軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

病と穢れ

心の臓を冒す病。

かつて、俺のいるオリエント国でもそれなりにいた病人たち。

だが、その数は今は減り、もうほとんど見かけなくなっている。

それがまさか、またその病気の話を聞くことになるとは思わなかった。

人体に存在する心臓は全身に血を送る重要な器官だ。

それが悪くなっていくうえに、治療をしても効果がない。

徐々に体が衰えていき、最終的には死に至る。

そのため、この状態になった者は不治の病に侵されたと言われていた。

が、今は違う。

もう、原因がはっきりとわかっているからだ。

この病気の原因は化粧品だ。

それもそこらの化粧品ではなく、高級品として扱われているソーマ教国製の化粧品がそれにあたる。

女性ならば誰もが気になる美容の薬。

その美容効果が非常に高いと評判で、どこの国でも人気がある品だった。

しかし、これが相当な悪さをしていたことになる。

この化粧品は呪いがかけられていた。

ただのおまじないの呪いなどではなく、魔法や魔術に近い、禁呪と呼ばれるものだそうだ。

かつて、ノルンが言っていた。

大昔にいた呪術師が、穢れをバラまく不死者について研究していたのだという。

そして、その研究の結果、生まれたのが禁呪だ。

禁呪を用いて作られた化粧品は、使用すると徐々に肉体を穢していき、死に近づけていく。

その禁呪を使うことができるのは、ソーマ教国だけだった。

この穢れによる病は、いくら治療しても治らない。

というのも、心の臓が悪くなるのは結果でしかないからだ。

穢れによって悪くなっているのであって、心の臓に対しての治療はしょせん対症療法にしかならず、根治できることはない。

つまりは時間稼ぎにしかならない。

それでも、と希望を持たせるためにソーマ教国は延命薬も販売していた。

こちらも禁呪を用いて作られたものらしい。

が、これは化粧品よりもさらに高い品だった。

それこそ、オリエント国内でも優秀な職人だったガリウスが私財を投げ売ってでも払えなくなるくらいの金額だ。

しかも、延命薬は終わりがない。

使用すれば不治の病であれども生き長らえさせることはできるけれども、それでも治すことはできないのだ。

だが、妻や娘の命がかかっているとあれば、少しでもと可能性を求めて延命薬を買い続けることもあるだろう。

もともとが高額な化粧品を買い求めて使用しているような家庭でしか起こらない症状というのもあった。

不治の病に冒された者は、どこからか現れた延命薬をちらつかせる売人に金を渡し続け、場合によっては犯罪などの協力関係に組み込まれてしまうこともある。

オリエント国でそんな不治の病が消え去ったのは、俺が、というか魔剣ノルンがいたからだ。

もともと、血を扱う専門家のような存在で、しかも大昔から人の血を吸ってきたノルンは、その穢れを取り除くことができた。

ノルンを使って患者から真っ黒になった血を抜き取ることで、その症状を緩和し、治すことができるのだ。

そして、その穢れた血を見せてから、原因はソーマ教国製の化粧品にあると説明して、最終的には取り扱いを禁止するに至った。

しかも、その穢れているけれども効果は高い化粧品のかわりに、バルカ製の化粧品まで作って販売もしているくらいだ。

こうして、オリエント国ではほとんど見ることが無くなった症状だが、遠い地であるブリリア魔導国ではまだまだ健在のようだ。

多分、ヴァンデンブルグ家もここまで詳しく知らないのではないだろうか。

俺のことを調べる過程で、俺が不治の病を治して、そしてソーマ教国の化粧品に原因があると発表したことまでは知っているだろう。

が、呪いや禁呪、穢れのことについては知らないのだろうと思う。

というわけで、それらについて詳しく説明した手紙をヴァンデンブルグ家に送ることにした。

セシリーから手紙で知らされただけで、本当にその化粧品による症状をエリザベスが持っているかどうかもはっきりとは分からないが、その可能性は十分以上にありそうだしな。

案外、エリザベス以外にも患者はいるかもしれない。

オリエント国ではそういう金を持っている家庭の妻や娘に治療をして治すことで、伝手を増やしたり、貸しを作ったりもしたからな。

エリザベス以外にも患者がいれば治療できることを書き添えておく。

どうやら、その手紙はヴァンデンブルグ家に大きな衝撃を与えたようだ。

海を使った商売などもあり、俺が思っている以上にソーマ教国との商品のやり取りなんかもあるのかもしれない。

治すことのできない病気。

日々、体力が落ちて弱っていく女性たち。

しかも、いいところの家庭ばかりに出るのだ。

そう考えると、小国よりもブリリア魔導国のような大国の貴族家のほうがそれが大きな問題になるのかもしれない。

ヴァンデンブルグ家の女性は心の臓に不治の病が発症する確率が高い、などという話が出回るだけでも困るからだ。

そんなことになれば、ほかの土地の貴族などとの婚姻を結ぶことも難しくなるからな。

俺が詳細を記した手紙を送ってから、すぐのことだった。

それこそ、手紙が届いて即座に行動に出たのではないかと思うくらいの早さで相手は動いた。

遠く離れたオリエント国に、何人もの心の臓に病を患った女性が来ることとなったのだった。