軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恩賞

「この度の戦によって、我らフォンターナ家は無事、アインラッドとビルマという2つの重要な土地を手に入れることに成功した。まずは諸君らの働きに感謝する」

アインラッド砦の頂にある硬化レンガ製の建物の中でカルロスが話している。

先日、無事にカルロスたちが北の街ビルマを攻略したと報告があった。

そうして、それからしばらくして主だった者たちがアインラッドへと帰ってきたのだ。

もしかして、うまく北の街を攻略できたからさらにウルク家を攻めるぞ、と言い出すのではないかと多少不安に思っていた。

が、どうやら、ここらで一区切りして平定した土地を治めるつもりらしい。

「さて、今回の戦いでの働きに対して、俺はそれぞれの騎士に対して恩賞を与えることになるのだが……、知っての通りひとりだけ先に話をつけておきたい相手がいる。アルス・フォン・バルカ、前に出ろ」

「はい」

「アルス、貴様はこの度、キーマ騎兵隊の撃破とフォンターナ宿敵の猛将ミリアムの討ち取り、アインラッドの丘の攻略戦での包囲陣、更に奪取したアインラッドの丘の砦化とその守護、そしてウルク軍5000の撃退と多数の騎士の討ち取りという手柄がある。相違ないな?」

「はい」

「よし。では恩賞を与える前に貴様に聞いておきたいことがある。次の質問に正直に答えろ」

「はい」

「氷精剣と九尾剣、どちらかしか手に入れられないとした場合、貴様はどちらを選ぶ?」

……はあ?

戦の働きに対しての恩賞の話ではなかったのだろうか。

急にカルロスが二択クイズを出してきた。

これはいったいどういう意味の質問なのだろうか。

単純に氷精剣と九尾剣という魔法剣のどちらがほしいと思っているかを聞いているのだろうか。

いや、そんなわけではないかもしれない。

もしかして、九尾剣と答えたらフォンターナの氷精剣を侮辱しているのかなどといった、よくわからない理由で糾弾されたりするのだろうか?

俺が今までカルロスと接してきた期間は長いとはとてもいえないが、こんなまどろっこしい言い回しはせず、ズバズバものを言うタイプだと思うのだが……。

もしかして、なにかこれは意味のある隠喩でも含まれているのか。

それとも貴族や騎士のなかではこういう質問がテンプレとしてあるんだろうか。

わからん。

「カルロス様、わたしはすでに九尾剣を頂いております。これ以上は身に余るものとなるでしょう。もし、もう一振り剣を得ることができるのであれば、普通の金属剣で十分です」

「ほう、本当にそれで良いのか?」

「はい、かまいません」

あまりにも予想外で急な質問だったため、つい日本人気質を発揮してしまった。

奥ゆかしい謙遜の心なんて弱気と取られる可能性もある。

だが、2つの剣を選べというのが金の斧と銀の斧の選択という童話を頭に浮かんだので、とっさにこう答えてしまった。

もうちょっと強気にいくべきだっただろうか?

「よかろう。アルス、貴様は新たにバルカ騎士領の西にある村3つを恩賞として与えよう。ただし、これから俺が招集をかけた場合は最低500以上の兵を連れてこい。いいな?」

「はっ、ありがとうございます」

「これからも貴様の働きには期待している。では、次だ。アインラッドとビルマを押さえてウルク家の動きを封じるための領地替えを行う。まずはアインラッドに入る者だが……」

……ふう。

なんか思ったよりもサッと終わってしまった。

あの答えでよかったのだろうか。

まあ、よくわからんがどうやらカルロスの機嫌が悪くなるようなこともなく事が済んだようなので、答え方を間違ったわけではないのだろう。

こうして、俺は新たに村3つを領地として認められることになったのだった。

※ ※ ※

「リオン、お前本当にあの話を断ってよかったのか?」

「ええ、魅力ある提案でしたがかまいませんよ、アルス様」

「でも、お前はグラハム家を再興するって目的のために頑張ってたんじゃないのか? せっかく今回の戦の報奨でリオンの騎士叙任の話になったのに」

「そうですね。確かに家の再興のための大きな一歩になったかもしれません。ですが、わたしはバルカの兵を一時的に借りて指揮をとっていたにすぎませんから。この一戦だけで騎士になったとしても私自身の実力を認める人はいないでしょう」

