軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地形ハメ

「グアアアアアアァァァァァァァァァァ」

「はっや、あいつ、あんな巨体で走りのフォームが良すぎだろ」

逃走した俺達を追いかける追撃軍を隘路を封鎖して壊滅的打撃を与えるという作戦。

それ自体はうまくいったのだが、ウルクの騎士を仕留めたものの肝心の巨人についてはいまだ俺達を追いかけてきている。

左右の手をシュッシュと動かして走るフォームはまるで陸上選手の走りのような一種の芸術性のあるものにも見える。

巨人のそんな意外なパフォーマンスを見せつけられながら、俺はバイト兄とともにヴァルキリーに騎乗して逃げ続けていた。

「おい、アルス。あいつのほうがヴァルキリーよりも脚が速いぞ」

「っち、このままだと追いつかれる。頼む、ヴァルキリー。頑張ってくれ」

必死になって逃げ続けるヴァルキリーよりも更に速い巨人の速度。

もしかして、さっきまではウルクの騎士たちがいたから本気で走れなかったのだろうか。

どうなってんだよ、あいつのスペックは。

大雪山よりも向こうにはこんな化物がうじゃうじゃいるんだろうか。

正直、あんなのがいるとわかっていたら、俺なら戦う前に降参してしまうかもしれない。

「……ついたぞ、バイト兄。ここだ。俺の後ろから外れるなよ」

「言われなくてもわかってるぜ」

巨人がここまでの強さだとは思っていなかった。

だが、逆にグランの話を聞いたときに、どこまでの強さかを正確に測ることもできなかった俺は、隘路の罠が通じなかったときのことも考えていた。

もしも、あそこで巨人を仕留められなかったらどうすべきか。

答えは、もう一つ別の罠にかけるというのが俺の考えだった。

隘路を抜けて更に巨人に追われながら逃げてきた先にもう一つの罠が仕掛けられている。

そのポイントまで来たとき、俺はヴァルキリーの手綱を握り直して記憶しておいたとおりの場所を走らせるようにした。

それまではまっすぐに逃げていたのに対して、少し右にカーブするように曲がり始めたのだった。

俺が通ったあとを正確にバイト兄たちの騎乗したヴァルキリーが追走する。

だが、後方から追いかけてきていた巨人は違った。

右にカーブする俺達をみた巨人は追いかけるものの習性として、距離を縮めようとしたのだ。

俺に追随するように曲がるのではなく、曲がっていく俺達の方向へと先回りするように最短距離を走ろうと若干走行ルートを変えた。

だが、それは間違いだった。

ドッッッパーーーーーン。

唐突にそんな音がしたと思ったら追撃してきていた巨人の姿が消えた。

俺はその音を聞いた瞬間、疾走するヴァルキリーの背で後方へと視線を向ける。

暗く、周囲の状況がはっきりとはわからないものの、それでもあの巨人の大きな体はどこにも見当たらなかった。

「巨人が罠にかかった。壁を作るぞ」

巨人の姿が間違いなく消えたことを確認した俺は即座に声を上げる。

俺と一緒に逃げていたバイト兄をはじめとする騎兵たちが周囲へと散らばってあたりに壁をつくっていく。

バシャンバシャンと音がし始める。

俺達が大急ぎで壁を作り囲っていく内部で巨人が出している音だ。

音の正体は水の中で巨人がもがいている音。

そう、巨人は水の中にいるのだ。

第2の罠の正体は落とし穴だ。

落とし穴という罠も大猪で何度も使ったものであり、うまく決まれば人間以上の化物をも仕留めることができる信頼性のある方法だ。

だが、高さ5mもある巨体の持ち主をただ穴に落とすだけで仕留められるかどうかはやはり未知数だと感じていた。

そこで、ただの落とし穴ではなく水攻めの要素も追加したのだった。

といっても、落とし穴に水を入れたわけではない。

むしろ逆で、水のあるところに巨人を誘い込んで落とすことにしたのだ。

つまり、ここは俺が掘った穴ではなく、もともと沼のような濁った水が貯まる池だったのだ。

隘路を抜けた先にある池の水面に巨人を落とす。

そう考えたものの、普通に追走されているだけではいくら暗いといっても月明かりもある中で巨人が池に落ちるとは考えづらい。

そこで俺は水の表面を覆ったのだ。

もちろん、水の上に魔法で土を被せようとしても無理だ。

だが、それが普通の土ではなく軽石だったらどうだろうか。

俺は魔法で水に浮く軽石を作り出し、それで水面を隠してしまったのだった。

この作戦はこの日が満月のような明るい状況でなかったからできたことでもある。

日中だったらまず間違いなくひと目で気づく罠だ。

だが、月が欠けた真夜中の時間帯だったからこそ、軽石を浮かべられた池を全速力で走る巨人は地面だと疑うこともせず踏み込んでしまった。

俺達があえて水に落ちないように曲がりながら走っているとも知らずに。

「さすがの巨人も水の中から壁の上には上がれないようだな」

巨人が池にハマった瞬間に俺達は池を壁で囲ってしまった。

事前に調べているが池そのものも結構深さがある上に沼に近い池なのでハマると動きが取りづらい。

こうなるとさすがの巨人も水の中でいくらもがこうとも這い上がることができないらしい。

最初こそバシャバシャと大きな音をたてていたものの、次第にその音が小さくなり、最後にはまったく無くなってしまった。

だが、万が一ということもある。

俺は隘路から移動してきたリオンが率いる兵たちが合流する日の出の時間まで、池を囲む壁の上から巨人であるアトモスの戦士が姿を現さないか確認し続けたのだった。