軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

セバスの帰還

「お久しぶりです。ただいま戻りました」

「お帰り、セバス。ヴァンデンブルグ伯爵はこちらの贈り物を受け取ってくれたかな?」

「はい、それはもちろんでございます。伯爵様はたいそうお気に召されておられました。感謝の書状をお渡しするように仰せつかっております。お受け取りください」

季節は早いもので冬が終わり、少しずつ暖かい日が増えてきた。

そんななか、ヴァンデンブルグ伯爵領へと行っていたセバスがオリエント国へと戻ってきた。

どうやら、彼は伯爵家の執事から正式にエリザベスの執事になったようだ。

戻ってきてからすぐにまた側仕えたちの仕事を差配している。

そのセバスからヴァンデンブルグ伯爵からの手紙を受け取る。

内容を確認すると、こちらが渡した贈り物である魔導通信器がいかにすごいかを表現した文字であふれていた。

さすがに、伯爵領を統治している現役の当主であるだけに、いかにあの魔道具が優れているかをすぐに理解したのだろう。

さっそく仕事で活用しているとのことだった。

どうやら、その贈り物の効果もあり、俺が正式にエリザベスと結婚することを認めたようだ。

まあ、もうすでに婚約指輪は受け取っているし、こっちでは公表もしてしまっているんだけれど。

それでも、肝心のエリザベスが婚約者という立場でありながらも、俺の屋敷に留まっていることを正式に認めたことになる。

ぶっちゃけ、エリザベス本人の意向とはいえ伯爵令嬢を留め置いている状況は、誘拐したと言われてもおかしくない異常な状態だったからな。

一安心というところだろうか。

「ほかにはなにか言っていたかな?」

「エリザベスお嬢様へのお言葉ですが、元気になったのであれば結婚までには少しでもいいから帰ってきてほしいとのことでした。今まで病で臥せっておられるお姿が長かったですから」

「上位貴族の伯爵様と言えども、やっぱり娘はかわいいってことかな? けど、帰る気がエリザベスにあるかどうか、微妙じゃないかな。俺の【回復】を毎日受けたいって言ってたし。お肌の艶が違うらしいよ」

「ええ、それはもう。わたくしの目からみてもお嬢様の美貌はさらに磨き抜かれていると感じました。幼いころよりお美しかったですが、ひときわ輝いているように見えます。それこそ、あの絹糸のような艶やかさの金の髪は女神様のようではありませんか」

ああ、やっぱり違うんだな。

婚約してからは毎日のようにエリザベスに【回復】を使っている。

最初のころは不治の病という名の呪いによって悪くなっていた体が驚くほどによくなっていた。

が、次第にその変化の幅は小さくなってきていて、最近では毎日の【回復】はそれこそ細胞単位でしか影響がないんじゃないだろうかと思うくらいだったのだ。

しかし、数月ほどエリザベスのもとから離れていたセバスにとっては、全然違うようだ。

お嬢様のここが今までと違う、とあちこちを指摘して教えてくれている。

ちょっとくどいくらいだったが、それを聞いているとこの執事がいかに昔からエリザベスのことを見守ってきていたのかがよくわかった。

仕事柄かきっちりとしているので伯爵家に仕えている仕事人間かと思うこともあったが、情にあふれている人のようだ。

エリザベスが身の回りのことを任せていた理由が少しわかった。

「しかし、すごいものですね」

「ん? なにがかな?」

「【回復】のことですよ。あの魔法はブリリア魔導国内にも使える者がいることはこちらでも確認していました。ですが、不治の病は治せないとのことでしたし、美容に効果があるということも知りませんでした。これほどの効果があるというのは驚きです」

「そういえば、ブリリア魔導国では貴族階級の人間は自分の魔力量が減るのを嫌がって、あまり名付けを受けないんだったか。でも、それならこの話が広がれば名付けを受ける人が増えるかもしれないな」

「美容効果があるから、ですか? それはどうでしょう。貴族だからこそ、自身の魔力量の増減については厳しく見ていると思いますが」

「でも、女性ならどうかな? 貴族の中で男性だと魔力量にこだわるかもしれないけど女性は魔力量よりも美しさをとるって人も多いんじゃないの? 例え不治の病が治せなくても、【回復】が使えれば怪我は治せるからね。肌のシミなんかも消えると思うよ」

「なるほど。女性人気が出る、というわけですか。確かにそれはありそうですね」

美の追求には底がないみたいだからな。

エリザベスに始めた毎日の【回復】だが、それを見て、ほかの婚約者であるシオンたちも求めてきたのだ。

しかも、俺と同じくらいの歳のはずのミーティアやユーリまでもだ。

まだまだ子どもだから必要ないだろうと思いつつも、今まであった体の細かな傷が無くなるだけでもすごくうれしそうにしていたからな。

美容目的の【回復】の需要は高いと思う。

歴史あるブリリア魔導国の貴族家の女性ならば、生まれ持つ魔力量のおかげで名付けされれば【回復】が使える者もいるかもしれない。

そういう人に案外人気が出るかもしれないとセバスと話していた。

「それはともかく、聞きましたよ。【回復】の効果を用いて、軍備拡張を進めているようですね。旦那様はいよいよ大きな戦を始めるおつもりなのでしょうか?」

「旦那様って俺のことか? うーん。どうだろうな。ただ、アイが言うにはそろそろ周辺国が動きそうだって話だね。もしかすると、今年は大きく状況が動くかもしれない」

どうやらセバスは俺がバルカ傭兵団に導入した年金制度について、すでに耳にしていたようだ。

そして、その制度には俺の【回復】も利用していることを把握していた。

いろんな情報を集めているんだろうな。

けれど、そんなセバスでもまだ俺の言った内容までは把握できていなかったようだ。

もっとも、それは当たり前だ。

まだ表立ってことが起こっていないのだから。

しかし、確実にその時は近づいてきている。

周辺国がふたたび大きく動く可能性がある。

その原因はエンにある。

お金をめぐって、この小国家群に争いの種が芽吹き始めていたのだった。