軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鋭刃

俺の鎧がグググッと小さくなっていく。

それまでは周囲にたいしての圧力を増す狙いもあって、血の鎧を大きくしていたのだ。

だが、それをよく使う体格のいい成人男性よりも少し大きいくらいの大きさへと変えた。

その狙いはアロンダルとの戦いで【見稽古】を最大限に使うためでもある。

刀を使う剣の達人。

そんな相手の剣技を【見稽古】を用いて戦いながら盗んでしまおうというのに、体格差が大きいと適切な体の使い方を見ることができないのではないかと思ったからだ。

だが、だからといって無意味にこちらの力を落としてもしかたがない。

そんなことをして、俺が押されるようなことがあってはならない。

あくまでも、相手の動きをみつつ勝利を掴むのが大前提だ。

そのため、鎧の大きさは小さくしたものの鎧として使用している血の量は減らしていない。

内部で圧縮して、より筋肉代わりになるように利用する。

そんなふうに準備を整えている間もアロンダルの体を観察し続けていた。

体の前で刀を構えながらも、自然体で立っている。

こちらの外見が変化しているのというのに緊張したりする様子もなく、いつでも動ける体勢を維持し続けていた。

けっして、魔力の量だけで勝負をしようという人物ではないのだろう。

イーリス国の中でも十剣士として数えられると言っていたが、そこにたどり着くまでにたゆまぬ努力をしていたに違いない。

体に纏う魔力の流れが変化し、その魔力が手にしている刀へと流れ込んでいった。

「はっ!!」

一瞬前までは力を抜いて立っているかのような自然体でありながら、一気に距離を詰めてこちらの懐に入るようにして刀を振るう。

その動きは速く、無駄のないものだった。

そして、魔力の流れもその体の動きにあわせて変化し続ける。

まるで俺の流動のようだ。

オリエント国や新バルカ街で兵や傭兵に魔力の扱いを教えているが、ここまでうまく魔力を使えるようになった者はいない。

魔力量を増やせるようになってきてはいても、魔力を扱うのはそれだけ大変だということなんだろう。

それを考えるだけでもアロンダルの技量の高さがうかがえる。

そんな巧みな魔力操作によって切れ味が増した刀が俺の魔剣とぶつかり合った。

キン!

そんな音がして、魔剣に傷が入る。

すごいな。

今までこの魔剣に傷が入ったことはなかった。

それがまさか、こんなところで戦う相手にやられるとは思いもしなかった。

「すごいね。いい切れ味だ」

「……褒めてもらったと考えよう。本当は今のでその剣を斬り飛ばす算段だったのだがな」

「残念だったね。なら、もっと頑張って攻撃することだよ」

魔剣に入った傷。

それはすでに修復が完了している。

なんせ、魔剣ノルンは普通の剣とは全く違うからな。

俺の血でできていて、形を変えることもできるのだ。

ならば、傷ができようが、斬り飛ばされようが関係ない。

そんなものはすぐに直すことができる。

しかし、それでも傷がつくというのは看過できない問題だった。

なんせ、相手の刀は業物だろうとは思うが、魔法剣のようなものではないのだから。

おそらくは鉄などの一般的な金属でできているはずだ。

それに俺の魔剣が打ち負けることがあるとは思えない。

ならば、おそらくはアロンダルの魔力によるものなのだろう。

魔術だ。

ぺリア軍の総指揮官であるギルバートも魔術を使っていたが、目の前の男も魔術を使っているのだろう。

なにもつぶやいたりはしていなかったので魔法ではないと思う。

自己の魔力を操る技術のみで独自の効果を発揮する。

それがこいつの場合には刀の切れ味の向上なのではないだろうか。

その後もアロンダルが刃を振るい、俺が魔剣で防いでいく。

そんな攻防を繰り返しながら、さらに詳しく動きを観察する。

魔力を使って切れ味を増すアロンダルの魔術をとりあえず【鋭刃】とでも名付けようか。

その【鋭刃】だが、ただ単に刀に魔力を流し込んでいるだけではないはずだ。

それくらいなら俺でもできる。

だが、経験的にそれだと切れ味の向上はできない。

いや、できないわけではない。

が、武器に魔力を送りこむと、その武器の性能全体が底上げされるのが普通だと思う。

少なくとも俺が今まで魔力を扱ってきた限りではそうだった。

体に魔力をためれば身体能力全体が上がるという感じだろうか。

だが、アロンダルのそれは少し違うように感じる。

切れ味だけを格段にあげている。

その後も刀による攻撃を魔剣で受け、防ぎ、流していくことでそれがはっきりとわかった。

「なるほど。攻撃が当たる瞬間だけ、刀の触れる部分に魔力を流しているのか」

「……これは参ったな。まさか、数度打ち合うだけで、そこまで分かるのか。だが、それが分かったところで真似は出来んぞ」

「なんでだ? 同じことをすればいいんじゃないのか?」

「無理だ。この技法にたどり着くまで、この私がどれほどの期間、修行に明け暮れたと思う。見ただけで真似ることなど不可能だ」

アロンダルの刀の異常な切れ味。

それは、やはり奴の技量によるものに他ならない。

単純に刀の使い方もうまいのだ。

直剣だとどちらかというと突いたり、叩き切るような動作が多いのだが、刀は引いて切る動きが多かった。

しかも、それだけではなく、刀を使いこなす動きの中で、切るという瞬間にだけ刃に魔力を多く流し込んでいたのだ。

武器全体ではなく、切るための刃に集中して魔力を送りこむ。

しかも、それは切るという瞬間にだけだ。

さらに言えば、切るために刀を引く動きにあわせても魔力の濃さを変えていた。

それが、切れ味の向上につながっているのかもしれない。

ならば、それを真似すればいい。

いや、ただの猿真似をするよりも、奴よりも一歩先にいこう。

金属の刀でそんなふうに切れ味が向上できるのであれば、魔剣でもできるはず。

そして、魔力ももちろん、血の動きも操作すれば、さらに切れ味が上がるのではないだろうか。

今度は俺が攻撃に出た。

それまではアロンダルの攻撃を防ぐだけだったが、自分から前に出て魔剣を振り下ろす。

そして、その振り下ろす瞬間に魔力と血を流動させた。

アロンダルよりもさらに細かな魔力操作を実行する。

魔剣の剣身が相手の刀に触れる瞬間、超高速で振動させながら動かしたのだ。

見た目ではわからないであろう微細な振動を魔力と血の二つに起こす。

それが、これまでにないくらい魔剣の切れ味を引き上げることに成功した。

アロンダルの刀と鎧、そして体が抵抗を感じることなく二分された。

それまで感じたことのない切れ味だった。

あまりの切れ味だからか、二つに分かれたアロンダルの断面からはしばらくの間、血がにじむこともなかった。

きっと、自分が斬られたことすら認識できなかったに違いない。

いいな、これ。

刀の使い方を知るつもりでアロンダルと一対一の戦いを受けたが、思わぬ収穫を得てしまった。

こうして、俺は新しく魔剣の切れ味を向上させる術を手に入れたのだった。