軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約者として

「はじめまして。私の名はエリザベスといいます。よろしくお願いいたしますね?」

「はい。よろしくお願いいたします、エリザベス様。私はシオン・トラキアと申します」

「お聞きしています。もちろん、その素性もです。影に潜む暗殺者の手合いで間違いありませんね?」

「ええ、そのとおりです。トラキア一族の長をしております。お見知りおきを」

私が接触したのは、アルフォンス君のおうちにすでに上がり込んでいた女性です。

シオン・トラキア。

きれいな女性です。

噂に聞いた話では、アルフォンス君の所領の街ではバルカ御殿などと言って元高級娼婦や女性たちを集めて囲っているらしいですが、そんなに女好きなのでしょうか?

アルフォンス君と面と向かって話している感じでは、そのような雰囲気は一切ないのですが。

が、彼女はただのきれいなだけの方というわけではありません。

感じるのです。

普通の人とは違う気配を。

我が家にもいました。

貴族や騎士にはならずに、影に潜む裏の仕事をする者たちが。

彼女からはそのにおいが感じ取れたのです。

そこで、調べた結果、彼女はやはり暗殺者の一員であるということが分かっています。

トラキア一族と言いましたか。

ブリリア魔導国では聞いたこともありませんが、このオリエント国の近くにある森に潜む影の者として活動している一族がいて、シオンさんはその族長なのだということです。

「それで、エリザベス様。私になにか言いたいことがおありなのではないでしょうか?」

「ええ。率直に言わせてもらいますね。アルフォンス君、あるいはこのオリエント国は今後さらに危険が増してきます。それは、魔道具や魔法陣に関係してブリリア魔導国が関わってくると考えられるからです」

「ブリリア魔導国は魔法陣の本場ですものね。利害がぶつかることで、オリエント国に攻めてくるかもしれないとエリザベス様はお考えになっているのですか?」

「いえ、それならまだいいのです。表立って攻めてくるのであれば、分かりやすいですから。そうではなく、私が危惧しているのは暗殺です。独自の魔法陣を解読されてオリエント国で使われるようなことがあれば、ブリリア魔導国の貴族たちはなんとしてもそれを阻止しようとするでしょう。その時に、暗殺という手段をとるのは、珍しいことではありませんから」

「そうですね。一番、確実で手っ取り早い解決方法であると言えますからね。暗殺は」

私の言葉にシオンさんが同意します。

もしかすると、アルフォンス君は軽視している可能性があると思ったのです。

ですから、彼に代わって私が影の者であるシオンさんがこの屋敷にいることを最大限に利用しなければならないでしょう。

私は今まで彼女と面識がありませんでしたが、この場にいるということは一定の信頼をアルフォンス君から得ているのでしょうから。

暗殺は高位貴族であっても注意する必要があります。

というか、むしろ暗殺を警戒しない貴族はいないでしょう。

なぜなら、もともとが戦場に出ても他者よりも強く、怪我をしにくい貴族にとっては、暗殺のほうがよほど厄介だからです。

戦場では負けなしの猛者が、ある日突然に命を落とす。

そのような話は今まで繰り返し聞いてきました。

たとえ、どれほど魔力を持った高位貴族であっても、なんの警戒もしていない瞬間を狙われて攻撃されると弱いのです。

それこそ、道を歩いていてのすれ違い時や、トイレに行ったとき、湯床に向かった際や、あるいは食事の時。

人は普通に生活しているといくらでも命を狙うことができる時というのが存在するのです。

そして、それを巧みに狙う専門家というのはどこにでもいて、そしてそれは仕事を全うするためにいつでも、いつまでも動き続けるのです。

魔法陣の解読によって、ブリリア魔導国の貴族から暗殺者が放たれるかもしれない。

アルフォンス君が望むような戦場での戦いではなく、ひっそりとして陰湿な攻撃手段でずっと付きまとわれる。

それを振り払うのは相当な困難です。

終わりのない襲撃を警戒し続けるのは常人には難しすぎるのですから。

だからこそ、それに対処するには同じ仕事を請け負う者に頼る必要があります。

それはこのシオンさんをおいてほかにはいないでしょうね。

オリエント国の隣にある森が拠点であると聞きますし、きっとこの国だけではなく周囲にも人をやっているに違いありません。

「アルフォンス君の婚約者たる私からの依頼です。彼を守っては貰えないでしょうか? この国に仕える影の者として、私の依頼を受けてもらえますか?」

「……もちろんです、と言いたいところですが、報酬次第です、エリザベス様。我々は報酬を受け取ることで仕事を全うします。こちらに相応の報酬がなければ、お受けすることはできませんよ」

「私の依頼を受けていただけるのであれば、あなたのことを認めましょう」

「え? 認める、ですか?」

「はい。シオンさんがこの家にいる意味。もちろん、それは狙いがあってのことなのでしょう? そして、それを叶えるためには彼と婚約した私と関係がないとは言わせませんよ」

「分かりました。お受けいたします、エリザベス様。我がトラキア一族は全身全霊を持ってアルフォンス様の身辺を警備いたします」

女性が男性の家に上がり込む理由など、一つしかないでしょう。

ましてやそれが将来有望であると考える殿方であるとなれば、彼女の狙いは明白です。

が、私が婚約者となったからには勝手なことをさせるつもりは一切ありません。

しかし、影の者として彼の身を護るのであれば、それなりに譲歩することは可能です。

どうやら、シオンさんは私の言いたいことを理解し、即決してくれました。

よかった。

お互いの利害が一致したので、ヴァンデンブルグ家が持つ暗殺者の情報を彼女に伝えるようにセバスに言っておきましょう。

トラキア一族がどの程度の腕を持つ集団かが気がかりですが、ひとまずは警戒態勢を強化できるはずです。

ほかにもアルフォンス君の周りに女性の影はあるのでしょうか?

交友関係を徹底的に調べる必要があるかもしれないですね。

そう考えた私は指示を出してさらに情報を集めることにしたのでした。