軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

布教の条件

『明けましておめでとうでござる、アルフォンス殿』

「明けましておめでとうございます。結局こっちには戻ってこれなかったんですね、バナージ殿」

『そうでござるな。まあ、アルフォンス殿にお借りしたヴァルキリーならばこの冬の気候でも動けるのでござろうが、拙者はさすがに寒いでござるからな。それに、ようやくこちらでの話し合いが進んできているのでござるよ。今オリエント国に帰るのはちともったいないと思っていたのでござるよ」

早いもので、年が明けた。

今年はガロード暦ならば十三年で、俺はもう十二歳になる。

結局去年はほとんど戦いが発生せずに終わってしまった。

俺もオリエント兵を引き連れて各地の工事に出たり、【ラッセンの獄炎釜】を利用した新しい製鉄所の街を作り始めたりしただけだった。

平和すぎる。

多くの人間を使って地形を変えていくのは、それはそれで面白いけれどやっぱりちょっと物足りない。

が、それとは対称的に忙しかったのはバナージだろう。

バナージはオリエント国を出て、各国を回っていた。

最初はソーマ教国の動向を探るために小国家群の中を動いて情報収集をしていたが、いまはそこから移動しブリリア魔導国にいる。

そして、そこで新年を迎えることになった。

自宅に帰る暇もないという感じで、多分去年一番働いたひとりじゃないだろうか。

そんなバナージが魔導通信器を用いて連絡をとってきた。

わざわざ新年のあいさつをするだけあって年明け早々の連絡だった。

離れた地にいながらこんなふうに挨拶をすることになるとは思わなかったな。

だけど、それだけじゃないはずだ。

なにか伝える必要のある情報があるからこそ、通信してきたのだろう。

「なにかあったんですか。もしかして、バルカ教会のことについて、ブリリア魔導国で進捗があったんですか?」

バナージからの報告ならば、やはり一番に思い当たるのはそこだろう。

なぜなら、バナージはバルカ教会の布教活動の許可を得るためという目的もあってブリリア魔導国に向かったのだから。

ついでにいろんな仕事も並行して進めているだろうけれど、こちらにとって最も気になるのはまさにそこだった。

『そのとおりでござる。結論からいえば、条件付きであればバルカ教会の布教活動についての承諾を得られるところまでは話が進んでいるのでござるよ』

「お、本当ですか。それは凄いですね。でも、どんな条件なんですか? あんまり無理難題を出されたんだったらさすがに受け入れるのは難しいかもしれませんけど……」

『うむ。無理難題といえるかどうかは、アルフォンス殿次第でござろうな。ずばり言うでござるが、アルフォンス殿は結婚をする気があるでござるか?』

「……はあ? 結婚ですか? もしかして、布教活動の許可不許可の条件が俺の結婚ってことですか?」

『そのとおりでござるよ。アルフォンス殿がブリリア魔導国の貴族家筋の女性と婚姻を結ぶのでござる。しからば、その貴族が治める領地、あるいは、そことつながりのある貴族領や騎士領ではバルカ教会の布教活動を認めるというところまで話が進んでいるのでござるよ。もっとも、最終的に決めるのはあくまでもアルフォンス殿でござるが……』

「なるほど。ようするに政略結婚ってことですよね。けど、ちょっと判断が難しそうですね。バナージ殿からみて、それって俺にとって得が大きい話かどうか意見が聞きたいんですけど」

『拙者の意見でよければ話すでござるよ。この話は普通に考えるのであれば大賛成でござる。オリエント国は一個の国ではあるでござるが、あくまでも小国家群にある弱国のひとつでござるからな。そこの人間がブリリア魔導国の貴族家と縁を結べるのであれば、すぐに承諾の返事を返すべきでござる』

「……その言い方だと、微妙な感じがしますね。なにか気になる点があるってことですか?」

『勢力争いでござるよ。ブリリア魔導国は大国であり、帝国や教国とも渡り合える力のある国でござる。が、実はここ数年ほど、表面化していないだけで水面下でブリリア魔導国内部では争いが起こっているのでござる。そして、アルフォンス殿に婚姻の話が舞い込んできたのはその勢力争いも関係しているのでござる』

「つまり、俺がブリリア魔導国の貴族相手と結婚したら、その争いに巻き込まれるかもしれない、と。で、それは俺の立場、つまりオリエント国国防長官兼護民官という地位を通してオリエント国にも関わってくるかもしれない、ってことですか? バナージ殿が言いたいのは、俺がその話を飲んだら布教の許可をもらう代わりに弱国であるオリエント国がそれに巻き込まれることを心配しているってことですね」

『そのとおりでござるよ。もしも、関係を持った相手が勢力争いに負ける側になれば、当然オリエント国も敗者となるでござる。今のオリエント国は魔道具を作るという点でブリリア魔導国から注目をされているでござるからな。万が一の場合、我が祖国は窮地に立たされるかもしれないのでござるよ』

ふーむ。

思い付きでバルカ教会をブリリア魔導国にも出せないかと思っただけだったけど、思わぬところへと話が転がりそうだ。

というか、結婚か。

俺は今は自分の力で役職を得るまでになったけど、実家を追放されているんだけどな。

普通、そんな相手と先祖代々血を受け継いで魔力量を高めてきた貴族家の者が向こうから婚姻を結ぶ話を持ち出すとは思えない。

ってことは、結構旗色が悪い相手がそれを言い出してきているんじゃないのだろうか。

どんな状況になっているのか、さらに詳しく話を聞くために、新年の祝いのごちそうを口にしながら引き続き魔導通信器を使ってバナージと話を続けたのだった。