「そうかな。まあ、リオンがそう言うなら別にいいんだけど」

「ええ、いいのですよ。それより、アルス様はあの質問に見事に返答されましたね。どう答えるか、他の騎士たちもみんな見ていましたよ」

「っていうか、あれでよかったのか? 実は失礼にあたるとかあったりしたらやべーんだけど。どういう意味があったんだ?」

「おそらくは、という推測程度でしかありませんがわたしの考えで良ければお聞かせしましょうか?」

「お、リオンはわかったのか。なんの意味があったんだ?」

「おそらく、どちらを選んでも大きく状況が変わる可能性のあった質問だったのでしょう。氷精剣と九尾剣はフォンターナ家とウルク家を暗示しています。アルス様の望みがどこにあるのかを探る意味があったのでしょう」

「……つまりどういうことだってばよ?」

「氷精剣を選ぶ、と答えていた場合はフォンターナ家での出世につながったのでしょう。おそらくは本来の意味でフォンターナ家を支える家宰のようなポジションを担うことになる恩賞が与えられたのではないかと思います」

「ふむふむ。じゃあ、九尾剣を選んでいた場合は? ウルク家の家宰にはなれんだろ?」

「それはそうです。九尾剣の場合はウルク家というよりもウルク領というのが適切かもしれませんね。おそらくウルクの土地を恩賞として与えることを指していたのではないかと思います」

「なるほど」

「ただし、そのどちらもメリットばかりの話ではなかった可能性もありますよ」

「え、どういうことだ?」

「氷精剣と答えていた場合はフォンターナ家の家宰のような身分になる、ということはアルス様を当主とするバルカ家はフォンターナ家の中に完全に取り込まれることにもなります。それはつまり、バルカのものであるバルカの騎士やヴァルキリー、魔力茸などといったものが、全てカルロス様の一存で好きなように使われる可能性もあったということです」

「はあ、なんだそりゃ。それじゃ貧乏くじ引いたみたいなもんじゃねえか」

「九尾剣と答えていた場合はウルク領、おそらくはアインラッド砦とその周辺の村を与えられていたのではないでしょうか。ただ、その場合、今のバルカ騎士領とアインラッドは土地が接していません。家臣の少ないバルカ家のことを考慮して加増ではなく領地替えという形になっていた可能性がありますね」

「領地替え、ってことはつまり九尾剣を選んでいたらバルカニアから出ていかないといけなかったってことか?」

「あくまでもわたしの考えであり、可能性でしかありませんがそうなっていたかもしれません」

おいおい、カルロスくんよ。

油断も隙もないじゃないか。

あんなおちゃめな質問でとんでもないリスクを含ませてくれるとは思いもしなかったよ。

だけど、同じ話を聞いてリオンはすぐにこういう可能性を頭に浮かべたということは、他の騎士もあの質問の意図が読み取れていた可能性も十分ある。

質問があったときに割と周りの空気がピリッとしたのはそういう意味だったのか。

ようするに俺はあの場で、ほかの騎士が見守る中でフォンターナ家での出世も、新たに大きな領地も望まないという宣言したことになるのか。

まあ、それでもなんの恩賞もなしではまずいということで無難に村3つを渡されたってところか。

うーむ、俺の口から何を望むかを言わせたいならいつものように直接聞いてほしいが、これが貴族同士での言い回しだったりするのかもしれない。

だが、なんとか結果的には損のない着地点に落ち着いたのではないだろうか。

俺は知らないうちにバルカニアを担保にした賭けをうまくこなして、領地を増やしたことになったようだった。