軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約指輪

「ありがとうございます、アルフォンス・バルカ様。このたびはお嬢様をお救いくださいまして、ヴァンデンブルグ家を代表してお礼申し上げます。こちらは、治療が確かになされたと判断した場合にあなた様にお渡しするように当主様よりお預かりした品です。どうぞ、受け取ってください」

「ありがとう、セバス。でも、いいのかな? 治療費については魔導迷宮の魔石でって話になっていたはずだけど」

「問題ありません。もちろん、治療費はしかとお支払いいたします。こちらは、当主様よりの品でありますゆえ、ぜひ受け取っていただければと思います」

「そうか。それなら遠慮なく」

エリザベスの治療が終わった翌日のことだ。

体の調子を確認したらしいセバスが俺にお礼を言ってきた。

どうやら、エリザベスの状態を見て、すぐにもう問題なさそうだと判断したようだ。

今まで他の者たちもしっかりといい状態を保っているからこそだろう。

そして、お礼は言葉だけではなく物でも示された。

ヴァンデンブルグ伯爵家からの贈り物。

なんだろうかと思って、受け取ったその場で中身を見ることにした。

上品な箱を開けてみる。

「指輪? しかも、対になっているってことは俺とエリザベスにってことかな?」

「はい。こちらは、ヴァンデンブルグ家が婚姻に際して用いる魔道具の指輪でございます」

「へえ、この指輪が魔道具なの? なにか変わった効果があるってことかな?」

「はい。といっても、指輪を身に着ければ特殊な効果を発揮するというわけではありません。着用者の指の大きさにあわせて自動で最適な大きさに変化するという機能が備わっているのです」

「自動調整? それってすごくないか?」

「もちろんです。ブリリア魔導国は伝統的に魔法陣や魔道具を用いる国です。そのなかでも、自動調整の魔道具を作れるのはヴァンデンブルグ家のみなのですよ。この婚約指輪は非常に耐久力の高い金属に寸法自動調整の魔法陣を組み込んでいることで、生涯にわたって使い続けることができる一品として知られています」

セバスのちょっとした指輪の話が披露された。

ブリリア魔導国では婚約時や結婚時に新たな夫婦で指輪を交換しあう風習があるらしい。

そのときに作った指輪は大切にされる。

が、人の体なんて変わるものだ。

今の俺ならまだ成長するだろうし、大人になれば太る人もいるだろう。

あるいは、老人になればやせ細ることもあるかもしれない。

そんなときに若いころに作った指輪をつけていると、指から外れなくなって焦ることや、あるいは指が細くなりすぎてすぐにずれ落ちて無くしてしまうということもあるらしい。

が、それはこの指輪では起こらない。

常に装着者の体の大きさに最適化された状態になるので、外れたりずれるどころか、身に着けていることすら忘れてしまうくらいなのだそうだ。

そのため、婚約指輪を作るならヴァンデンブルグ家に頼め、と言われることもあるのだとか。

指輪を見る。

金属部分の内側に細かな模様が描きこまれていた。

それは魔法陣だ。

これが装着者の寸法に自動で調整をしてくれる機能をもたらしているのだろう。

ブリリア魔導国ではこういう便利な魔道具というのがある。

が、これはそのブリリア魔導国の中でもヴァンデンブルグ家にしか作れない。

というのも、魔法陣は基本的に秘匿されているからだ。

この指輪の内側表面に見えている模様も暗号化されているものにすぎない。

この模様をそのまま見えるままに真似ても意味がないのだ。

実は、ブリリア魔導国というのは国全体で魔法陣の管理をしているのではなく、各貴族が自分たちだけの魔法陣というのを開発して持っていることが多い。

あの魔装兵器は実はブリリア魔導国という国の兵器というよりは、王家所有の兵器というのが正しいらしいしな。

きっと、ヴァンデンブルグ家にも兵器用の魔道具なんかもあるんだろう。

「いいものをもらった。ってことは、正式にエリザベスと俺は婚姻を結ぶってことでいいんだよね?」

「もちろんでございます。後日、正式に婚姻を執り行いましょう。ただし、こちらの誠意を示すためにも先に指輪を納める形をとることで、ヴァンデンブルグ家の意志は固いということになります。受けていただけますか?」

「もちろん。でも、いいのか? この指輪から魔法陣の解読をして、自動調整の魔法陣を俺が手に入れるかもしれないよ?」

「ははは。暗号化された魔法陣を解読するのは難しいですよ。この自動調整についても、同じです。今までに解読できた者はいないとだけ言っておきましょう」

セバスが自信を持ってそう言った。

たしかに、暗号化は本来解読できるものではないらしい。

貴族院でもそう習った。

元の魔法陣とは全く違う、原型のない模様に変換されてしまうからだ。

が、それをできる存在がいる。

アイにこの指輪を見せてみよう。

自動調整ができれば、鎧なんかに使ってみたらどうだろうか。

金属鎧は各個人の体に合わせた調整を行わないと着ることもできないけれど、自動調整の魔法陣が組み込めたら話が変わってくる。

鬼鎧みたいな便利な防具が出来上がるかもしれない。

思った以上にいい品を受け取り、俺は思わず顔がほころんでしまったのだった。