軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脱穀

「大将、ちょっと相談したい事があるんだがいいか?」

「どうしたんだ、バルガス。なんかあったのか?」

「だいぶ畑の麦が育ってきているんだが、それがちょっと気になってな」

「麦がどうしたんだ? 俺が見る限り不作ってことはないはずだけど」

「逆だぜ、大将。豊作すぎるだろ、ありゃ。あんなに麦ができるってのは嬉しい話だが、収穫するとき大変だろ」

「そりゃあ大変だとは思うけど不作よりはいいだろ。そんなことで文句言われても困るんだけど……」

「そりゃあ文句は言いたくないが愚痴くらい言わせてくれや。俺は収穫した麦の脱穀作業ってのが嫌いなんだよ。それがあんなにあると思うだけで、今からもう気が重くてな」

「ああ、なるほど。脱穀のことか」

冬になる前に畑にまいた麦の種。

それがようやく実りはじめたころのことだ。

バルガスが麦の収穫について話しかけてきた。

どうやら、収穫した麦の脱穀作業のことが今から気を重たくさせているらしい。

まあ、わからなくもない。

なんせ、今までの麦よりもはるかに大量に収穫できそうなのだから、その作業量は桁違いに増えることになる。

このあたりは農業技術があまり発展していなかった。

もともと、なんとか開拓した土地に麦をばらまいて、それが育ったものを収穫するだけという本当に簡単な農業方法をとっていたのだ。

理由は長い戦乱にある。

男手が戦に持っていかれることが多いため、農作業のない時期には人がいなくなることがよくあるのだ。

畑を丁寧に草むしりするよりも、なんとか農地を広げて種をまける土地を維持するほうが収穫につながるといった有様だったのだ。

だが、その状況が急激に変わった。

理由は俺がバルカ姓を与えたことにある。

それまでとは比較にならないほど簡単に手間暇をかけずに【整地】と【土壌改良】の呪文だけで畑の状態を良くすることができるようになったからだ。

当然、そこで育つ麦の量も大幅に改善した。

その結果、バルガスが引くほどの量が収穫できる見込みになったのだ。

しかし、魔法によって農業の効率化が行われただけで農業技術そのものが変わったわけではない。

実は収穫した麦を脱穀する方法もこのあたりでは実にシンプルなやり方をしていたのだった。

乾燥した麦から手や棒で実を落とすようにしていたのだ。

この方法でも麦の実は取れるのだが、量が多くなればその分手間がかかる。

バルガスが嫌がるのもわかるというものだ。

「しょうがない。脱穀機でも作るか」

こうして、俺は脱穀作業の効率化を行うことにしたのだった。

※ ※ ※

脱穀と聞いて一番最初に何を思い浮かべるか。

俺の場合は千歯扱きという道具だった。

大きなクシのような形をしているもので、金属でできた棒と棒の間に麦を差し込み引っ張ると実が落ちる。

麦でも稲でもできる上に単純な構造で実現できるすぐれものだ。

実は俺はこの千歯扱きをすでに作っていたりするのだ。

もともと、俺が生まれたバルカ村の家も貧乏な農家で父さんが戦に駆り出されていなかったときもあった。

なので、家に残った母さんと子どもたちで脱穀作業をしていたのだ。

やはり、最初は俺もバルガスと同じように脱穀作業の面倒さに嫌気がしたものだった。

手作業の脱穀は結構な時間がかかる上に本当に面倒なのだ。

こどものときから畑で自作の野菜づくりの実験をしていたこともあり、無駄な時間をへらすためにも作り上げたのが千歯扱きだった。

だが、金属がないので適当な木をそれっぽくしたもので代用していた。

これでも作業時間は減ったのだったが、不満は残った。

木で作った千歯扱きは耐久性が低かったのだ。

できればもっといいものがほしいとずっと思っていた。

この千歯扱きを硬化レンガで作ってしまおうか。

そう考えたのも自然な流れだっただろう。

だが、俺はその考えにブレーキがかかっていた。

というのも、千歯扱きは確かに便利なのだが、ベストの選択というものではない気もしたからだ。

確かに今までの原始的な脱穀方法と比べると千歯扱きは格段に進歩した発明品だ。

だが、それよりも更に発展したものがある。

前世でどこかの博物館みたいなところで見た道具を思い出す。

確か、回転式脱穀機というものがあったはずだ。

千歯扱きを過去のものとして駆逐したさらなる発明品。

しかも、それも古くから使われていたが非常に優れていたため、現役で使う人もいるという話だった。

それを作ってみることにした。

記憶の片隅から回転式脱穀機についての情報を拾い上げる。

あれは確か、回転する筒の外側に逆V字型の突起がついていたはずだ。

その突起のついた筒に麦を当てながら筒を回転する。

すると突起が麦の実を落としてくれるという仕組みだったはずだ。

回転させるだけなら手でやってもいいのだが、実物は足で操作していたように思う。

脱穀機についたペダルを足で踏むと筒が回る仕組みだ。

問題はどうやってペダルを踏んだら筒が回転するのかをよく覚えていないという点にある。

「ってわけで、グラン、お前の出番だ。こんな感じのもので回転する仕組みってできるはずなんだけど、わかるか?」

「ふむ、踏んだら回転する仕組みでござるか……」

「多分だけど歯車を使うんだと思うんだよな」

「歯車でござるか……。なるほど、ではこんな感じではどうでござろう?」

「あー、なんかそれっぽい。よし、じゃあ試作してみようぜ」

こうして、ペダルを踏んだ縦の運動を歯車を利用して筒を回転させる横の運動へと変換する回転式脱穀機が出来上がった。

今まで手作業でやっていたのが馬鹿らしくなるほどの圧倒的スピードで脱穀が終わってしまう優れものだ。

おかげで大量に収穫した麦をこれまでにない短時間で処理することができるようになったのだった。