軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

噴火

「アトモスの壁。全員、壁を建てろ。岩が飛んでくるぞ! 壁に隠れるんだ」

ラッセンが岩盤に穴を開けた次の瞬間、地面がうなり声をあげた。

ドドドッという音と振動が地中から響き、そして、次の瞬間には火柱が大きく上がった。

一目見て、これは井戸採掘が何らかの理由により失敗したことを悟った俺は、すぐに声を上げる。

ほとんど【威圧】にも近いような魔力のこもった声を周囲に伝播させたおかげで、周りの者も反応できたようだ。

ここにいる川の付け替え工事は仕事を求めて働きに来た者たちが多いが、中には俺と一緒に戦場に出たオリエント兵もいる。

まずはそういった奴らが自分たちの身を護るためにも、無条件で俺の声に反応したのだろう。

地面に手をついて、各々に使える【アトモスの壁】や【壁建築】を使用した。

そのおかげで、【整地】されて見晴らしがよくなっていた平地に次々と不揃いの壁が建つ。

ドンドン、ガンガン、という恐ろしい音をたてて空から墜落してきた岩などがそれらの壁へと当たる。

万が一のことを考えて、穴からは距離をとっていたことが幸いしたみたいだ。

一度、穴から火柱が上がり、それと同時に地中から噴き出した岩が地面に降り注ぐ際には放物線を描いていたのだ。

そのため、真上から岩が落ちてくるわけではなく、斜め方向に飛んできて、それらは壁によって阻まれた。

だけど、恐ろしい威力だ。

火柱と一緒だったからか燃えたような真っ赤な岩が壁に激突する様は、もはや戦場でよりも命の危険を感じてしまった。

「負傷者を確認しろ。動ける者はけが人を運んで後退だ。急げよ」

しばらく、壁の後ろで恐怖を味わった後、頃合いをみて次の指示を出す。

岩の噴出は今は少し落ち着いているらしい。

壁に叩きつけられる岩の音が減ってきていた。

運悪く怪我をした者を無事な人間に運ばせてさらに距離をとる。

どのくらい離れりゃいいんだろうな。

「ワルキューレ。悪いけど、そこら辺を走り回って壁を追加してきてくれ」

「キュー」

一応、もう少し安全を確保するためにもワルキューレに魔法を使うようにお願いした。

これから走って逃げる俺たちは地面に手を付けないので魔法が発動できない。

それに対して、ワルキューレならば移動しながらも魔法を使える。

あちこちに建てられた乱雑な壁の隙間を塞ぐように、ワルキューレには走り回りながら【アトモスの壁】を建てるようにお願いする。

そして、それを見て、俺も撤退することにした。

「ラッセン殿、これはいったいどういうことだ? 油が吹き上がるんじゃなかったのか?」

「わ、分かりません。水用の井戸であれば、あれでも十分に安全を確保できるというか、怖がりすぎだってくらいの安全配慮だったのですけど……。それがまさかあんな噴火みたいなことになるとは」

「おそらくは、密閉空間での圧力の高さが問題だったのでしょう。ラッセン様はあれほどの油だまりを長い縦穴から一気に飛び出させる作業を以前にも経験されたことがあるのですか?」

「い、いえ。実はあんなに深い場所にある油をとる作業っていうのは初めてで。岩盤の中に油がたまっているというのも特殊でした。もう少し浅いところとかだと何件かやった経験があったんですけど……」

「アイはあれが何で起こったか、分かるのか?」

「いいえ。検証が必要です。ですが、可能性の一つは仮説として立てることができます」

「説明してくれ」

「はい。もしかすると、縦穴を通過する油が、上昇する際の圧力や摩擦などにより引火したのではないでしょうか。そして、それは一気に地中の油にも広がった。地面の中で油が燃えて、それが出口を求めて地上へと噴出した可能性があります」

「……そんなことがあるのか?」

「分かりません。が、試験管内の液体を加熱する際に突沸という現象が起こることは報告されています。急激な加熱による液体の噴出は現象として認められている以上、それが地中の油でも起こる可能性は否定できません」

「ふーん。けど、それじゃあなにか? 地面の中にあった油全部に火が付いたってことか。それもう、油の回収とか無理じゃね?」

よくわからんが、どうやら油は燃えたみたいだ。

地上で火気厳禁にしていたのに、燃えるなんて運が悪かったとしか言いようがないな。

「も、申し訳ありません。このような失態を招くとは……。どう責任を取ったらよいのか……」

「あんまり気にしなくていいですよ、ラッセン殿。油が手に入らなかったら残念ですけど、まあ油くらいどっかでアブラナでも植えて搾り取ればいいんですし」

「し、しかし、損害も出ているのでは? 私にはそれを償う方法がありません」

「うーん、そこまで気にするなら、あとでなんか罰でも受けてもらいましょうか。ま、けど、たいした損は出てないですし、大丈夫でしょ」

けが人がいるようだけど、そもそも、残って見学していた奴の責任だしな。

大量の油が手に入らないというのはもったいないけど、それだけだ。

壁を作り終えたワルキューレが俺のもとに戻ってきたので、その背中に乗る。

ほかの人よりも高い位置に頭がきたことで、後方を振り返る。

もう岩は飛んでくることはなさそうだ。

どうやら突発的な問題で一過性のものだったみたいだな。

一応、火事が広がったりしないようにもう少しだけ現場を確認しておく必要はあるだろうか。

ラッセンが開けた穴もどうなっているか知りたいしな。

しばらく撤退し安全圏に逃げられたと判断した俺は、その日はそこで待機し、翌日に現場を確認することにしたのだった。