軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バリアントの風景

「あの、本当にいいんですか?」

「何がですか、ラッセン殿?」

「何がって、その今回我々が行く場所とやることについてですよ。あのブリリア魔導国の支配地に魔石を盗みに行くなんて本当に大丈夫なんでしょうか。しかも、バルカ殿は話によるとブリリア魔導国の貴族との縁談も持ち上がっているみたいですが、下手したら破談になることもあるのではないですか?」

「大丈夫でしょう。普通に考えて、雪の降る冬に小国家群にあるオリエント国からアトモスの里に行けるはずないですからね。バレなきゃいいんですよ。なにか言ってきたら、そんなこと知らないって言っておけばいいんですよ」

ヴァルキリーに無理やり騎乗させたラッセンがアトモスの里へと向かう道中に話しかけてくる。

どうやら、ここにきて不安が出たみたいだ。

大国が持つ土地に精霊石という魔石を奪いに行くことにたいして、本当に大丈夫なのかとしきりに聞いてくる。

そのたびに大丈夫だと答えた。

まあ、確かに普通ならばその心配をするだろう。

あの大国ににらまれるようなことをするのは、常識的に考えると得策ではないからだ。

ただ、アトモスの里はブリリア魔導国の本国とはかなり距離が離れた場所でもある。

霊峰の麓に近い位置であり、しかも、渓谷になっていて、食べ物を育てられる土地でもなかった。

むしろ、よくそんなところにアトモスの戦士たちは住んでいたなと思うような場所なのだ。

だからこそ、なんだろうな。

アルス兄さんが初めてアトモスの里に行ったときには、ブリリア魔導国の第三王女である、今のカイル兄さんの妻シャーロット様が軍を任されていたのだそうだ。

本国から距離がある以上、どうしても情報の伝達が遅れる。

なので、現場監督ができる人を頭にすえておいたのだろう。

結果としては、それは魔導国側にとってどうだったのかは微妙だけどな。

「え、しかし、それならなおのこと不安ですよ。本当に大丈夫なんですか? そんなところに行って、勝手に魔石を採ろうとしたりしているのが見つかったら、問答無用で攻撃されてしまいそうですが。しかも、今回そこに向かうのって私たちだけなんでしょう?」

俺の説明にたいして、逆にラッセンは不安が増したみたいだ。

現場で強い指揮権を持っている人間がいて、そいつが軍を任されて土地を守っている。

そんな場所に行くのはやはり不安だということらしい。

「大丈夫ですって。それより、ほらそろそろ見えてきますよ」

「え、なにがですか?」

「あれです。バリアントから出てきた連中が俺の言うことをよく聞く理由の一つですよ。ほかの土地では絶対に見られないでしょうね」

「……あ、あれが。凄い。本当に存在していたんですね。空の上にある城。あれがバリアント城ですか」

「そうです。バリアントにようこそ、ラッセン殿」

いつまでも不安そうな顔をしていたラッセンを一瞬にして黙らせることができるもの。

それは空飛ぶ城だ。

地上を走るヴァルキリーがとある峠を越えて視界が開けた。

そこに広がる風景はまさに神秘的なものだった。

白一面の世界。

隣には死の山として認識される霊峰があり、少し見下ろす形で深い稜線が続いている。

が、そのなかでひときわ異彩を放つのがバリアント城だった。

天を衝く霊峰の山々ほどは高くはなく、しかし、地上からは絶対に届かない場所に小山をひっくり返したような土地が浮いている。

あるいは、お椀を返したような形だろうか。

そんな宙に浮かぶ土地の上には城があるのがこの峠からは見えるのだ。

道中でも出現した魔物が存在する大自然。

そのなかに、人工物でありながらも、明らかに人の手には余る建築物を見せられて、ラッセンは言葉に詰まっていた。

あまりの光景に感動したのか、呼吸すらも忘れているんじゃないかというくらいだ。

「驚いたようですね。それより、ほら、行きましょう。あのバリアント城の下には小さいですが街もあるでしょう。あそこが今日の俺たちの寝床ですから早いところ向かいましょう」

「あ、ああ、失礼。分かりました、行きましょう」

そんなラッセンの背中を叩いて先へと促す。

ふたたび動き出した俺たちが向かうのは、空に浮かぶ天空の城、ではない。

あそこは天空王国の土地であり、今は鎖国中だからな。

以前までは、城の上にエルビスたちが住んでいて、そこから飛行船などで地上と行き来したりもしていたが、今はそれも無くなっている。

なので、あそこに上がることはできないというわけだ。

が、逆に言えば地上部分のバリアントという街は天空王国の所属ではない。

ある意味で、ここは独自の統治が行われている街ということになるのだろうか。

一応、ここもエルビスが管理していたこともあり、今もまだ俺たちの影響が強い場所ではあるのだけれど。

「そうなのですか? てっきり、バリアントというのはバルカ殿の土地なのかと思っていました」

「ここはちょっと特殊な場所なんですよ。なので、天空王国でも俺たちでもなく、独自の自治領みたいな扱いにしているんです」

「それはなぜです?」

「前まではここでブリリア魔導国と取引が行われていたんですよ。天空王国が鎖国化して、外国との国交を閉ざすまではね」

「え、それってもしかしたら今もこの街にブリリア魔導国の人間が入ってくる可能性があるということになりませんか?」

「そのとおりです。で、天空王国とは繋がらなくなった今でも、魔導国側と連絡が取れる場所でもあるってことですね。今日はバリアントで体を休めて、明日はそいつらと連絡を取ることにしましょう」

かつて、小さな集落しかなかったバリアント。

しかし、今では大きな勢力になっている。

もともと、東方で魔法が広がり始めた一番最初の土地であり、しかも、ここに住む者はエルビスによって軍のような厳しい訓練が行われたからだ。

そのため、こんな未開の土地にはあり得ないような力を持った集団が存在している。

というか、バルカ傭兵団の出だしもそいつらの存在があったからだしな。

そして、そんな力を持つ存在がアトモスの里に駐留している軍と無関係ではなかった。

というか、向こうはある意味でお得意様らしい。

というのも、このバリアントは冬の時期では分からないが、かなり水田が増えていて、米を作っていたからだ。

ようするに、大渓谷にいるブリリア魔導国の駐留軍はこのバリアントからも大量の米を買っていたのだ。

そのために、向こうの軍人とは伝手がある。

と、いうわけで、バリアントに到着した俺はすぐにその米の売買でやり取りしている人間と会う機会を作ることにしたのだった。