軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖なる帝都

「こ、これを私がやるのですか、アルフォンス様?」

「うん、そうだよ、ラッセン。ここに定めたとおりにラッセンには下水道を掘ってもらう。さらに、後々には地下鉄道の開通も予定しているからよろしく頼むよ」

「その、作業量がとんでもないことになりそうなのですが……。これだけの土地の下に下水道を敷いていくっていうのは、難しいのではないかなー、と思ったりもするのですけど」

「何言ってんだ。土精を入れた魔法の指輪があるんだから大丈夫だろ。っていうか、先に下水設備なんかをやるって決めたんだから、さっさと取り掛かってくれないと困るんだよ。頼んだぞ、ラッセン」

「わ、分かりました。一応言ってみただけで、しっかり仕事はこなしますよ。この指輪を取り上げられたりしたら困るのは私ですからね。きちんと働いてみせましょう」

アイとともに計画を進めた新たな都市づくり。

その都市は俺の新しい本拠地となるだろう。

なので、入念に計画をたてつつも、できるところはさっさと着工してしまうことにした。

そのために呼び寄せたラッセンに計画をもとにした図面を渡して下水道やその設備を作るように指示を出す。

その図面を見たラッセンが思わず頭を抱えてしまったのは当然だろう。

かなり規模の大きな都市となるために、その下水設備も非常に広範な範囲に跨っていたからだ。

それを自分一人にやらせるのかと嘆く気持ちはよく分かる。

が、迷宮核になりえる魔法の指輪を俺以外で所持している以上、ラッセンに働いてもらうことは確定だ。

もしも、できないというのであれば、残念だが指輪も没収となる。

それが分かっているからこそ、なんだかんだと言いながらもラッセンの眼は図面をしっかりと見据えていた。

「……この図面、気になりますね」

「ん? なにがだ、ラッセン?」

「一見普通の都市計画としての下水道に見えます。いえ、規模が段違いなのはあれですけど、それは置いておきましょう。ただ、なんというのか、これってアイ議長が作った図面ですよね? アイ議長が作ったにしては、いくつか気になる部分があるんですよ。不自然な部分が」

「へえ。やっぱそういうのって本職なら分かるものなのか。俺はその下水の図面を見ても全然違和感とかなかったんだけどな。普通に新しく作る街のための下水道が描かれているだけにしか思えなかったよ」

「素人目にはそうでしょうね。いや、そうじゃないですね。これは建設に関わる人間でも気づかないかもしれません。けど、こう見えて私も各国を渡り歩いて地面に穴を掘ってきましたから。とくに、アイ議長のように一切無駄のない仕事を行う人が作った図面にしては、不必要な場所や迂回路なんかがあるので、どうしても気になるんです。これって、ただの街づくりではなかったりするのですか?」

「……知りたい? それを知ったら、後戻りできないぞ、ラッセン。っていうか、もう遅いけど。そこまで気づくのはさすがだね。ラッセンの言うとおり、この図面はある目的があって描いたものだよ。それだけ見ても理解はできないだろうけど」

「あー、やっぱりなにかあるんですね。聞かなければよかったかもしれません。古来、高貴な方の作る建築物はその情報の秘匿のために建築にかかわった者を全員始末したという話もあるのでそういう類の話になるのでしょうか」

まあ、そうなのかもしれない。

やんごとない身分の人間が秘密の通路を作った建物などを作れば、その秘密を秘匿するために建築にかかわったものを処分することは十分考えられる。

そう考えると、この都市計画は秘匿するには規模が大きすぎる。

普通に工事をしたら、いったいどれだけの人数が完成までに必要になるのだろうか。

それらを全員処分していたら、大変なことになりそうだ。

だが、それと比べればラッセンがいるというのはありがたいかもしれないな。

なにせ、この地下施設の大部分をラッセンに任せるつもりだからだ。

そのラッセンに秘密を守らせたいなら、血の契約を行えばいい。

この都市の秘密をラッセンが知っても、そう簡単に人に話せないように制約を掛ければいいのだから、普通の工事よりはよほど楽だろう。

「ラッセンは【聖域】って魔法を知っているか?」

「【聖域】ですか? えっと、ちゃんとは知りませんけどそういう魔法ってのがあるんですか?」

「そうだ。まあ、ラッセンはこのあたりでは名付けされていない稀有な人間だからな。知らないのは当然だろう。ってか、魔法が使えても知らない人が大多数だろうし」

「そうなんですね。どういう魔法なんでしょうか?」

「一切の穢れを祓う魔法だよ。それも、人や物を対象にする【浄化】よりもさらに上位に位置して、その周辺の土地ごと清浄なる空間へと変えてくれる魔法だ」

「はあ。清浄な空間、ですか。それはアルフォンス様は使えるのでしょうか?」

「ああ。使えるよ。俺の魔力量が上がって位階が上昇したからな。その【聖域】を都市全体に発動し続ける、ってのがこの新しい都市の秘密だよ。この世で最も清浄な、聖なる帝都の誕生ってわけだ」

アイと話していた都市そのものを魔法陣とする計画。

それが実現可能だとしたら、ではいったいなんの魔法陣を展開するのか。

それが問題だった。

そこで、それについてアイと散々議論した結果、いきついたのが【聖域】だった。

これはベンジャミンから血を奪ったことで位階上昇とともに俺も使えるようになった魔法だ。

【聖域】を発動すると、その地点を中心にきれいな光が周囲を照らして、しばらくの間、穢れを完全に祓ってくれる。

不死者対策として最上の魔法だ。

それを新しい都市に使う。

アイの魔力により、永遠に途切れることのない清浄な都市となることだろう。

迷宮核として指輪を使い、その【聖域】の範囲内では芳醇な魔力で体を満たすことができる都市。

それならば、魔力について無知な人間であっても、その都市が尋常のものではないことが理解できるだろう。

そして、それはそのまま、その都市を作った俺の評価につながるはずだ。

こうして、新しい都市は聖なる帝都として、まずはラッセンの穴掘りから開始されたのだった。