軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大渓谷にて

バリアントで何日か休んだ。

そして、いよいよアトモスの里へと向かうこととなった。

霊峰の麓というには奥深いバリアントからさらにヴァルキリーに乗って移動すること数日。

そこまで来ると、それまでの風景がガラッと変わってきた。

大渓谷だ。

それまでの森林地帯を抜けて、いつしか木々がほとんどない場所へと景色が変わる。

普段はきっと地肌が見えているのだろうけれど、今の冬の時期は雪が地面を覆い、場所によっては崖になっているところに気づかないこともあることだろう。

一歩踏み間違えただけで谷底に滑り落ちる可能性もあるわけだ。

なかなかに怖い場所でもあるが、一緒に来ていたイアンはそうは思っていないようだった。

「なつかしいな」

「ほんとに? っていうか、よくこんなところに住んでたよね、アトモスの戦士たちって。絶対冬とか困るでしょ。食べ物も全然なさそうだしさ」

「まあな。それはそうだ。だからこそ、戦える者は戦場に出る」

「それで傭兵の一族ってわけね。けど、それもアトモスフィアがあってこそだろうね。普通に考えたら、絶対こんなところに住む必要ないだろうし」

アトモスの戦士たちは戦場で稼いだ金で仕送りでもしていたんだろうか?

どうやってこんなところで冬を越したのかと思ってしまう。

もしかして、迷宮核であるアトモスフィアの近くで生まれ育ったアトモスの戦士たちは、寒さに強かったり、食べ物が少なくても平気だったりするんだろうか?

そんなふうに思ってしまうような場所だった。

だけど、やっぱり故郷なんだろう。

俺からしたら住むのは厳しそうな環境であるはずなのに、イアンはうれしそうな顔をしている。

どんな場所だとしても生まれ育ったところというのは特別なんだろうな。

俺の場合は、生まれたところがすでに地上には無くなって、空の上に飛んでいったからそういう気持ちってあんまり実感できないんだけど。

けど、大丈夫だろうか。

イアンをここに連れてきたのはいいけれど、今回の目的は精霊石であり、そのための手段は許可を得たうえでの盗掘だ。

別に戦うわけではない。

もしかしたら、採掘中にブリリア魔導国の兵と出くわすこともあるかもしれないけど、そこはきっちりと落ち着いた対処をしてもらう必要がある。

いくら奪われた故郷を占領している相手だといっても、ここで暴れられたらまずい。

そう思った俺は、改めてイアンへと注意を促しつつ先へと進んだ。

その先で、何人かの兵が待ち構えていた。

風を凌げる場所でブリリア魔導国の兵がいたのだ。

「はじめまして。グレルモン国で魔石および地質研究を行っているケイモンです。このたびは、地質調査の許可をいただいて誠にありがとうございます」

「勘違いするな。我々は許可など出していない。我々の警備は完璧だ。この地を嗅ぎまわる不届きものがいれば、必ず見つけ出すことになるだろう。月のない夜には気を付けることだな」

「はい。重々承知しております。では、失礼いたします」

出会った兵にたいして、声をかけ、さっと懐から袋を出して手渡した。

その袋を開けて中を見た兵が口元をにやりとしてからうなずき、返事をする。

今回許可を得たのだが、馬鹿正直に自分の名前を名乗ることはしていない。

小国家群にある適当な国の者だと偽って金を渡したわけだ。

実際にグレルモンという国は地質を調べる者がいたりするので、特に疑われたりはしないようだ。

俺みたいな子どもが主体となっていることも、貴族の道楽とでも思われたのかもしれない。

まあ、まともに素性を調べるような真面目な奴なら、こんなふうに金を稼ぐようなこともしないだろう。

新月の夜までは目をつぶってくれるようだし、それまでは存分に精霊石を探させてもらうことにしよう。

兵にあいさつを済ませた後、さらにその奥へと向かっていった。

「どうしますか、バルカ殿? 私の魔力を使って地中を探すにしても、思った以上に大きく広い渓谷ですよ。いくら魔力を込めた魔石を持ってきているとはいえ、適当に探した場合、見つけられるかどうか分かりませんが」

「そうだな。イアンはどうだ? どのあたりを探せば精霊石が見つかりそうかとか分からないか?」

「ふむ。どうだろうな。大地の精霊が宿りし石は大地の精霊が宿りし偉大なる石に近いほど多くあったはずだ」

「アトモスフィアがもともとあった場所に近いほうが精霊石がある確率は高いってことかな? でも、アトモスフィアって高さ三百メートルくらいのでっかいやつだっただろ。それをブリリア魔導国も見ているはずだから、そこの場所は最重要でおさえられているんじゃないかな? さすがに多くの兵がいる場所の近くで盗掘ってわけにもいかないぞ」

どうやらブリリア魔導国の兵はこちらについてきたりはしないようだ。

精霊石が見つかるわけはないと思われているのだろう。

が、それでもなにをしているのかを時々見にきたりはするかもしれない。

それが兵の多いところであれば頻度が上がってしまう可能性もあった。

さすがに、それはまずいだろう。

ラッセンの力は見られないほうがいいのだから。

となると、アトモスフィアがあった場所からはそれなりに離れていた場所で鉱脈を探す必要がありそうだ。

【アトモスの壁】の高さよりもはるかに深さのある渓谷の底に降り立った俺たちは、どこから手を付けるかをしばらく話し合ったのだった。