだが。

現にやり方を教えてもバイト兄やバルガスは肉体強化系の魔法を作り出すことには成功していない。

それをまだ8歳の弟カイルが実現してしまった。

おいおい、カイルくんよ。

お前、天才かよ。

すごすぎだろ。

こうして、バルカには俺の予想もしなかった魔法がもたらされることになったのだった。